とらドラ8!

とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

あの冬の夜以来

何かが変わってしまったはずだった。
竜児の恋は実る前に刈り取られ、大河の想いは口に出すことが出来ず、実乃梨の微熱は板挟みのまま押しこめられ、亜美の気持ちはその聡さのため動けず・・・。クリスマスイブは何もかもを粉々に砕け散らせて通り過ぎていった。
そして、どん底のまま年を越した竜児の前に、しかし、大河は現れる。

「逃げるんじゃない」

大河は”一つの秘密”以外を竜児に打ち明け、そして竜児に再度の奮起を促す。そのためには自分ももっと大人になるんだ! という決意をして。でも・・・。新しい始まり。でもそれは新しい傷口を作る始まり——。
もうコメディでごまかすことは出来ない!
もう気持ちを隠すことは出来ない!
注目のシリーズの最新作、爆・誕です!

上に書いたとおり

殆どの隠し事が露わになってしまう最新刊で、もうコメディで誤魔化せない最新刊です。
激動の最新刊のような・・・予想できた最新刊というか・・・なんとも言えない気持ちにさせられますね。別に血で血を洗うような戦いの話でもないのに、体じゅうのどこかが痛いと悲鳴を上げるような作品です。
青春時代のあの頃、自分の周りを取り巻いていたあの何とも言えない緊張感がこの本から降り注ぐという感じです。

この最新刊で

特徴的に感じたのが、男子と女子の衝突ですね。
「なんで分からないの!?」という女の子たちと、「分かるかそんなもん!」という男の子たちの衝突です。女の子側では亜美がその象徴的な存在ですし、男の子側では北村がその象徴的な存在でしょうか。
でも、本編での某人物の述懐にあるとおり、上の二人に限らずどいつもこいつもバカ、なんですよね・・・。分かっても分からなくても、悲しいほどにバカ。誰かが全面的に悪いという事にでもしない限りどこにもやり場のないバカさ加減です。それがとても上手く、丁寧に書かれています。だからこそ、とてもやりきれない・・・。
どのキャラクターも、とても我が儘で、そして優しい。だからとても魅力的なのです。誰か一人を悪者に出来たらどれだけ良かったでしょう。

誰も彼も

伏せ続けている「たった一枚のカード」=「自分の本当に気持ち」に胸を突かれます。
それさえなければもっと話は単純だったでしょう。でもいつの間にか・・・それは優しさだったり臆病さだったり労りだったり聡さだったり・・・と原因は様々ですが、とにかく状況は絡みに絡みまくって、今や誰か一人の決断でどうこうなる事態を超えつつあります。
いや、たった一人だけこの状況を何とか出来る人物がいるのですが、その人物が動き出すのはもう少し先でしょうか・・・。私はその人物が動くのは多分、10巻辺りだと思います。そして10巻で完結なんじゃないかと思います。
あの優しい人がもう少しだけ自分の内側に目を向けて、そして自分が全ての台風の目になっていることを自覚したとき、きっと物語は最終局面に入っているはずです。そこからはきっと怒濤の展開が待っているでしょう。

総合

星4つ。
星は減っていますが、評価は今までとそう変わりません。
ただなんとなく「次への助走?」という感じがしたので抑えめにしただけです。あまり多くは語りませんが、相変わらず面白いことだけは間違いないです。今のライトノベルにおいてここまでストレートに少年少女達の恋愛模様を描いた作品は他にはないでしょう。
コメディの味付けで読者を欺き続けていた作者が、遂に「本当はシリアス」の牙を剥くのがこの8巻、ですかね。水面下での戦いはもうずっと前からドロドロだった訳ですが、この話でついにその地下のエネルギーが地上に吹き出しました。ある二人のキャラクターの喧嘩にそれは現れています。本当はもうずっとこんな感じだったんだよ・・・と。
果たしてそれはマグマとなってゆっくりと流れていくのか、あるいは火砕流のように一気に駆け下りるのか、そこまではまだ分かりません。・・・が、きっと竹宮ゆゆこの事です、凄まじい展開を用意しているに違いありません。
今はただその噴出を待ちながら——この感想の筆を置こうと思います。

感想リンク

一応以下にも個人的なコメントを書いていますが、完全なネタバレのため、「続きを読む」にしておきます。作品を未読の方は注意してください

各登場人物について

この8巻でもまた細かいレベルで色々な動きがありました。その辺りをまとめておきたいと思います。

逢坂大河

ラストシーン近くで北村と間違って竜児に「秘密にしていた自分の本当の気持ち」を口にしてしまいます。ある意味これで・・・大河にとっての秘密は全て竜児に知られるところとなってしまいました。
しかしラストシーンまで読んでから最初の方を読み直すとまた違った感じがするから不思議なものですね。落ち込む竜児を突き放す大河、ひどい言葉を投げかける大河、時には暴力的な事までしてしまう大河・・・でも、どうでしょうか。大河の本当の気持ちが竜児に向かっていることを前提に読み返すと、全然違った大河の姿が見えてきます。
自分の好きな少年が、自分とは別の女の子に振られて落ち込んでいる・・・それを目の当たりにしてもなお、最終的に大河は自分の本当の気持ちを押し隠して「竜児のため」を願って言葉を投げかけています。それの健気なことといったら・・・!
それを考えたら、それより前の多少の厳しい態度などほんの気の迷いみたいなものですね。大河、いい子ですね・・・。

櫛枝実乃梨

今回の展開を見て、彼女を悪く思う人もいるのかも知れません・・・。
でも、彼女は彼女で板挟みになって苦しみ続けています。友情と、恋慕の板挟みです。そうした状況に置かれた彼女が今回とった態度は・・・強いて言えば「無かったことにする」を望む後ろ向きなものではありましたが、同じ状況に置かれた時、どれだけの人が彼女と違う選択肢を選び、奪うべきを奪い、傷つけるべきを傷つける事ができるでしょう?
ラストシーンでは自分の選んだ選択肢によって彼女自身も深く傷ついていることが描写されます。一体どうしたら実乃梨は良かったのでしょうか? きっと誰一人として傷つかない回答を見つけることができなかった彼女は、どうしても立ち止まらざるを得なかった・・・そんな風に思います。

川島亜美

彼女は今回も自分の想いを口にすることも、また行動で示すこともありませんでしたが、それ故に苦しい立場です。
大河の気持ちも、実乃梨の気持ちも、あるいは竜児の気持ちまでをも正確に知ってしまえる聡い彼女は、そのどれ一つとして蔑ろにすることが出来ず、全く身動きが取れない状況に追い込まれてしまっています。
だからつい、実乃梨を挑発する・・・そこには嫉妬も含まれているのでしょうが、それ以上に何もすることが出来ない自分に対しての苛立ちがあるのだと思われます。
彼女は今回竜児に一つの決着とも言える「絶交」を言い渡しますが・・・それは明らかに自分に対する罰なのだろうと思えます。竜児と亜美の関係にとって、絶交で苦しむのは間違いなく亜美その人なのですから・・・。