パララバ〜Parallel lovers〜

パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)
パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)静月 遠火

アスキーメディアワークス 2009-02
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おすすめ平均 star
star金賞に見合う内容

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ストーリー

遠野綾村瀬一哉
近所にある違う学校に通う二人の少年少女は、直接会うことこそ「まだ」なかったものの、毎晩電話でお互いの近況を話し合う関係で・・・付き合い出す寸前、いやもう付き合っている、と言ってもいい関係だった。ある事件が起こるまでは。
突然の村瀬一哉の死。彼はある日突然事故死してしまったのだ。
酷い悲しみとともにその事実を知った遠野綾だったのだが、そこから奇妙な出来事が起こり始めた。それを起こしたのは彼女の持つ携帯電話。

「綾……か?」

電話の向こうから聞こえるのは間違いなく死んだはずの一哉の声。それが現実なのかどうなのか分からないまま綾はその電話で一哉と会話する。そして、その電話から意外な事実が浮かび上がる。
一哉の世界では綾が、綾の世界では一哉がそれぞれ死んでいるというのだ。二人は今起こっている出来事とそれぞれの現実の違いに戸惑いながら、携帯電話が繋ぐ細い糸に縋るようにして「一体何が二人の身に起こったのか」を調べはじめる・・・。
電撃小説「金賞」となった作品です。

読みながら

以前読んだ高畑京一郎の「タイム・リープ」に似ているな〜。なんて思って読み進めていたんですが、最後にあとがきを読んで

高畑京一郎先生の『タイム・リープ』を初めて読んだ時の衝撃を今でもまだ覚えています。

なんていきなり書いてあってひっくり返りました。そりゃ似た印象を受けるわな! というかこの本が丸ごと一冊「タイム・リープ」という作品のオマージュと考えてもいいんでしょうね。
あちらは「時間」でこちらは「空間」。タイムトラベルとパラレルワールド・・・SFでよく使われる題材ですが、同時に似て非なる扱いを受けるものであり・・・結果として話の方も全く違います。
が、作品が放っている匂いは全く同じですね。トラブルに巻き込まれた少年少女がそれを解決するために奔走するという意味でも、あるいは語り手が少女に固定されているという意味でも同じ空気を感じます。

で、

読んだ印象ですが、非常に良くまとまっているという事があるでしょうか。
起承転結の隅々まで気が行き届いていて隙がないし、キャラクターの造形もその見せ方も上手い。というところですね。平行世界ものにちゃんと取り組んだしっかりとした土台のある非常にテクニカルな印象を受ける作品です。
また、二つの平行世界を繋ぐアイテムがたった一つの「携帯電話」というのもなかなかに気が利いています。もう死んでしまったはずの少年/少女と繋がることが出来る一つだけの手段・・・彼らはそれを使って、自分の身に何が起きたのかということをそれぞれの世界から追い求めていくことになります。

でもねえ・・・

ある理由からこの作品を高く評価できないんだな〜。
その理由は重大なネタバレに繋がりますのでここでは述べませんが、オマージュはやはりオマージュで、やっぱりオリジナルを越えることは出来ない、という所でしょうか。
確かに良くできています。読んでいる最中の楽しさも保証できる内容でしょうね。でも、届かない。読み終えてみれば分かりますが、ある一点において絶対にこの作品は「タイム・リープ」を越えることが出来ないのですね。
私はこの作品が「大賞」を逃した理由が間違いなくそこにあると思うのですが・・・どうでしょうね? 読み終わった人とその辺りについて意見交換をしたいところですが・・・さて。

総合

気分的には星3つ位なんですが、まあオマケで4つ・・・いややっぱり3つにしておきましょうか。
SFとしてもミステリとしても非常に綺麗にまとまった良作であることは保証できると思いますので、私は星3つにはしましたけれども手にとって読んで見る価値はあるんじゃないでしょうか。
でも作者の人・・・私は違うと思うんだ。「タイム・リープ」が多くの人に高く評価されるのは、確かに

無駄がない。
一文一文が綺麗に結びついて、精密な機械を見ているようで。

という要素があるのは間違いないですが、それ以上にある「プラスアルファ」があるからなんだと思うんです。それがあるのと無いのでは読者に与える印象が180度変わってしまう・・・そういう類の「プラスアルファ」がこの作品には欠落しているのですね。
さて・・・読者が「ライトノベル」に期待するものとは一体なんでしょうね? それがもしこの作品に備わっていたとしたら、「金賞」ではなくて「大賞」だったかも知れませんなどと私は思ったのですが、どうでしょう?

感想リンク