BLACK BLOOD BROTHERS(10)

BLACK BLOOD BROTHERS10 —ブラック・ブラッド・ブラザーズ 銀刀出陣— (富士見ファンタジア文庫)
BLACK BLOOD BROTHERS10  —ブラック・ブラッド・ブラザーズ 銀刀出陣— (富士見ファンタジア文庫)あざの 耕平

富士見書房 2009-04-20
売り上げランキング : 61


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

あの日、あの時、1997年の香港で一体何があったのか。
遙か昔に始まった話のようでいて、つい先日始まった話のようでもある香港前夜の一幕——。そしてその述懐は、今の「特区」に確かに繋がる一幕であった。それを語るのは・・・黒蛇。過去、現在、未来と繋がる全てが収斂して一人の吸血鬼を作り上げ、そしてそこから生まれるべくして生まれた新しい血統——その謎が遂に明かされる。 
その告白に呼応するように、ミミコが、コタロウが待ち焦がれた彼が帰ってくる——! そしてそれは反撃の狼煙を上げることに他ならなかった!
濁流のように人を飲み込みながら更に加速する物語はもう誰にも止められない! 「BBB」シリーズの最新刊が堂々と登場です。

カーサ、カーサ、カーサ!

ああ、なんという希望と絶望! なんという出会いと別離! なんという愛と憎しみ!
物語前半部分で語られる「香港前夜」はまさにカーサの在り方を真っ直ぐに描き出した内容となっています。カーサ・・・ひょっとしたらこのBBBという物語は、彼女の為にあったのかも知れません。
運命、宿命、血の導き、脈動——どんな言葉で言い換えたとしても、恐らくカーサ本人にしか分からないその葛藤は、読んでいるだけで胸が苦しくなります。あの日、あの時、誰一人として望まれない者は存在しなかった・・・ただ世界が編み出した道筋が少しだけ、多分少しだけ・・・全ての者にとって優しい訳ではなかった・・・ということなのでしょう。
カーサ。黒蛇カーサ。忌み子。異端児。混血児。しかし恐るべき使い手であり、そして何処までも孤独なカーサ。成るべくして九龍の血に染まったカーサ——。私は、彼女に惹きつけられざるを得ません。言葉に出来ない五百年の想い、伝える術のない百年の想い。そして「九龍の血の秘密」——その全てがカーサを染め上げます。琥珀色のランプに照らされて揺らめく世界の中、彼女は一人何を思うのでしょうか——。

そして遂に

立ち上がるべき者が立ち上がります。
カンパニーにおいて「乙女」として多くの黒き血を持つもの達に一目置かれる存在となったミミコは、たった一人を待ち続けています。それは最早誰のことだと言う必要もないあの人ですが・・・ミミコはその時を一人待っています。沢山駆けつける援軍の中、そして世の中の動きがカンパニー側に傾き勢いづく中、それでもたった一人を待ち続けています。
その人物が、遂に愛刀を片手に立ち上がるときが来たのです。

「——我ら『賢者イヴ』の血族は、現時点をもって、『九龍の血統』に宣戦する」

待ち焦がれた我らが望月ジローの帰還です。
・・・この一文を読んだときの快感、あるいは胸の疼きのようなものは決して未読の人には伝わらないでしょう! 始まるのです。待ち焦がれた戦いが——いや、命と誇りと意地と血を賭けた大博打とでも言うべきものがこの瞬間をもって開始されたのです。
血が沸き立たないはずがありません。それは例えばミミコにとっては間違いなく人生をひっくり返すだけの価値がある一大事でしょう。彼女はジローの帰還を合図に、必死になって走り出します。「乙女」として? いいえ、ただの葛城ミミコとなって、特区へとひた走るのです——。

総合

多くを書いても仕方ありませんね・・・星5つ。
誰も彼もに感情移入してしまった結果、読んでいる最中も、読了後の今この瞬間をもってしても、私の気持ちはまるで溶けた飴のように定まりません。語られた想い出が作り出した琥珀色こそ残りはしたものの・・・そんな情景にどうこうと解釈や解説を付けるのは野暮というものでしょう。
最早私にとって、この物語において誰一人として「ただの敵」はいなくなりました。そこには生きるべく足掻く美しき生き物たちが必死に今を駆け抜けようとしている様があるばかりです。願わくば、彼らの行く末に大いなる「母なる海」の優しさがあらんことを——。

感想リンク