薔薇のマリア(10)黒と白の果て

薔薇のマリア X.黒と白の果て (角川スニーカー文庫)

薔薇のマリア X.黒と白の果て (角川スニーカー文庫)

ストーリー

ルヴィー・ブルームにクラン・昼飯時(ランチタイム)のメンバーを人質に取られたアジアンは、彼の主催する「ゲィム」に挑むことを余儀なくされる。しかもそのメンバーは他のクランの人間を含む混成部隊・・・その中にはマリアローズユリカの姿もあった。
一つ目の怪物・アクゼルに導かれるままルヴィーの計画したゲィムに挑むマリアローズ達。しかしその戦いはただの戦いではなかった。ひたすらアジアンを痛めつけるためだけに用意された「ゲィム」。果たしてマリアローズ達はこの戦いを無事に乗り越えることが出来るのか。そしてアジアンは?
7連戦を一気に片づけるアジアン編とも言うべき連作の決着の話です。

戦いの一冊です

「ゲィム」の名を冠した殺し合いという様相を呈することになるのですが、最初の一戦目からアジアンが出ることになります。しかしその戦いはアジアンを嬲るためのもので・・・マリアローズはイヤでもこの「ゲィム」の目的を知ることになります。
戦うアジアンの背中を見ながら、マリアローズはアジアンに対する感じ方を少しだけ改めることになります。

もしかしたら、僕は勘違いをしていたのかもしれない。そうなりたいとか、なるといいとか、そんな気持ちはこれっぽっちもなかったけれど、いろいろあって、その結果として、あいつとの距離が近くなったような気がしていた。どういう間柄か、あいつをどう呼べばいいのか、ずっとわからなかったし、今もわからないけれど、名前をつけようとすれば何かつけられるんじゃないかと思いはじめていた。
たぶん、ぜんぶ気のせいだった。
あいつは遠い場所にいる。すごく、遠くにいる。遠くにいるあいつのことを、僕は何も知らない。

アジアンが亡くしてきたもの、アジアンが手に入れようとしてきたもの、そうしたものを改めて正面から見つめようすることになります。マリアローズとアジアンの関係に一つの転機が訪れたと言うことなのかもしれません。それが何を生み出すのか、まだ分かりませんが・・・。

本作は

マリアローズを除く7名の「ゲィム」参加者の視点と、マリアローズの視点を行ったり来たりすることによって綴られていきます。
そうしてプレイヤー達の心情が描かれていくことになるのですが・・・その辺りの描写が非常に丁寧で良いですね。
プレイヤー達はそれぞれの理由を胸に戦いをしていくわけですが、各人ごとにそれが全く違う。でもちゃんと理由になっている・・・こういう事は一人一人のキャラクターの肉付けがきっちり出来ていなければ出来ないことでしょう。
・・・例えば・・・。

おまえに会いたいと思った。あの瞳に射貫かれたい。その瞬間を思うと胸が締めつけられた。俺は自覚せざるをえなかった。
お前を失いたくない。
生きていて欲しい。
死ぬな。
死んでくれるな。

こんな風に思う人物がいるかと思えば、

そんなあなたを、仲間として、友だちとして、わたしは誇りに思う。
あなたから学んだことがたくさんある。

あるいは、

ぜんぶあの子のせいだなんて思ってるわけじゃないわ。
あいつの自業自得。そう言えなくもない。
でも、あの子は知っておくべきなのよ。

なんていう風に。
それぞれがそれぞれの想いを胸に抱きながら、それぞれの戦いに挑んでいきます。この辺りの描写については正直圧巻ですね。適度に緊張感を高めながら無駄なく描写している感じがあります。

いずれにしても

この10巻で一つのけじめとも言える展開が起きるのは間違いありません。
全てがオープンになるわけでもありませんし、新たな伏線が張られたりもしますが、アジアンについてはカードが概ねオープンされたと考えていいのではないでしょうか。
・・・以前はアジアンのことがあんまり好きではなかったんですけどねえ・・・こういう姿を見せられてしまっては嫌いになれません。こうなると今後の作品内でのアジアンの扱われ方も変わってくるのでしょうか。ま、極限愛(ラヴ・マックス)とか言い続ける感じは変わらないのかも知れませんが。

総合

星4つ。
星5つには届きませんでしたが、圧倒的なボリュームで魅せてくれましたね。
とにかく1ページ辺りの文字数の多いこのシリーズ、読み始めにはちょっと気合いが必要でしたが、読み始めてしまえば最後まで駆け抜けるのはあっという間でした。やっぱり安定して面白いです。
BUNBUN氏のイラストも安定していますね。特に表紙のマリアローズは魅力的です。吸い込まれそうな橙色の美しい瞳、うっすらと開かれて何かを言いたげな桜色の唇・・・。多くのキャラクターがマリアローズに魅せられるのが何となくわかるような気がしました。

ところで

作品内容と大きく関係ありませんが、本編中でのマリアローズの述懐にこういったものがありました。

いくら語彙が豊富でも、適切に使われないかぎり、徹底的に無駄だ。
伝わらない言葉に意味なんかない。
伝えたい思いがあるのなら、わかりやすい言葉で、はっきりと口に出すべきだ。
伝えられない思いなら、鎖でがんじがらめにして胸の奥底に沈めてしまえばいい。

つい先日私が書いたエントリで言いたかった事って結局この4行で書けてしまうんだろうなあ・・・なんて思うとちょっとむなしい気持ちになりましたね〜。