ヒメゴトシステム(1)先輩、セップクです!

ヒメゴトシステム 1 先輩、セップクです! (角川スニーカー文庫)
ヒメゴトシステム 1  先輩、セップクです! (角川スニーカー文庫)神崎 リン

角川グループパブリッシング 2009-02-01
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おすすめ平均 star
starイチゴ色禁区の神崎リンさんの新シリーズ

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ストーリー

桃学園。片田舎に建てられた寮をもつこの学園には、放送部がある。
当たり前のようにお昼の放送などをしているなんの変哲もない部活動なのだが・・・そこに突如として乗り込んできた不思議少女が奇妙な主張を開始したことによって事態は変な方向に転がり出す。

「わた……じゃない、わ、わらわは、この桜桃城城主を務めていた前村家の六十九代目当主、前村琴音といいます」
「は?」
「ですので、ここを即刻立ち退いてください」

放送部員でもある武田隆司は突然の珍妙な主張に理解が追い付かない。新入生を放送部に勧誘しなければなどと思い、ほとんどやる気のない部長である有馬律子をせっついていたところではあったが、新入部員どころの話ではなかった。
一度はすげなくあしらった隆司だったが(女の子自体は可愛らしかったが)、めげない少女は毎日のように現れては、彼を自分の「家臣」にしようと積極的なアプローチをしてくる!
通常ではあり得ないような出来事に引き気味だった隆司だが、トラブルメイカーの琴音に振り回される形になってしまい・・・?
ちょっとあり得ないような要素を組み込みつつも、なかなか読ませる新シリーズです。

おお〜

これは個人的に好きなタイプの作品ですね。
何が好みかというと、語り部であるところの主人公・武田隆司の性格を丁寧に描きつつ、あまり多くのキャラクターを登場させること無しに物語を展開させていて、読み進めやすいというのがありますかね。
それに、登場するヒロイン2名(前村琴音と有馬律子)のキャラクターの立て方も上手く感じます。類型的なようでいて、そこから一歩踏み出している感じ。くどくなく、それでいて印象に残らないという訳でも無く・・・いいバランス感覚ではないでしょうか。

キャラクターを

印象的な感じの所をちょっとかいつまんで引用してみましょうか。まずは前村琴音。

「こ、こんにちは。わらわの家臣になりたい人居ませんか?」

「あのさ」
「あ、はい、何です? 今、家臣になれば、知行地いっぱいあげますよ」
「いや、なりたくない。そうじゃなくて、何がしたいんだ、お前」

まあこの一連のやりとりから分かる通り、琴音の主張そのものは奇天烈で、しかも行動もしつこいですが、悪人ではありません。一体なんでそこまでかつて自分の一族が城主だったという理由にこだわるのかまでは分かりませんが。
また、もう一人のヒロインである有馬律子も見てみましょう。

「ほうら、部長。起きてください。起きないとエッチな悪戯しますよ」
「……悪戯しても良いけど、その時は一ヶ月分、ゴージャス定食デザート付きだからね」
本当に触ってやろうか、こんちくしょう。

とにかく極度の面倒くさがり屋で、放送部の部室に来ては寝転がって居眠りをしているという問題児ですね。そうかと思えば隆司が琴音の「家来」になることについては何かと横やりを入れてくるようなところもあり、また何気に弁が立つところもあったりして、侮れない存在です。

ま、

こうしたキャラクターを相手にしながらもなんとかやり過ごしている主人公はなかなかやり手なんじゃないかと思わせますが、いやはや確かに主人公、実は裏も表もあるようでして・・・。
この話、各章の先頭部分に謎の海賊ラジオ「エフエム桜桃のチェリー&ピーチスタジオ」なる放送部分がありまして、これが不思議な形で物語を俯瞰しています。主人公以外の「物語の視点の持ち主」を配置することで物語の見え方に奥行きを与えているというか・・・とにかく上手いこと作用しているように思われます。
で、主人公の隆司はこの海賊ラジオ番組(当然学校にだって非公認)に何らかの形で関わっているようなのですが・・・? とにかくただ者ではありませんね。いや、一見ただ者なんですけど、実は結構ただ者ではないというか、そういう不思議な印象を持たせてくれる主人公です。気に入りましたね。

総合

星・・・4つではなかろうかね?
無茶苦茶な展開で終始するのかと思いきや、まともなところは至極まとも、変なところはとことん変と、強弱をつけた物語の進め方が実に好みですね。上でも言いましたが少ないキャラクターを丁寧に書いて、人間的肉付けをしっかりとしているところがまた良かったです。
主人公はちょっとした訳ありで「一人を好む」傾向があるんですが、その辺についても無理なく説明されているようなところがありまして、とにかく「丁寧」という印象が残った一冊でしたね。
また、イラスト担当の千葉サドル氏ですが、漫画チックではありますが、なかかな上手く仕事をこなしているように思います。本屋で見かけたらとりあえずパラパラとイラストだけでも確認してみてください。カラーイラストも、白黒イラストも、どちらも別の味があって好感触でした。

感想リンク