超人間・岩村

超人間・岩村 (集英社スーパーダッシュ文庫 た 10-1)
超人間・岩村 (集英社スーパーダッシュ文庫 た 10-1)滝川 廉治

集英社 2008-09-25
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ストーリー

妙見宮高校には一人の校内有名人がいる。その名を岩村陽春といい、今年高校三年生になる生徒だ。
彼はアメコミ同好会という一見してかなり地味な部活に参加しており、何か特別なところがあるとも思えない常識的とも言えそうな若者だったのだが、岩村の一つの特徴が彼を「超人間」と言われる理由となっていた。
曰く「彼の前で『無理』とか『不可能』という言葉を口にしてはいけない」だ。
とにかくやってみてもいないのにできないと決めつける行為が岩村は猛烈に嫌いなのだった。そのためなら他の弱小部に助っ人として参加して、無償奉仕するなど当たり前。つい先日も柔道部の助っ人として団体戦に参加したばかりだった。
そんな彼は気の置けない仲間である多村マルカーノの二人と一緒に、毎日をちょっと変な人として過ごしていたのだが、今度は演劇部が廃部の危機にあると聞いて・・・?
ちょっと奇妙な設定で始まる、青春ストーリーですね。スーパーダッシュ文庫の佳作だそうですが・・・。

うん

これは佳作だね。確かに佳作なのね。
正直に言って序盤から中盤に書けての展開は、4つ星ペースだったんですが、後半で失速しましたね〜。いや、それでも読めないという事ではないんですが、盛り上がりに欠けるんですわ・・・。
基本的にこの話は、

  • 「部費を浪費する弱小部を廃部に追い込みたい生徒会」

  • 「『無理』と言われたり、逆境になると燃える岩村とその仲間たち」

という構図で成り立っているんですが、ヒールとしての力が生徒会にちょっと足りない感じもしますね。そこら辺についてはもうちょっとラノベとして思い切ってしまっても良かったんじゃないかと思います。
あと、後半の盛り上がりに欠ける件ですが、選んだ題材が「演劇」というのも良くなかったと思いますね。折角主人公、そしてサブキャラクターが良く書けているのに、彼らが力を出し切るシーンが少なかったような気がします。

うん、

マイナスの部分を先に書いてしまいましたけど、主人公もサブも味のあるキャラクターが多いんですよ。まずは多村から。

星工の柔道部員が、プロレス技のラリアットを多村の首筋に叩き込んでいた。
「ぐぎゃああっー!」
「多村ァッー!」

いや、いきなり死んでいそうですが。死にません。
多村は一見肺病持ちの病弱なタイプに見えるんですが、その実天才肌かつ凄い根性の持ち主の少年として書かれます。上の引用ではアレですけど、文武の両方に才能を発揮するタイプですね。気の良い寡黙な男です。別の意味でバカですけど。
もう一人のマルカーノはその名の通りに純粋な日本人ではない、巨漢です。

「よかった。まだ、理性はあるんだな?」
「へへ……当然だぜ。俺は何があろうと、友達と家族だけは食べない」

食べ物が切れると見境が無くなる困ったちゃんですが、食料がある時は実に気さくな好漢として書かれます。

そして

問題の主人公の岩村ですが・・・。

「石井よ。少なくとも俺の知る限り、人生ってのは、当たり前に無理をせず生きていくと不幸か退屈しか待っていないものなんだ」
「……」
「水の中では泳がないと溺れてしまうように、人生は闘わないと、どんどん悲惨になっていく。俺の経験ではいつもそうだった」
「だが……そうはいっても……」
石井の口調から、ヒステリックな勢いが抜けていく。
「諦めたり絶望したりして、人生は少しでも面白くなるか? 挑戦も冒険もしない人生は楽しいか? どうせつまらない思いをするなら、精一杯頑張って負ける事の方がまだマシだろ。少なくとも、自分の中に誇れるものは残るぞ」

こんな少年です。
無茶苦茶をやって無理を通すというよりは、正面から衝突して可能な限りの力でもってぶち当たる。上手くいけばいい。でも上手くいかなくても決して後悔だけはしない。そんなタイプの少年ですね。

この話は

超能力も魔法も出てきません。ひたすら熱意と気合いしか存在しません。
昨今の萌えブームの真逆を走るような作品です。いやもちろん女性キャラクターは出てきますし、結構・・・なんていうの? 可憐? という感じの印象を受ける良いヒロイン(新聞部の高津五月杉浦夜那の二人)ですが、やっぱりこの話の中心は暑苦しい少年の岩村なのです。
でも、後半は演劇でちょっとパワーが足りなかったのと(上でも書きましたが)、もう一人の主役とも言える高津五月の描写というか頑張りに関する描写が増えてしまって、岩村少年の見せ場が減ってしまった感じがあります。
うーん、もう少し見せ方を考えてくれればもっと楽しくなったような気がするんだけどなあ・・・。

総合

星3つですね。
個人的な印象ではありますが、文章力というか描写力はあると思いますし、キャラクターを魅力的に書くという事も出来ているような気がします。しかし題材の選び方と見せ方が悪かった・・・という印象でしょうか。
正直にいって、五月を登場させるのをやめて、暑苦しい少年3人と、新聞部の少女の杉浦だけで話を作った方が面白かったんじゃないかな〜なんて思います。あと、どうせなら演劇を前半に持ってきて、柔道を後半にした方がより暑苦しくって、それhが持ち味として生きたんじゃないかな〜なんて思います。
うーん、まあパッとしなかった印象はありますけど、なかなかに力のある作者じゃないかと思いますので、次の作品を期待して待とうと思います。
ちなみにイラストはtoi8氏です。いや〜、これは良いですよ。イラストだけでこの話の印象がガッチリと定まっている気がします。気が向いたらちょっとページを捲って最初の白黒イラストを見てみてください。いや〜暑苦しい! こんな絵もこの人って書けたんだ・・・とか思いました。

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