黒猫の愛読書(2)聖なる夜の外典

黒猫の愛読書 II THE BLACK CAT’S CODEX 聖なる夜の外典 (角川スニーカー文庫 209-2)
黒猫の愛読書 II  THE BLACK CAT’S CODEX  聖なる夜の外典 (角川スニーカー文庫 209-2)藤本 圭

角川グループパブリッシング 2008-11-01
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ストーリー

地味で目立たない活字中毒の女子高生・紙村綴(かみむらつづり)を襲った一つの事件。それは奇怪な技を使う稀覯本の収集家・猫目コウとの出会いから始まり、そして彼が姿を消したのは事件が終わったのと時を同じくしていた。
以来、彼女の日常は今まで通りの普通の女子高生のものに戻っていた――眼鏡を外してその素顔を晒したことで、一時「絶世の美少女出現!」などと話題になったりしたのだったが――のだった。なんのことはない、注目を集めるのが落ち着かなくてまた眼鏡をかけただけの事だったのだが。
とにかくそんな平穏な綴の暮らしにまた不穏な空気が流れ込んでくる。それは一人の銀色の髪を翻す美貌の姿で綴の前に現れる。あのコウと同じく美しく、そしてそれ以上に凶暴で危険だった。そしてその身に宿した力もまたコウと同じ・・・。
コーデックと呼ばれる異能を持った青年と、ちょっと妄想癖のある少女・綴が織りなす魔道物語の2巻です。

おお〜。

美青年オーラ、ムンムンです。
なんですかねこの少女のドリーム感。いや、少女のドリームではなくて文学少女の妄想たくましい先にある夢というかそんな感じでしょうか? 何しろメインキャラの猫目コウが絶世の美青年として描写されるものですから、特に浮いた噂のない地味な活字少女としてはときめかざるを得ないというかなんというか・・・。

「早速だが君の力を貸してくれ。この”本の声”が聞きたい」
コウがそう言って、妖艶な顔で綴の顔を覗き込み、ニコリと笑みを向ける。
綴はその美青年オーラの直撃を受けて、赤くなってフラフラとよろめいた。

綴は上記の通り”本の声”なる「本の宿す人格の放つ声」を聞くことが出来る希有な異能の持ち主なのですが、こんな感じでいいようにコウに利用されてしまうのです。でも・・・?

く、くやしい……。でも、ちょっと嬉しい……。

コウの奸計にまんまとはまってしまうのですが、まんざらでもない感じ・・・。うーん、少年に置き換えると魅惑的な美女にねだられてついつい頑張っちゃうとか、そんな感じなんでしょうかね?
・・・うん、とっても動機が分かりやすい。でもそういう所が好きですね。

とにかく

個人的にこの話のヒロインである綴が大のお気に入りなんですな。
”眼鏡を取ったら凄い美少女”&”実はスタイルもいい”なのに、地味で暗いところがあって・・・さらには妄想力がたくましくてちょっとアダルトな妄想を展開しては、

「きゃああああああああ〜♥」

とか言って悶えたり、

確かにまんざらでもないよね……。
小さく呟き、綴はキョロキョロと周りに人がいないのを確認してから、ひっそりと密かにポーズをつけてみた。以前にテレビの深夜番組で偶然見かけた、グラビアアイドルのセクシーポーズ……。
確かこんな感じだっけかな? お、なかなか似合ってるかも……。
「素敵なプレゼント、あ・げ・る♥……って! わ、わわわわわわ私は何をしてるんだッ!!」

こんな感じ。
うーん、個人的にこういう少女になんだか悶々とした気持ちを持ってしまいますな! ムッハー!
・・・いや、なんといういんでしょうかその、むっつりスケベっぽい少女にときめく傾向が強いらしくて、結果として妄想たくましい少女にときめいてしまう訳で、そうすると綴のような少女は色々な意味で将来有望な感じなのでいいのですな。
全力で個人的な好みに突っ走っていますが、そういう本の読み方もアリだよね?

まあ

この話の魅力はキャラクターだけじゃないんですけどね。
意外に良く彫り込まれた感じのある世界設定も一つの魅力でしょうか。現代の裏側に潜んだ秘密結社絡みの奇怪な勢力図。それを縫うようにして蠢くコウに代表される魔道書の力を振るう者達・・・。力と力のぶつかり合いも楽しければ、そこに至るまでの粘り腰の効いた文体も良いですね。
ただ・・・今回はちょっとラスト付近の展開が出たとこ勝負の要素が強すぎて、いくら何でも無策過ぎやしないかい? と思ったりもちちゃったんですが、それでも少女の成長物語とからめて読めば、まあ・・・許容範囲ですかね。

総合

星4つですかな。
ちょっと気になる所はあったものの、全体として高いレベルで読ませる本として纏まっている良作だと思います。キャラクターも魅力的なら、次から次へと出てくるネタも切れ目がなく流れて読者を楽しませてくれますしね。
まあちょっとトンデモっぽいのはライトノベルとしてはご愛敬という感じで十分許容範囲しょうか。1巻はクトゥルーでしたけど、今回は聖書と福音書にまつわるネタで楽しませてくれました。
ただ・・・唯一確かに不満だったのはイラストです。イラストのDite氏、カラーイラストのレベルは非常に高いのですが、本文内の白黒イラストだと途端に表現力がチープになります。それでもまだ綴などの女の子は可愛く描けているのですが、アクションシーンのイラストが・・・なんだか気が抜けるほどへっぽこですなあ・・・。次の3巻では全部カラーでやるくらいの気持ちで仕事して欲しいなあ・・・なんて思いました。