Gunning for Nosferatus1 此よりは荒野

Gunning for Nosferatus〈1〉此よりは荒野 (ガガガ文庫)

Gunning for Nosferatus〈1〉此よりは荒野 (ガガガ文庫)

ストーリー

日差しの中にあっては熱砂に煙り、夕闇の中にあっては静寂が支配する世界があった。
闇に紛れ奇怪な生物の跳梁する荒野。しかし、それでも人間たちは手に入れた文明の力を利用しながら、僅かずつその版図を広げていた。鉄道、通信、そして、銃。そう、ここは銃というシンプルな力が最大の力を持つフロンティアだった。
そんな世界でありながら、健やかに育った少年がいた。名をアラン。彼はある月ある日ある時までただの少年だったが、一つの悲劇によって人生を塗り替えられてしまう。化け物によって母と妹を失ったのだ。しかし彼だけは、その時一人の少女に助けられたのだった。
——そして3年の月日が流れた。
アランは叔父をたよってキングスウェイ市で保安官補として働く青年となっていた。荒くれ者に囲まれる毎日はアランを力不足の嘆きという形で襲ったが、それでも彼はなんとか毎日を過ごしていた。
しかし、またしても妖魔の恐怖が街を襲う。未だ力を満足に持つことが出来ず歯がみをするアランの前に、3年前のあの日と同じように少女が現れたのだった。屍人殺しのステラ——彼女はそう呼ばれる恐るべきガンマンだった。
架空のアメリカ西部を舞台にして語られる、血と硝煙と復讐の物語です。

面白い

読んで欲しい
ちょっと興奮気味でいま文章を書いているのですが、ライトノベルとしてあらゆる部分が過不足無く充実していて、読みやすさ、読み応え、世界観、などなどでケチの付けようがありません。
序盤から中盤にかけては種まきの感じがあってスピード感という意味で今ひとつだったように感じましたが、終盤からラストにかけての容赦のない展開に血が沸き立ちました。
はっきりいって、優しい物語ではありません。血を流し、涙を流し、痛みに悶え、憎しみに目が眩み、そして悲鳴を上げるような苛烈な展開がこの物語を覆い尽くしています。最近のライトノベルを読み慣れた人からしたら刺激が強すぎる気配もあるかも知れません。
でも、それでも、読んで欲しいのです。そういう本です。

最初

無力で震えていた少年のアランを追っているだけでも十分に楽しいのです。物語の初めは、

アランはへたり込んだ。全身の力が抜け、股間を生暖かい液体が濡らしたが、それを意識すらできなかった。
人知を超えた恐怖と相対した人間のみに理解できる、絶望。完全に支配されて、もはや指の一本さえも動かすことができない。
「うあ、あ……あっ」
意味不明のうめき声が勝手に漏れ出る。固形化した恐怖が喉元まで迫り上がって、呼吸すら自由にならない。

こんな感じです。
・・・しかし、容赦のない現実がアランを、悲しくも厳しく鍛え上げます。

「そんなことはさせない」
口にした瞬間、追い詰められ痛めつけられていた心が、不意に軽くなる。
すべてのくびきから解き放たれ、白い羽根の風に舞い上がるように、心は自由だった。
無理なのは分かっている。現実は彼女の言葉通りになるだろう。しかし、自分のやるべきことは、やらねばならぬことをアランは今、初めて見いだした。
迷いも、憂いも、もう必要ない。たとえこの命を捨てても、取るべき道はひとつだけ。
戦え、と。

少年から、青年へ。そしてその若い血をただ頼りに一人静かに滾らせて、死地へと彼は進みます。私は、その悲しくも気高く澄み切った姿に心を撃たれてしまいました。

総合

星5つ。
青年アランの苦闘と、彼の傍に現れる謎の拳銃遣いであるステラ。そしてその周囲を固める魅力的な登場人物たちと、程よく練り込まれたストーリーに満点星を捧げます。今月この本を読まないで一体何を読めと言うんでしょうか。
でも読む前に覚悟してください。ライトノベルにありがちな甘い物語ではありません。でもライトノベルとして読者の胸を撃ち抜く弾丸が確かにこめられているのです。この小説は、青春の弾丸。一度放たれたなら読者の心臓を撃ち抜かずにはおかないでしょう。
これは血のしたたる物語と言うことは上でも述べました。しかし——どうでしょうこの読了感。まるでどこまでも澄んだ清明の空のようです。血風の通りすぎた後に訪れた夜明けは、予想を裏切って何処までも蒼く広がっていました。
おすすめです。読んでください。とにかく読んでください。私の言葉なんて信じなくてもいいですから、どうかこの物語を信じて手にとって見てください。

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