超自宅警備少女ちのり

超自宅警備少女ちのり (GA文庫)
超自宅警備少女ちのり (GA文庫)小幡休彌  しゅー

ソフトバンククリエイティブ 2008-11-15
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ストーリー

瀧口譲(たきぐちゆずる)は16歳の高校生。2週間前にこの土地・星見塚に引っ越してきた。
学校もまずまずな滑り出しで友人も出来たし、意外に整っていたこの街は過ごしやすく、平々凡々とした学生生活を至極まともに送っていた。ある木曜日の午後までは。
学校に来ない生徒である梅木ちのりという生徒の家が自分のお隣さんであるという理由から、溜まったプリントを届けてくれと先生に頼まれた事が全ての発端となった。
訪れた梅木家では、件の少女であるちのりが何か大変な事になっていたのだった。彼女は紛う事なき自宅警備員——一般的には引きこもりと言われる——であったのだが、彼女が他と違うところは、本当に自宅を警備していたという事であった。

「ボクを、どうしようっていうんですか」
「ど、ど、どうしようとか、別に、あの……ばったり会っちゃって、なんというか、嬉しさの余り発作的に連れてきちゃったんだけど、ええと、どうしたものやら、あたしも考えてなくて……ど、どうしましょう」

戦う自宅警備員で、かつ重度の変態である少女に引きずり回される譲の青春の行方は一体何処に!? というホームコメディです。

いや〜

キャラクターがカッ飛んでいますな〜!
とにかく主人公の譲の一般人っぷり(実際の所は一般的な少年よりは甲斐性があってなかなかに見所がある)と、それと対比されるようにキワモノになっているヒロイン(?)のちのりが良い味を出しています。

「すんませんでした!」
居間に入るやいなや、ちのりが土下座していた。
「かっ、かっ、かわいい男の子と生まれて初めて一つの部屋に入って、こっ、興奮のあまり、も、妄想と現実の区別がつかなくなって、ついあのような狼藉に及んでしまいました! ほんとにごめんなさい!」

土下座するヒロインなんて、初めてみた
まあ土下座するだけの理由が山盛りなんですけどね。とにかく最初に梅木家を訪れた際に発覚する衝撃の事実の数々。引っ越してきてたった二週間でこれだけでっかい地雷が隣家に埋まるとは、一体だれが想像できるでしょうか?

「あっ、ちのりさん天体観測するんですか。ぼくも時々するんですよー。もうじき、大きな彗星来ますしね。この望遠鏡すごい高級品ですね、いいなあー」
なぜかひどくうろたえて、ちのりは言った。
「ち、違うの! 誤解しないで! それは、譲君の着替えとか寝顔とか盗撮用に置いてあるだけだから! でも見るだけだから! 譲くんの寝姿を見てひとりハァハァ何かワイセツな行為に耽ってるとか想像しないで!」
いやー!!
譲は失神寸前かつ失禁寸前だった。

いきなり訳も分からず暗くて怪しくて散らかった部屋に連れ込まれた挙げ句、堂々の覗き宣言を喰らってますからね。相手が少女だろうとなんだろうと、怖いものは怖い!

とにかく

ちのりはそういう少女ですが・・・まあツッコミ担当のまともな妹・ちさきがいることでなんとか一般社会との接点を持っているという感じですかね。

「姉はあの通り、引きこもってもう数年になります。彼氏は言うまでもなく、お友達もロクにいないんです」
「そ、そうか」
「でも、根は悪い子じゃないんです」
「はあ」
「三次元の男の子を好きになったの、瀧口さんが最初なんです」
「三次元!? 三次元ってなに? どういう意味?」

そう言う意味です。妹がしっかり者で良かったですね〜。

とにかく

一人で部屋にこもっておとなりさんを覗いてハァハァし、かわいい(と思ってしまった)少年とつい出くわしたのでムリヤリ部屋に連れ込んで、もう一歩のところでマチガイが起こりそうな事をやってしまう——。
そんな少女が主人公という段階でもう次の展開が読めなくなりそうですが、それに自宅警備員という要素が加わり、さらに地底人との戦いとかって話になるともう訳が分からないというか、もう物語にとにかくついて行くしかないというか・・・そんな事になります。

直立し、猛々しく腕組みをしたまま、ちのりは吼えた。


「ヒキコモリだと冷たい風に 家事手伝いなら聞こえはいいが
一念発起の履歴書に 書くに書けない自宅の警備
されどやっぱりお家が大事 守ってみせますお部屋の治安


自宅警備少女ちのり、推参!」


バカだ————! あいつバカだ————!

なにしろ自宅警備して地底人と戦ってますからね。もうこのあたりについては、読まないとどんな話なのかさっぱり分からないんじゃないでしょうか。さらには謎の資産家の美少女・冥極寺碧子(みょうごくじみどりこ)やら、近所のうぐいすパンが美味しいパン屋さんの美女三人なんかも登場して・・・もうしっちゃかめっちゃかです。

でも

読んでいて感じるのは、色々な要素が入っている割には混乱しないというところですかね。
バランス感覚が優れているというか・・・一つの要素に割く説明の量が程よくて、しかもそれが読者の脳みそにちゃんと浸透したのを見計らって、次の要素を投下するというリズムの良さを感じますね。
じゃないとこんな話つくれませんねぇ・・・。自宅警備員としてのその複雑な心理を書いて、そこからの復活みたいな少年少女の葛藤なんかも織り交ぜていますし、世界征服とかも混ざってきますし、妙な三角関係なんかも入ってきますし・・・しかし上手く混ぜ込んでいますねえ。
良くできた無国籍料理のような上手さを感じます。

総合

星4つですね。面白い。
ちのりの変態少女っぷりを楽しんで読むもよし、地底国家の悲惨な生活を思い浮かべて涙するも良し、世界征服の陰謀に恐れ戦くのもよし・・・という感じで色々な楽しみ方が出来る一本です。主人公の譲もやるときはやる性格なのがまた良いですね。
それからイラストの出来が良いのも言っておかないとまずいですね。カラーイラストもなかなか良い感じですが、とにかく評価したいのは本文内の白黒イラストの出来の良さですね。一枚一枚カラーで書いているんじゃないかな? という丁寧さです。
まあその上で好き嫌いとか善し悪しとかは読み手によって色々あるとは思いますが、それでも手抜きをしている感じが一切無いんじゃないかというのはポイントが高いですね。モグラスーツのデザインも良いし・・・うんうん、この作品の絵師であるしゅー氏の名前は覚えておこうという感じですね。

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