カッティング 〜Case of Mio Reincarnation〜

カッティング~Case of Mio Reincarnation~ (HJ文庫 は 1-1-4)
カッティング~Case of Mio Reincarnation~ (HJ文庫 は 1-1-4)翅田大介  も

ホビージャパン 2008-09-01
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ストーリー

相坂カズヤ(あいさかかずや)は西周ミオ(にしあまねみお)と出会ったことによって人生の方向が変わっていく。
悪意を持った姉弟の陰険とも言える仕掛けから些細な行き違いを起こした彼らは、一つの間違いから大きく道を踏み外してしまう・・・その「事件」はカズヤの身に起こった、本来ならあり得るはずのない出来事だった。
カズヤが巻き込まれた命に関わる事故・・・そしてあの恐るべき技術「B.R.A.I.N.complex」の施術・・・。結果として自己を見失ったカズヤは、ミオを傷つけるかのように行動し始め、あてのない彷徨を始める・・・。
生と死をストレートに扱った青春群像の続編です。3巻の正統な後編である本巻のサブタイトルに付いたのは「Reincarnation」 。これは「再生」という意味を持つ言葉です。

本編と

直接関係があるかないか分かりませんけど、若いって事は良いことだなあとか思いましたね。
生きることを夢見るのも、そして死ぬことに想いを馳せるのも、全てが新鮮で新しい・・・という感じがしみじみとするんですね。いや、もちろん私も死んだことはありませんのでいつまでたっても未経験ですが、それでも死ぬことを想うのは既に珍しいことではないのですね。
それはネガティブなイメージを持ったものではなくて、普通に「いつか死ぬ」と想い、そして「死んだら残される人がいる」事を考え、「その人たちに何を残せるだろう?」とリアルに考え出している自分には、彼や彼女のストレートな生死感に羨望のようなものを憶えるんですね。
羨望・・・というと少し違うのかも知れません。郷愁、でしょうかね。決して戻らない過去を眩しく想うような、そんな気分です。

今回は

前巻で下ごしらえをした陰謀が実る話でもあるので、主人公のカズヤとミオには辛い展開です。

「————行けよ」
ミオから顔をそむけて自分の爪先を見詰め、強張った唇を震わせながら言葉を絞り出した。
「行けよ! 辛いんだよ! 苦しいんだよ! あんたを見てると! さっさと……何処かへ行ってくれ……!」

あの仲睦まじかったミオに対して、カズヤはこのような言葉を吐いてしまいます。
そしてそれを言われたミオも・・・。

「私は、カズヤを傷つけたいの」

一見すると「泥沼」という言葉が一番似合いそうな気がします。
しかしそれは一つの産みの苦しみとでも言うべきものに私には見えました。いつだって真実は——苦しくて、痛い。それが愛であろうと憎悪であろうとです。
真実という名の果実は最初は苦く、そしてその後甘くなるのです。言わばそれが「大人の味」。

そして

今回も、倒れてしまいそうなカズヤとミオを救ったのは沙姫部みさきです。
まあ彼女もカズヤやミオと大きく違う訳ではないのですが・・・それでも少しだけ彼らより大人なのですね。その狡いとも素晴らしいとも言える「生き汚さ」が、純粋な少年少女をすくいあげるのですね。

「お前は自分が信じられないと言ったな? それは正しい。この世には信じられるだけの価値があるものなんて何処にもない。誰も彼も意味なく生まれ、世界は酷薄で生きる意義も与えてくれない。この世の森羅万象、全ては無価値という意味で等しい」

これだけ聞けばただの虚無主義ですが、ここから続く言葉がそれを裏切ります。

「だから重要なのは、何を信じるかじゃなくて、何を信じたいかだ。それは自分を疑ったヤツにしか分からない。そしてお前は、とっくに答えを掴んでいる。最初から最後まで一貫して、な」

シンプルですけど・・・きっと心に届く言葉ですね。
この言葉に背中を押されてカズヤは立ち上がり、そしてミオと”激突”することになります。

総合

星・・・5つあげちゃおうかな!?
最近この作品ほど「年若いからこそのストレートな苦悩」を描いた作品も無いと思うんですよ。しかしその結構重たいテーマを真正面から受け止めて、ちゃんと解決を提示しているところはとても良いと思いました。絶望もリアルなら、再生もリアルというとても誠実な作りの話になっています。
個人的には最近のHJ文庫で一番おすすめと言える作品だと思うんですね。ノリツッコミやら微エロやら萌えやらが横行する(?)ライトノベル界において珍しくとても素敵に青春している作品です。同じようなライトノベル作品を喰い飽きたと思っている貴方、この作品を読まれてみてはどうでしょうかね?
その根拠としては弱いでしょうが、私の巡回しているラノベ感想ブログの多くがこの作品を取り上げてます。多くの人が感想を書きたくなる・・・多分それは「それだけの価値があるから」って事だと思います。

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