境界線上のホライゾン(1)(下)

境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)
境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)川上 稔

アスキー・メディアワークス 2008-10-10
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おすすめ平均 star
star一人の少女の、”感情”の行方
star中盤のかけひきが難解

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ストーリー

突然の三河の消滅と、それに続く権限の委譲。
それは誰も思わぬ所へと飛び火し、事態は混乱のただ中にあり、しかしそれに反するように極東は静寂に包まれていた。
ホライゾン・アリアダストは自害しようとしていた。それによって三河の不始末に決着を。そして極東の安全を計ろうとしていたのである。自動人形の彼女は、それを粛々と受け入れながら、迫り来るその時を待っていた。自身の消滅の時を。
しかし、彼女のその決断と、与えられた使命に異議を唱えるものもまた存在する。

「お願い! ホライゾンを、救けて……!」

か弱き悲鳴に応えるようにして立ち上がる・・・それは武蔵アリアダスト教導院の面々——つまりホライゾンへの告白をしようとしていた”不可能男”葵・トーリとその愉快な仲間たちだ!
今、世界の行方を決める戦いの狼煙が上がる! GENESISシリーズの2巻が超弩級で発進!

え〜

この本を買ってきて私が最初にやったことがなんだか分かりますか?
殴ったんです。自分の頭をこの本で。気合い一発ゴツンといったんですよ。ものは試しというじゃないですか。結果として判明したことがあります。

  • 川上稔の書き上げた本は、立派な鈍器として通用する。

です。
身を挺しての実験の結果できあがった一つの立派なたんこぶが示すものとは、本気で「境界線上のホライゾン」を使用して人を殴った場合、最悪は頭蓋骨骨折や脳挫傷やらを引き起こせるであろうという事実です。
つーか2巻目にして800ページ近いってどういう事なの? 読者を殺す気なの? 僕の連休はどこにいったの?

でも

読み始めてしまうとアラ不思議。ページを捲る手が止まらないのです。
上巻でたっぷりページを割いて世界観とキャラクターの説明をしたせいか、この下巻はストーリー展開の方に力がはっきりと入っていまして、まあ意味不明というかついて行けないところもあったりはしましたが、それでも読めてしまうのです。
「シャア特盛りつけ麺(通常の3倍)」なのに喉ごし最高なので気がついたら胃がぱんぱんになるまで流し込んでいるという感じです。読めるんです。読めてしまうんです。

それは

設定の難解さを補う会話部分のテンポの良さと、切り口の良さが理由ですかね。

『構図だけ見ると騎士と姫の誓いなんだが、やってること見ると変質者だな』
『それよりなんで胸揉みが成人の儀みたいな位置づけなんだよ』

「……気にするなよ、あの男がまさかエロゲ研究会じゃなく調理部だとは誰も思うまい」
「……幼女幼女と叫んでいるかと思ったら隠れた爪を持ちやがって」
「……お前あんまりいい気になるなよ、って誰か言ってやれよ」
「な、何で小生に厳しいのですか君達は——!?」

「オッパイ会話じゃないトーリ君の話は新鮮ですよね……」
「おいおいおいおいオマエら、俺の人間性を勝手に馬鹿とオッパイだけに決めるな。まるで俺がそんなことしか言ってないみたいじゃねえかよ」
「その通りだよ!!」

うん、なんか変態っぽいところばっかりピックアップしちゃったな。いや失敬失敬。でも、

「いい? アンタはこれからずっと、泣くように生きなさい。笑うときも怒るときも、生まれたばかりのように、産声のように。そしてそれが出来ない人を救いなさい。
人が生まれてから失ったり奪われたりしたものを、——貴方は取り返す生き方をしなさい。
私はそれを手伝ってあげる」

こんなセリフもあるんですよ?
産声をあげるようにして生きる——それがロックンロールの精神でなくて一体何の精神だというのでしょうか。読者は、いや少なくとも私はそこに魅せられます。

総合

星5つにしておきます。
まー感想を長々と書いたところでこの本の魅力の数パーセントも説明できないだろうから簡潔にしておきますけど、難解な設定の裏側に隠されたシンプルな理由、それが多分川上稔の書く作品の魅力ではないでしょうか。
誰にもかけない物語はこの下巻で大海原に飛び出しました。辿り着く先は作者の川上稔を除いて誰にも予想できないでしょう。私はその時として馬鹿なノリを、あるいは時として心を打つ言葉を受け止めながら次を待つことに決めました。
・・・いやあ、また寝不足の日々がやって来るのか・・・このシリーズは休日しか読まないことにしよう・・・危険すぎる・・・。

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