さよならピアノソナタ(4)
- 作者: 杉井光,植田亮
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2008/12/05
- メディア: 文庫
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ストーリー
桧川ナオたちの所属するバンド、フェケテリコは彼らにとって大きなイベントとなった文化祭を大成功のうちに乗りきった。
そして季節は少しずつ移ろい、もうすぐクリスマスがやって来る――。それは世界的に有名なピアニストでありながら、同時にフェケテリコの大事なギタリストでもある真冬の誕生日も近づくということ――そんな時期。
フェケテリコは相変わらずの高いテンションを維持しながら彼らの音楽を高みへと持ち上げようとしていたけれども、まだまだ彼らは若い。バンド内の人間関係ばかりは練習では上手くならない。それどころかナオを中心とした恋模様は複雑の一途を辿っており・・・いつしか限界を迎えようとしていた。そして・・・彼らの物語には一つの終止符が打たれることになる・・・。
音楽を中心にした異色とも言えるライトノベル、フィナーレです。
ああ
終わってしまった・・・というのが読了後の正直な感想でしょうか。でも、これで良かったという思いも同じかそれ以上あります。
私は終わらない、終わりの見えない物語が大嫌いです。過程を楽しむことが出来ない訳ではないですが、程度を過ぎればただの惰性です。それがいかなる作品であろうとも、です。
未完の物語はあくまで「制作途中」であって、それ以上でも以下でもない、というのが基本のスタンスとしてあります。もちろん未完でも面白い作品はありますが・・・あくまで「面白い未完成品」という評価をするのが私です。
そんなですから、作者の人生そのものになってしまっているような長編作品とかは好みではありません。私は以前別の所でも書きましたが「その物語」が好きなんであって、それを綴っている作者の人生観にも人生にも全く興味がありません。だから作者の人生の一部になってしまっているような超長編作品が好きではありません。
もし作者が死んで終わってしまった場合ですが・・・それもやっぱり「面白い未完成品」でしょうしね。
私は
終わりがあるからかけがえがない、なんて思います。
ライブはいつか終わるからその瞬間を貴重に感じるし、祭りの火はいつか消えるから楽しみだし、物語はいつか終わるから愛おしいのだと思います。
「ライヴをやると、いつも哀しくなるの」
「え……?」
「終わっちゃうから」
真冬の言葉は白く凍りついて夜の中に散らばっていく。
「いつか、終わっちゃう。それが哀しい。ずっと続けばいいのに」
誰も、いえもちろん私も、終わりがないまま楽しい時間が続けばいい・・・そんな風に思ったことがあります。でもやっぱり「終わりがあるから愛おしい」というのもまた事実なのだと思います。
しかし
そんな思いと裏腹に、この物語に終わって欲しくないと思っていました。この作品の中に出てくる「サージェント・ペパー・インナー・グルーヴ」のようにいつまでも終わらない物語であって欲しいとも思いました。
でもやっぱり「終わらない物語」の先に待っているのは・・・「続いていくという事実」が根源的に持っている退屈です。退屈は堕落を生んで、堕落は腐敗を生み出します。それは「続いて」いながら同時に「物語の死」を意味するでしょう。
だから、惜しいけれど、本当に惜しいけれど、終わって良かったのだと思います。そして、きっと続けようとすれば続けることが出来たであろう物語にきちんとした幕を引いた作者を高く評価したいと思います。
なんで終わらせてしまったの? と作者に聞いたら、きっとこう答えてくれるんじゃないでしょうか。
なぜならそれが、ロックンロールだからだ。
総合
星5つですね。
物語については多くを書きません。
この作品の持っている魅力については1〜3巻を読んできた読者に取っては自明の事でしょうし、改めて書かなければいけないことも特に無いと思うからです。間違いなくこの作品は面白いし、青春のうねりも、恋の熱さも、別離の痛みも、何もかもが旋律に乗って綴られて、そして最後に優しいエンドマークを付けてくれました。
主人公のナオはライトノベルにありがちな鈍くて優柔不断な少年でしたが・・・でも、それだけの少年ではないことがこの締めくくりの話で描かれます。そういう話を書いてくれたところがまた、良いところだと思った部分ですけどね。
「ぐるっと一巡りして同じ所に戻ってきたけれど、今はもう傷だらけで、かわりに自分の足だけで立っているじゃないか。それが成長じゃないというのなら、この世におとななんて一人もいないことになる」
全四巻のシリーズ通してみて、5つ星ですね。満腔の自信を持ってお薦め出来るライトノベル作品でした。