レヴィアタンの恋人(4)

レヴィアタンの恋人 4 (ガガガ文庫 い 2-5)
赤星 健次

小学館 2008-09-19
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おすすめ平均 star
star荒廃する世界と隆盛する学問は両立できるか

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ストーリー

2077年、現代文明が一つの破滅的なウイルスによって跡形も無く破壊されたあとが物語の舞台。
そんな時代の中、調布新街に暮らす人々の武蔵野コロニーは、白河コロニーとの正面衝突を経てこれを撃退。今や白川を征服しつくし、戦後処理へと入っていた。命を含めたありとあらゆるものを勝者へと切り分けて分配するための、戦後処理に。
久坂ユーキタマもその戦後処理のただ中にあって、その憂鬱な行方を見守っていた。未来に想いを馳せながら・・・。
また、遠く関門海峡では、九州を率いる日向コロニーと、澁澤美歌子率いる姫路コロニーが西日本の覇権を競って下関にて衝突しようとしていた。その中にはユーキ(澁澤カヲル)と共に育てられた特進種であるタケルとシュンの姿もあった。
時が流れ、状況は移りゆく、大きな世界の動きに翻弄される若者達の姿を描いた近未来架空戦史の4巻です。

序盤は

上でも書いたとおり、白川コロニーとの戦争が終わった後の戦後処理が丁寧に書かれていきます。
流石に人死にが山ほど出るような展開ではありませんが、その代わりじわじわと憂鬱な展開という感じではありますね。もちろんユーキやタマは勝った側ですので、白川コロニーの全てを手に入れ結果としてより豊かになるわけですが、その裏側で起きているのは容赦のない略奪でもあります。
勝つことは全てを手にすること。負けることは全てを失うこと・・・。戦場の非情な掟によって、街の版図は塗り替えられていきます。ユーキの心にいくらかの忸怩たる思いを残しながら。

しかし

まあ物語全体で見たら東日本は平和な展開と見て良いのではないでしょうかね。ユーキやタマはのほほんと過ごしています。
ただ、そんな中にもいくつか気になる展開があります。

「お前……ずっと調布新町にいるよな? もう、調布新町の住人なんだよな? どこにも行かないで、これからもずっと……町にいるんだよな?」

それはタマの去就。彼は調布新町の食客ではありますが、町に留まり続ける積極的な理由が一つもありません。それはタマ自身もその長い命をもってして感じていることだったりします。
老いない身体・・・不滅の身体を抱え、荒廃した世界を生き抜いてきたタマ。そしてその身体の中に宿るもの・・・それらがタマの心を流れ者のままにしています。
ですが、そんな彼に酔ったユーキが不思議な事を口走ります。

明らかな忘我状態とはうらはらに、はっきりとした言葉がユーキの唇からこぼれた。
レヴィアタンの旗をフォックスが運んでくる」
「……おい」
「逃げないでキリヒト。もう一度翻すの、みんなと掲げたあの旗を」
「……おい!」
「誓いを忘れないで。近衛三兵団は永劫にレヴィアタンの旗のもとに」

タマの生まれと過去・・・そしてユーキと死んだはずの姉の間にある不思議な一致・・・その一端をタマは偶然垣間見ることになります。

また

所変わって姫路コロニー側ですが、こちらは3巻の武蔵野コロニーと同じように戦争ですね。
全くもって血なまぐさい描写そのまま、九州勢との決着を図るために鬨の声を挙げることになります。当然その中には澁澤美歌子、澁澤猛、澁澤シュンの姿もあるわけですが・・・。
こちらも戦争を通じて何か大事なものが変わっていきます。美歌子を呪いながらも、美歌子に対してまた別の思いを抱くようになるタケル。遠く武蔵野の地で自分の生きる場所を見いだしつつあるユーキと同じように、タケルやシュンの生き方も時間と共に変わっていきます。いや、変わらざるを得ない、と言った方がいいでしょうか。

総合

星4つ。
やっぱり血なまぐささがあるけど、面白いんですね〜。爆発的な面白さはないですけど、安心して読んでいられる感じがします。
世界観は憂鬱な近未来ですが、本当に憂鬱になる描写であるなぶり殺しとか、強姦とかというのは上手く隠されていて(十分想像は出来るんですけど)、程よく楽しいところだけ抜き出しているという感じがします。
東と西に分かれてそれぞれ生きるユーキとタケルという「分かたれた幼なじみ」を対比しながら読み進めるのも面白いですし、今まで通りにユーキとタマの関係を中心にして読み進めても面白いし、あるいは武蔵野や姫路のコロニーを大きな視点で見ながらというのも悪くないですし、あるいは澁澤美歌子とタケルの関係に注目するのもアリですか。
つまり、この本一冊で色々な読み方が出来ます。その辺りはやっぱりそれぞれの土地、それぞれの人間、それぞれの立場などがちゃんと書き込まれているからこそ出来る楽しみ方ですね。うんうん。
しかし、今回のラストはもの凄く気になる引きとなってしまいました。これから先、鬼札となる”あの人”は一体どう行動するのか、あるいは西と東の日本はどうなるのか・・・。うーん、5巻が待ち遠しいですね。
ところで、イラストなんですけど・・・これ、もうちょっと何とかならんかねえ・・・。色っぽいシーンはなかなか汁気があって良いんですけど、それ以外の絵となるとからきしというか・・・カラーイラストなんでなんかヌルヌルしているというか・・・うーむ。

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