幻想譚グリモアリス2 千の獣が吼ゆるとも

ストーリー

巨大企業の跡取りの立場を持ちながら、一人の妹と地味な生活を続ける少年・桃原誓護(ももはらせいご)の日常は、一人の闖入者の存在によって変化を見せていた。
冥府に住まう人外の頂点に君臨する麗王六花の一人、花烏頭の君と呼ばれる身分でありながら、罪人を裁く役目を負った教誨師グリモアリス)でもある少女・アコニット
だが、彼女は今や冥府の裏切り者。身分も権力も失った彼女は、人界に落ちのびて誓護の元に身を隠していた。しかしそんなアコニットを冥府は放っておいてくれない。新たな刺客が送り込まれると同時に、新たな勢力も台頭する・・・。
誓護とアコニット、冥府からの追っ手、そして人の中に紛れ込んだ第三勢力。幾つもの要素を含んだ複雑な関係の中からただ一つの正解を求めて、誓護たちの人知れぬ戦いは続く――。
富士見ミステリー文庫から移籍してきた異能ファンタジーの2巻です。

いやあ

元もとファンタジー+ミステリーという、細かい設定抜きでは作れないような作品でしたが、いよいよもって入り組んできましたね。また一つここらで整理しておきましょうか。

  1. 冥府の魔力を無効化する力を持つ魔道書・アイギスを手にし、アコニットを匿う桃原誓護。
  2. かつて麗王六花の一人であり、冥府の権力の頂点に存在していたが今や凋落した身であるアコニット。
  3. アコニットの衛士であり、今や数少ないアコニットの味方でもある身体能力に優れた教誨師・軋軋。
  4. 冥府とも、人間とも違った野望を持って誓護に魔道書を託した「閾界(エンデ)の住人」「星帝蔵書(グリモワール)の番人」・星(ステラ)。
  5. 麗王六花の一つアロカシア家に連なる者であり、アコニットを処罰するべく冥府から遣わされた戦士・オドラ。
  6. オドラに仕えながらも、必ずしも心を全て預けているとは言い難いベラドンナ

・・・ちょっと思いつくだけでも

これだけの勢力というか、思惑が入り乱れています。
それに加えて冥府の権力構造とルールや、不思議な魔道の指輪”プルフリッヒの指輪”による過去の断片(フラグメント)ののぞき見、魔力の封印を解除する鍵・アンロキアンの力、さらにはそれぞれの教誨師の持つ特殊な力・・・などなども加わって、真面目に話の整合性やらを追いかけたら大変なことになりそうな気がする状態になっています。
でもまあ、普通に作者の仕掛けを楽しんで読む分にはあんまり問題にならないんですね、不思議と。

多分ですが

富士見ミステリーでこのシリーズが出ていたときは今よりミステリー色が強かったのでしょうね(当たり前か?)。
つまり富士見ミステリー時代は「魔道的な要素や権力闘争などは今より少ないけれども、手を変え品を変え複雑に入り組んだ物語」という感じ。富士見ファンタジアに移ってからは「アクションや魔道要素山盛りの権力闘争や勢力争い山盛りという物語」という感じになっているみたいなんですな。えーっと、シンプルに言えば「作風を上手く変えた」という事なんでしょう。
つまり、作品の持つ楽しさの要素が「謎解き」ではなくて「物語の展開」に切り替わっている関係で、設定が複雑になってもついて行ける・・・そんなところでしょうか。
ま、とにかく楽しんで読めるって事です。

今回は

とにかく新たな刺客が冥府からやって来る関係で色々と忙しいことになっています。

「突き止めて欲しいのよ。この”炎”が誰のもので、殺人が誰の仕業なのか。もちろん、私との契約は覚えているでしょう?」

誓護は人界で起きた謎の人体焼失事件を切っ掛けに、また新たな事件に足を踏み入れることになります。まあその、相変わらず誓護は重度のシスコンなので、今回色々と考えた結果妹のいのりと離れることになった彼は、

「いのりがいないと……さみしいっ」

とかなんとか言ってます。まあ・・・ちょっと変態です。
ちなみに彼はイケメンですが、この病気の関係で学校の同級生の女生徒からは毛虫のごとく嫌われています。アコニットからは、まあその微妙な感じらしいですが・・・。
そういえば、今回は新しい敵が目白押しという感じです。明確な敵、潜在的な敵、味方でありながら敵・・・色々と出てきます。それに相対するのは誓護の知性です。

考えろ。考えるんだ。桃原誓護。もっと冷静に。冷静になれ。
何かないのか。敵の虚を突く方法。卑怯で、狡猾な、型破りの手段。敵の頭の中に――つまりは僕の頭の中にさえ存在しない、禁じ手のような一手を探せ。

コメディタッチの描写をされながらも、誓護の知性は目まぐるしく移り変わる状況を読み取りながら最善の一手を模索し続けます。

総合

星4つなんですね。面白いのです。
この作者の人、実は私の中ではスロースタートの印象のある作家でして、面白くなる材料の揃いきらない本の序盤はいつも「ちょっとノリきらないな」という印象なんですが、中盤から後半にかけてグングンと加速しまして最後の方は手に汗握って読んでいるという感じです。
うーん・・・序盤の勢いがもう少しあれば文句なしの5つ星がつきそうなんですが・・・でも作風から言って仕方がないのかなあ・・・序盤で大量のタネを蒔いて、後半で一気に刈り取るという作風ですからねえ・・・。
今回のラストでは次巻以降で大きな波乱を呼び込むことになりそうな事実が示唆されますし、3巻も現在書いているそうですから普通に続きを楽しみにしながら待ちたいところですね。どうなっちゃうのかなあ・・・ちゃんと奪還してくれないと落ち着かないなあ・・・。

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