ANGEL+DIVE(2)

ANGEL+DIVE 2 (2) (一迅社文庫 し 1-2)
ANGEL+DIVE 2 (2) (一迅社文庫 し 1-2)十文字 青

一迅社 2008-08-20
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ストーリー

雪の降る街で彼らは出会った。
13歳の少年・日比野夏彦トワコは何か得体の知れない運命に導かれるようにして出会う。お互いに何か惹きつけられるものを感じながら。
そして異様な戦いを経てトワコは保護され、夏彦の幼馴染みの相良希有(さがらきょう)の家に居候する事になる。そうして日々は過ぎていった。日常が帰ってきた。夏彦と仲の良くなった美少女姉妹・真鳥依慧/織慧(まとりよりえ/おりえ)も相変わらずだった。工藤桜慈という女たらしの友人も新しく出来た。少しばかりの事件はあったものの・・・。
しかし、トワコの存在が何か奇怪なものを呼び寄せる。平和な世界の裏側に潜んだ怪異は、薄皮一枚を挟んだすぐ傍に常にあった。少しずつ浸食されていく世界。ひび割れゆく世界。夏彦達の世界は薄墨を流し込んだ水面のように陰っていく・・・。
異様な静謐の中で進行する魔術世界を描いた異能ストーリーの2巻です。

もの悲しいです

何がもの悲しいかというと・・・主人公達が子供である事がとてももの悲しいのです。
寒い雨の降る夜、トワコという名前の弱った捨て犬を見つけてしまった少年少女達が、子犬を連れ帰って助けるあてもなく、かといって見捨てる事も出来ず、ただみんなで寄り添って暖めあっているようなもの悲しさです。
夏彦はただただその子犬に魅入られてしまったが故にその場に留まり続けて子犬と一緒に土に帰ってしまいそうだし、依慧と織慧は夏彦を手伝いたいと思い知恵を巡らせるけどどうしても子供故に無力だし、希有は夏彦が大好きなので離れる事が出来ずに途方に暮れて雨に打たれている・・・そんな悲しさがあります。
一見どこまでも強くなれそうなキャラクター達で、生き生きと動き回っているように見えるのに、誰一人として弱くない人物がいません。

本編では

そんな子供達の日常を描く事にかなりのページを割いています。ほとんどと言ってもいいかも知れません。
しかし、1巻と変わったところもあります。

  • トワコと夏彦の関係に嫉妬してしまい、夏彦との距離をどうやって取ったら良いか分からなくなってしまう希有。
  • 自分たちを捨てた父親が見つかったものの、優しくない現実を前に途方に暮れてしまう依慧と織慧。
  • 自分の居場所が見つからずに夏彦に縋り付いてしまいそうになるけれども、それが許されない事だと知っているトワコ。
  • そして、トワコに不思議と惹かれるものを感じながらも、希有を気遣い、依慧と織慧を自然と支える夏彦。

誰も悪くないはずなのに、どうしても彼らの頭上には重苦しい雲がかかっていて、恐らくそれはトワコが連れてきてしまっているのです。彼女自身は少しも望んでいないのに、です。

また

物語は魔術的にも動きを見せます。
謎めいた存在である「エンジェルダイブ」とは一体何を指しているのか? 謎の力を持つ依慧たちを指すらしい「ディジェネレーター」とは一体何なのか? そして「この時代の人間じゃない」と言うトワコは一体何者なのか? 謎が謎を呼んだまま本編は静かに進んでいく事になります。
エンジェルダイブが一体何を指すのかは全く分かりませんが、ディジェネレーターは恐らく「degenerate」が元になっているのでしょう。「退化するもの」や「堕落するもの」といった意味でしょうか・・・。
とにかく、物語はまだ日常の陰に隠れて本当の姿を現しません。しかし1巻と同じようにラストでは未来の夏彦たちが描かれます。そして彼らの置かれる状況は想像以上に悪そうであることが示されます。それは「まだ描かれない過去」に何か悲劇が起こる事を読者に予感させます・・・。

総合

うーむ、星4つかな・・・。
何でしょうか、物語は相変わらず序盤というか準備期間という印象を拭えませんが、読ませます。
特に大した出来事を配さなくても、夏彦たちを取り巻く「過ぎ去った過去」はノスタルジックで儚い空気を伴っていて、読み進めると胸に幽かな痛みと共に染みこんでいきます。それが――楽しいとは言えないまでも――ページを捲らせるのです。
物語はこれからどう動くのか全く分かりません。思わせぶりな未来の描写も気になります・・・ですが、無力な少年少女にどうか少しでも優しい未来が待っていればいいと、一読者として願わずにはいられません。
もし、過酷な未来が避けられないとしても、どうか彼らに戦うために立ち上がる力を残しておいてくれますように。

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