丸鍋ねこ改造計画(仮)

丸鍋ねこ改造計画〈仮〉 (MF文庫J (な-03-04))
丸鍋ねこ改造計画〈仮〉 (MF文庫J (な-03-04))七位 連一

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ストーリー

丸鍋ねこは美少女である。
しかし丸鍋ねこは、喜ばない。怒らない。悲しまない。楽しまない。徹底的とも言えるほど心の動きを外に見せない少女であった。いつでもどんな時でもそれは変わらなかったのだった。
しかも丸鍋ねこには変な噂までつきまとっている。曰く、近づこうとすると災厄が襲いかかるというものだ。
しかし、ねこのクラスメイトの春田リクにはなんだかそれが気に入らない。とても気に入らない。
どうにかして丸鍋ねこの本性を暴いて、暴いて、暴き立てて、ねこの感情がドンドンドコドコとだだ漏れになっているところを是非とも見てみたいのだった。それはもう、どうしようもなく見てみたいのだった。
そういったよく分からない衝動に支配されたリクの手によって計画は発動される。数名の個性的なクラスメイトを巻き込んで。その名も——「丸鍋ねこ改造計画(仮)」である。
痛くて堪らんネ! と一部で評判だった「地を駆ける虹」の作者が送る、コメディ作品です。

スロースタートなので

序盤はガマンして読みましょう。」という事をまず書いておきたいですね。
私はこの本を作者買いしましたが、ちょっと序盤は話のノリがまだ良く分かっていなかったという事もあって退屈でしたねえ。
コメディなんですけどなんと言いますか・・・えー「寒い」んです。はい、コメディ作品として致命的な評価ですねコレ。
でもそれを感じるのは、そうですねえ・・・「プロローグ」と第一章くらいまででしょうかね。主人公のリクがどんなヤツなのか、この作品ではどこまでアホが許されているのかという所が分かってくると普通に楽しめるようになります。という訳で、皆さん、序盤はガマンです。

とにかく

話としては上に書いたとおり丸鍋ねこという少女の心をなんとか動かしてやろうとリクという馬鹿が全力で馬鹿をする話です。
まあ正直同作者の別シリーズがシリアスだったので余り期待していなかったのですが・・・おやおや!? ノッてくるとこれ面白いじゃない? 変な言い回しとかも多用されていて脳みそのどこかが痒くなるような笑いがあちこちにあるじゃない? とか思ったりするようになります。
という訳で幾つか参考例を挙げてみます。

建国より16年と7ヶ月——春田リク王国は未だ恋愛途上国である。
ラブ資源は掘ればたんまり出てくるはずなのだが、残念ながら貿易のお相手をしてやろうという心優しい国はまだ現れていない。

ここで一句。
「ラブ資源 掘れば出るだけ いいじゃない」

「いいかよく聞け」
エラっそうにチカの鼻先に指を突きつけ、支配者の笑みとともにリクは断言した。
「——あらゆる歴史上の人物は美少女だ」
「……議長?」
とうてい正気とは思えない主張に、チカの表情がかわいそうな子を見つめるときのそれになる。
「議長……おっしゃる意味が……」
「考えてもみろ。万有引力だぞ? そんなすごい法則を発見した人物なんぞ美少女に決まっているではないか!」

リクという少年の脳内物質の出方がどの方向に偏っているのかこの文章で何となく理解して頂けるでしょうか。ちなみにチカというのは白崎チカというこれまた美少女ですが、リクの相方とも言える悪ノリクイーンでもあります。
もちろん他にもなかなか優秀な人材がそろっておりまして・・・。

「あ、だっ、誰が食べていいっていったの! あなたのエサはトウモロコシを砕いた粉末肥料でしょう! 満足げに人間サマの食べ物食べてるんじゃないわよ!」
そんなユデダコみたいな顔で言われても何の説得力もない。しかも言葉とは裏腹に手はカラになったカップに伸び、おかわりを注ぐ。
コポコポコポ……。
「お、サンキュ」
「罰として口から尻まで鉄串を貫通させなさい! じっくり炙ってこんがりローストの刑にしてあげるわ!」
なんていいながら今度はリクの口元を拭おうとする。ぐいっぐいっ。

人呼んで「言行不一致ツンデレ」の蘭(あららぎ)ひょうさんです。罵倒と同時に繰り出される凄まじいいじらしさと甲斐甲斐しさ。新しいタイプの女性像と言えるかも知れません。

なんと言いますか

説明に困るのがコメディ作品の難点ですかね?
とにかくこんな感じの脳みその弾けた主要人物によって丸鍋ねこ改造計画は進行するのです。ちなみにカラーイラストのところにもちょびっと出てきますが、あくまで「改造計画」です。「攻略計画」とかではないところがミソですね。
ですので、べつに主人公のリクは丸鍋ねこさんと仲良くラヴな感じになってチョメチョメしたいとかそういう野望は特に持っていません。

「野望は持っておらぬ。しかし、タナボタ的なイベントは期待しているぞ——」

強いて言えばこんな感じです。妙に味わいのある発言風にしてしまいましたが特に意味はありません。
で、計画は全4つとなりまして「笑わせよう計画」「恥ずかしがらせよう計画」「キュンとさせよう計画」「怒らせよう計画」となっています。まあそのまんまやないかとか言われそうですが、本当にそのまんまなので気にしない方がいいですが、

「コイン ヲ イレテ クダサイ」

とかって発言を某キャラクターがする辺りから物語はさらに迷走を始めます。丸鍋ねこに近づくと何故災厄が襲いかかるのか? その謎が解かれるとき、物語はもう本当にいい加減な方向に突っ走るのです・・・。

総合

星3つだけど・・・サービス込みで星4つ!
はたして丸鍋ねこさんはリクの前で心を開いてくれるのか!? ぱんちらはユネスコ世界遺産に登録されるべきなのか? 離乳食を卒業したらもう合法なのか? などなどの不思議を孕みつつも本当にくっだらない感じで物語は進みますが、最後はなかなかな所に軟着陸してくれます。「おお〜?」という感じでしょうかね。
とにかく余り深く考えずに読んでみると良いんじゃないでしょうかね? 読んでいて最初は難儀するかも知れませんが、途中辺りで「グフッ」って感じの笑いが口から漏れたら後は楽しんで読めると思います。
うん、まあこれはこれで綺麗に纏まっている作品ですが、次も書けそうかな? 2巻が出たら買うと思うに一票。というか、この作者シリアスよりコメディの方が相性がいいと思うね俺は。あと全然関係ないけどSD文庫の「アキカン!」が楽しめる人ならこの本も波長が合う可能性があるね〜。

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