リビングデッド・ファスナー・ロック

ストーリー

その村では、呪いを受けた胎児は生誕を拒み、子宮で首を吊るという――。
そうした土着の伝承を今に伝える田舎町である綾咲市で今、奇怪な事件が「始まろうと」していた。その始まりは一つの死体。生前よりも美しいのではないか――刑事たちにそう思わせるその遺体には明らかに異常な点が一つだけあった。
少女の腹を縦に走る「それ」は、犯人の余りにも異常な執念によって成し遂げられたとしか思えない、本来ならあり得ない遺物が存在していた。「それ」は、ファスナーだった。恐る恐る「それ」を引き下げる刑事たちが目の当たりにしたものとは――?
過去から連綿と伝わる因習、聞いた者の耳を疑う伝承、それらと現代社会の狭間で巻き起こる事件と、それに巻き込まれる「定められた」少年少女達の怪異との邂逅を描いた伝奇ノベルの登場です。

えーっと

文体、悪くないですね。描写、丁寧かつ緻密ですね。雰囲気、ありますね。キャラクター、たってますね。
・・・一通りそろっている感じがするのにもう一つパッとしないのは何故なんでしょうかね? 読み終わった今でもその理由がよく分からないという不思議な本です。上でストーリーに触れている通り、まず猟奇殺人事件から話が始まるわけですが、そこからの物語の展開も、うん、いいんですよね。先を読みたいという気持ちに十分させてくれるんですが・・・。
そうですね、なんというか・・・「期待」させる文章であり物語であるのにも関わらず、その「期待」を越えてくれないところがこの不満の出所のような気がします。

でも

読んで見れば分かるんですが、しっかりとした土台の上に作られた作品だと思うんですよね。
でもなんと言いますか・・・ライトノベル向きじゃないような気がするんですね。もう一つ少年少女(ここでは特に主人公の水祭乙(みまつりきのと)(きのえ)、あるいは準主役の天城葉桜御鏡輝美を指すことにしますが)の気持ちがダイレクトに伝わってきてくれても良かったんじゃないかと思います。

その反面

登場シーンがそれ程多いわけでもないのにやたらと魅力的なのが御園生初美という名前で乙と二人暮らしをしているうら若き家政婦だったりするんですね。これが実に・・・妖艶なんですよ。

うろたえる乙の足許、初美は楚々とした風情で両膝を突いた。ちょうど乙の腹部に、初美の顔が面する格好となる。箒を放した手が、なんら迷いを感じさせぬ仕草で、乙の股間にそっと伸ばされた。

「ズボンの前、開いてますわよ?」
「……はい?」

「そっ、それくらい、自分で――っ!」
あいにく、最後まで言葉を続けることはできなかった。ファスナーに添えられた繊指が、乙自身の先端部分に軽く触れたのだ。

・・・いや、なんとも・・・なんとも言えず淫靡ではありませんか? 思春期まっただ中の少年と二人暮らしの若き家政婦。例えその気がお互いになかったとしても・・・何かを期待してしまうではありませんか。

まあ

話の筋というか、初美とは直接関係があるとかないとか、そういう部分はとりあえず秘密ですが、その後の展開として、

「水祭様の子胤、これより頂戴仕ります」

子胤・・・子種ですけどね。そんな展開になっていったりします。でも「そういう話」かといわれれば全く違っていて、不気味でおどろおどろしく、退廃と因縁の匂い漂う深い薄闇のような物語になっています。
雰囲気を楽しむつもりで読めば・・・かなり当たりな作品と考えることができるかも知れませんね。

総合

星・・・3つ、4つ・・・うーん、3.5の・・・悩ましいところですね。でも丁寧な作風と描写には好感を持ったので星4つ・・・いやいややっぱり3つ? う〜ん、長考の挙げ句の果てに、星4つかな? なかなかまとまった読書時間が取れなかったにもかかわらず、最後まで読もうという気持ちにさせてくれたところを評価しての星ですね。
読み終わってみてからページ数が結構あるんだなあ、なんて思ったわけですが、多分その長さを感じさせない所は「面白さ」の証明かなと、そんな風に思ったからです。
とにかくどっしりとした文体の物語を楽しんでみたい、なんて思ったりしたら、今ならこの本に手を伸ばすのはアリかも知れませんね。

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