蒼穹のカルマ

蒼穹のカルマ1 (富士見ファンタジア文庫)
蒼穹のカルマ1 (富士見ファンタジア文庫)公司

富士見書房 2009-01-20
売り上げランキング : 1325

おすすめ平均 star
starこれからが期待できる作品

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

この世界には、異形の存在が「空」に存在していた。それは「空獣」と呼ばれる生態不明、行動原理不明、発生過程不明の怪物群である。それは、小型のものから大型のものまで多種多様。ただし時として人を襲う。そんな化け物による脅威を頭上に抱えながら、人々は大地で暮らしていた。
しかし、人間達も空の脅威に対して無為に過ごしていた訳ではない。逆に彼らを狩り、そしてそれから空を自在に飛行するための装備までも整え、さらには騎士団までも組織したのだった。その名を蒼穹園騎士団という。
そして、その騎士団に一人の騎士がいた。名を鷹崎駆真。その空戦の能力は他を圧倒し、時に優雅であり、時に苛烈。恐るべき空獣を顔色一つ変えることなく屠り続ける彼女を一般の人々はおろか、騎士団の仲間ですら英雄視した。駆真自信の徹底した鉄面皮ぶりも彼女に対する一種の幻想を助長させていたかも知れない。
しかし、その駆真には一つだけ、たった一つだけ「特別」とも言えるものがあった。駆真がこの世で何よりも大切にし、何よりも優先するそれは——高貴であり(駆真視点)可憐(駆真視点)かつ優美(駆真視点)である——実の姪・在紗
とにかく今日はその在紗の授業参観日なのだ! 万難を排してでも駆けつけなければならない! しかしそんな日に限って余計なトラブルがあっちこっちから舞いこんできて・・・?
という感じの、ファンタジア長編小説大賞で準入選の作品です。

悪くはない

というのが率直な感想ではないでしょうか。
世界観。キャラクター。地の言葉遣い。ストーリーのテンポ。どれも一定以上の水準に達している印象を受けましたね。読んでいてアマチュアっぽさを感じないとでも言いましょうかね? 欠点を見つけるのがなかなか難しい作品じゃないかと思います。
でも、悪くはない、ですね。
ページを捲るのに飽きるという感触こそないものの、どうしても先が読みたいか? と聞かれたら、途中で放り出しても構わないんじゃない? という感じでしょうか。なんというか・・・もう一つ「引力」が足りないですね。

努力家が

努力をして磨き上げた作品のようには思うのですが、悲しいかなその努力ではたどり着けないところ——いわゆる「センス」という奴ですが——を楽しんでしまうのが読者という生き物であると思うのですが、その「センス」がもうひと味足りないという感じがします。
そうですねえ・・・家庭料理としては十分通用する味なんですが、料理屋としてやっていくのは難しい、そんな感じの料理を食べた気分とでも言いましょうか。
いや、それでもメインディッシュは美味しいですよ?(例えば駆真の猛烈な二面性とか) でもプロはオードブルやスープ、あるいはデザートで差を付けてくるものであって、その部分が致命的に「まだ」足りない、そんな印象です。

なんつーかな・・・

激戦区なのよね、ライトノベル市場はさ。
その激戦区にはそうそうたる名店が出店していて、どのお店も通りを歩く客を呼び込もうと、あの手この手で努力していると思うのね。
その店舗名はあるいは「狼と香辛料」だったり、あるいは「バカとテストと召喚獣」だったり、あるいは「薔薇のマリア」だったり、あるいは「フルメタル・パニック!」だったり、あるいは「ゼロの使い魔」だったりする訳です。
この店は、それらの店舗とこれから同じ土俵で勝負しなければならない訳です。プロになるというのはつまり、そういうことで。メインの読者層である中高生の可処分所得が倍増でもしない限り、彼らのサイフはいつでもキューキュー。安く、安全で、確実にお腹をいっぱいにしたいと考えている訳です。
で、この作品でさ、上記のような店舗群と勝負していけそう? ・・・さて、作者の人はどんな風に考えてこの作品を投稿したんでしょうね。

総合

星3つですね。
磨けばこれから光る可能性があるのか、それともこれが限界なのか——? それは分かりませんが、今よりこの「先」を期待したいという所でしょうかね。・・・でも、なんだかんだ言って「デビュー作の出来」=「その後の作品の出来」みたいなところありますからねえ・・・。
うん、もうちょっと、煮詰めてみましょうか。店で料理として出すにはもう一つ濃さが足りないと思います。味のバランスは悪くないから、それぞれを「もうひとさじ」分、濃くしてみませんか? そんな料理は毎日食べるには濃すぎて嫌になってしまいそうですけど、たまに来るだけの客の舌に印象として残すにはその位が丁度いいんじゃないかと思います。
そんな感じの作品でした。

感想リンク