コピーフェイスとカウンターガール

コピーフェイスとカウンターガール (ガガガ文庫)

コピーフェイスとカウンターガール (ガガガ文庫)

ストーリー

天体観測部というひなびた部活がある。部員数は去年まで4人だった。
去年の部長は早川早苗という天衣無縫とも言える自由気ままな女子生徒で、天体観測どころかやりたいことしかやらないというかなりいいかげんな性格をしていて、その部員であった平良良平(たいらりょうへい)を好き放題引きずり回しては楽しんでいた。
しかし、そんな早苗も高校を卒業。新たな部長となった良平は天体観測部を今後どうしようか悩んでいた。今年の部員は自分を含めてたったの2名。このままでは天体観測部は無くなってしまう・・・。
しかし、どうせ活動らしき活動をしていない部である。なるようにしかならないと部員の勧誘もせずに過ごしていたのだが、そこへ一人少女が現れる。しかしそれはどう見ても卒業したはずの早苗ではないか。
何の冗談だろうと思った良平だったが、少女は早苗と違ってあくまで固い雰囲気を崩さない。いろいろと聞いていくうちにその少女が早川早希という早苗の妹だと言うことが分かるのだった。
なんだか普通から「半歩」だけずれた設定と、「半歩」だけずれたキャラクターが織りなす、奇妙な青春ストーリー。

なんという

佳作感。
余りにも佳作なので是非一度手にとって読んで欲しいとまで思わせるほどに佳作です。
でもこれだけだとさっぱり訳が分からないと思いますので、どうしてこの作品がそんなに佳作なのか? を「良いと感じたところ」と「悪いと感じたところ」で語ってみたいと思います。

良いと思ったところ

キャラクターの立ち方がとても良い

・・・というか、会話の軽妙さと次の読めない感じがいいですね
主人公の平良良平はどこにでもいそうな高校生なのですが、どうもちょっとだけボケています。しかしそれはいわゆる天然ボケとはっきり言えるような類のものではなくて、ちょいボケくらいなのですね。

「褒められているのか、けなされているのかよくわからない」
「十人並みってことですね」
「そこまで言われると逆に褒め殺しだよ」
「……は?」
「……ん?」
しばらく妙な間があった。
「平良さん、もしかして十人並みのことを、いい意味だと思っていますか?」
「……え、あ、いや。どうだろうね」

・・・なんですかねこの微妙な勘違い。いかにもありそうな生々しい勘違いとでも言いましょうか。
ボケキャラと言うにはボケが普通すぎるんですが、そうではないと言うには時々外しているという妙な半熟感。
しかしライトノベルのボケキャラにありがちな「鈍い」という要素は持っておらず、ちゃんと人の気持ちを読めたりすると言う・・・うん、妙な生々しさを持っているんですね。このキャラクター造形は非常に良いと思いましたね。

また

本編のヒロインとなる早希もいい味を出しているキャラクターです。

「この変な人の言っていることは本当ですか?」
「まあ嘘ではない」
「遺伝子組み換えではない、みたいな言い方ですね」

なんか「……そうくるか」という感じがセリフからしますよね。読者の予想を「半歩」だけ裏切るこの描写が何とも良いのです。他にもそうした描写はありまして、

「……ニンジャ」
「え、なんだって?」
「い、いえ、なんでもありません」

ニンジャがどうしたのかは是非読んで確認してもらいたいですが、私は読んでいて「おお〜」となりましたよ。似たようなことやりましたねぇ・・・人知れず・・・。
これだけ読むとただの変人みたいですが、早希もやはり「半歩」だけ普通からずれている感じなのです。可愛らしい少女なところは可愛らしいまま、でもそれだけでは収まらない個性がちゃんとある。この辺りが素敵なのですね。生々しく可愛いのです。

悪いと思ったところ

地の文が

非常に読みづらいのです・・・!
プロローグが終わって本編に入ってから数ページで一回放り出したくなりました。
・・・難しい言葉遣いをやり始めた素人の文章みたいなんだもん・・・。会話部分以外でのリズム感が最悪だなあと思いましたね。
ただし、この本は会話が殆どを占めている本なので、後半になるとその読みづらさは殆ど無くなるのです。しかし物語序盤、導入の説明じみた部分は異様なまでに入れられた改行によって短文が連続し、まさに「高校生の一行感想文」みたいです。
・・・わざとやっていると思うんだけど、なんでかなあ・・・この方が読みやすいと思ったのかなあ・・・。

・・・ちょっと調べてみたんですが

序盤の約20ページまでは会話文を除いた地の文で、文章が一番下まで行って折り返したことが僅かに3回しかありません。それ以外は全部「〜した」「だった」といった言葉で締めくくられる短い文章の連続で埋められます。
これが猛烈にリズムがないのね! 会話部分は軽妙なテンポを持って進む分、この地の文はあまりにも鈍重なので読んでいてしょっちゅうつまずいてしまいます。

  • 会話部分:追い風に乗ってサイクリングロードを走るスポーツタイプの自転車
  • 地の文:でこぼこアスファルトと格闘するママチャリ

といった感じです。これさえなければなあ・・・!

総合

応援の意味も込めて星4つつけておきます。
良いところと悪いところで相殺しあった結果、「とっても佳作」なのですが、光る部分もありますのでこの星にしました。もし続きが出たら・・・買いますな・・・。
天体観測部での活動を中心に、平良良平と早川早希の二人の青春で普通な展開が待っているかと思いきや、後半から何やら雲行きが怪しくなってきて・・・いきなりの親族会議。タイトル通り「コピーフェイス」の恐怖が襲いかかります。この辺りもちょっと普通の作者には無い発想かも知れませんね。
そして対するカウンターガールの行動は? というところが見所なんですが、読んでもらわないとこの話の妙はちょっと伝えづらいですね・・・と言うわけで、お金に余裕のある方、読んで下さい。一緒にこの話の「佳作感」に身悶えしませんか?
イラストは博氏ですね。鉛筆で書かれたようなイラストが持ち味みたいですが、なかなかに良かったと思います。最初の方こそ「イラストが白すぎる・・・!」と思ったもんですが、見ていくと「動きがあって結構好き・・・」になりました。カラーイラストも悪くないですし、良いんじゃないでしょうかね?

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