マージナル(4)

マージナル 4 (ガガガ文庫 か 1-4)
マージナル 4 (ガガガ文庫 か 1-4)神崎紫電  kyo

小学館 2008-08-20
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ストーリー

殺人嗜好や死体愛好家などのアンダーグラウンドの住人の集う会員制サイト・ブラッディユートピアの管理人でありながらも、一人の若者としての顔も持ち始めた摩弥京也。彼はここしばらくの出来事を経て、新しい選択をしたのだった。
ブラッディユートピアの管理人・”ヴェルツェーニ”を、辞める。
それは自分の中にある殺人嗜好を否定して、普通の若者に戻ろうとする試みに他ならなかった。この試みは彼の秘密を知る南雲御笠という存在の力によって上手く行くかに見えた・・・。
しかし、彼の背負った業がそれを簡単には許さない。京也が信頼に足るとしてブラッディユートピアの管理人として後を任せた顔も知らぬ同好の士・スターマインが突如として京也に叛旗を翻す! それは京也の住む街全て、そして親しい人を巻き込んだ恐怖の爆弾テロの始まりの合図だった・・・。
境界線上で踏み止まる者・マージナルと、踏み越えてしまった者・オーバーラインとが繰り広げる、過酷で陰惨な戦いを描いた問題作の4巻です。

今回はまた

特にえげつない展開できましたね。
上でも少し触れましたが、今回は殺人事件とかそんな生やさしい展開ではありません。いや、殺人事件だって充分にえげつないわけですが、それを上回る展開が待っています。それが無差別テロですね。これ以上最悪なものは存在しないであろうというチョイスです。
今までの話では殺人事件のターゲットは特定の誰かという展開でしたが、今回はそれすらありません。まさしく卑劣、非道、悪辣を地で行っていますね。
結果として犠牲者の数もうなぎ登り・・・というか比較にならない数字です。全国で死者39人、重軽傷者282人・・・最早殺人事件とかというレベルではないですね・・・。
マージナルからオーバーラインへと踏み出した逸脱者・スターマインと、マージナルから正常の人間へ踏み出した回復者・ヴェルツェーニの死闘はかつて無い規模と緊張感で展開します。

そして

一歩を踏み出したとは言え、相変わらず京也が危険人物であることには変わりありません。
好意を持つこと=殺したいと思うこと、である彼がヒロインである御笠に向ける視線はやはり陰惨なものです。多少の変化は見られましたが・・・。

——もう、一時たりとも彼女のそばにいたくない。
いままで覚えたことのない感情に当惑する自分が、逃げ出せと叫ぶ。
——もう、一時たりとも彼女のそばを離れたくない。
対を成すように、彼女を大事に思う自分がそう叱咤する。

以前なら恐らく前者は「逃げ出す」ではなく「殺してしまいたい」だったのではないでしょうか。京也にとって「愛すべき人間」とは「殺したい人間」と不可分だったはずですから。
しかし、今回はそこに微妙な変化が見られることになりました。しかし、それが今回の悲劇を呼び込むことになるのですから・・・これは一つの、業・・・あるいは「呪い」とでも言うべきでしょうか。

しかし

京也というのは魅力的な若者ですね。大きな矛盾を抱えた存在ほどその内面の葛藤を知ったら魅力的に見えるのでしょうか。
「知的な獣」というのは確かに魅力的な存在でしょう・・・言葉を解する精悍な豹でも思い浮かべてみてくれれば分かりやすいのかも知れません。
猟奇殺人を扱っている超有名作品に出てくるレクター博士とかもそうですが、知的ながら食人鬼という矛盾を抱えています。その右手に好意に値する資質を持ちながら、左手には唾棄すべき破綻者としての顔を持つ・・・しかもその二つの要素はその人物の内面において決して分かちがたく結びついているのです。
ただ、こうした存在が現実に存在していたら堪ったものではありませんね。私だったら「余りにも大きな矛盾をその内側に抱えたその存在」を全力で攻撃するでしょう。恐らく不気味に思いますし、そして危険すぎますから。フィクションだからこそ許せる存在というのは、確かにあります。
しかしまた同時に、京也を含めた彼ら”人の捕食者”は等しくミステリアスで「つい惹きつけられる」存在であります。その深淵は深く、容易に底を見ることが出来ません・・・それ故余計に人は覗き込みたくなるのでしょうか。

総合

星4つですが・・・。
面白いのですが、それは笑えないような危険との隣り合わせで・・・私にとって「物語だから」と読み飛ばせる範囲を時々逸脱するからです。ヴェルツェーニとスターマインに等しく流れる負の連鎖。血に棲みついた汚濁。それらは正視できる範囲を時々超えます。
現実世界にも彼らと同じような「呪い」を身に刻まれた存在がいることを知っていることと、自分がその被害者になる恐怖を感じざるを得ないため、どうしてもこの物語は諸手を挙げて歓迎できなくなるのです。それが一つ目の理由ですね。
もう一つは全体で見たとき「いくらなんでもそれは無茶よね〜?」という箇所が何点かあったためです。これは読めば多分違和感として残るんではないでしょうか。展開のネタバレになってしまうのでここでは書きませんが。
ところで今回、京也の「心の天秤」は一体どちらに動いたのでしょうか。呪いを討ち払う程の祝福は得られたのでしょうか。出来ればそうあって欲しいものですが。
しかし、結果としてそのために払われた代償は大きすぎました。呪いは新しい呪いを産み落とし、また一人恐ろしい復讐者を作り出しました。負の連鎖は止まるのか。・・・いや、止まらないからこそ人と言えるのか。・・・なんとも後味の悪い展開でした。