とある飛空士への恋歌(2)

とある飛空士への恋歌 2 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 2 (ガガガ文庫)

ストーリー

海と空の最果てを目指して――海の吹き上がる場所「聖泉」を目指して旅立った空飛ぶ島イスラ。そしてそこに集った若者達。彼らは若き飛空士の卵として、イスラ上に設立されたカドケス高等学校に通学を開始した。
そして、その新生活を始める若者達の中には、あのカルエル・アルバスの姿があった。堕ちた皇太子――元バレステロス皇国の皇子カール・ラ・イールである。そして彼の義理の妹であるアリエル・アルバスもそこにいた。
そしてもう一人、新たな生活に胸を膨らませている少女がいた。少女の名はクレア・クルス。とある事情によって地上では複雑な身分となっていた彼女だったが、空の上のイスラでは彼女の自由を奪う手少ないこともあり、初めてとも言える学校生活に夢を見ていた。そして彼女は、先日出会った一人の少年に再会できることを願っていた。
カルエルとクレア――。それはあってはならない出会いであり、あるはずのない恋であった・・・。
とある飛空士への恋歌の2巻、王道の中の王道を突っ切る形で物語が進みます。

びっくりというか

まず思ったのが、犬村小六ってこういう正統派な学園ラブコメとも言えるような作品を書けたのね・・・というところでしょうか。
実に瑞々しく少年少女達の青春が描かれています。どこを切り取っても登場人物達の若さ溢れる躍動感とでも言うべきものが溢れていて、読んでいて飽きさせません。
カルエルの夢見がちな子供っぽさも、アリエルの現実的だけど優しい仕草も、クレアのたどたどしいながらも健気な表情も、全部まとめてびっしりと書いてあります。ただそれだけで読んでいる側としては楽しいですね。
また作者がちょっとしたお茶目な部分を見せたりしているところもあったりして、そんな部分もサービス精神に溢れていて楽しいです。しかもそのお茶目な部分、ほんのちょっとだけチラ見せするところが実に憎いです。

それだけでなく

感情移入のさせ方も実に上手いですね。
話の序盤でクレアの過去が語られるのですが、カルエルの過去にも劣ることがない程に悲劇的です。読者が1巻でカルエル側に感情移入していたとしても、クレアの側にも同じ重さを持った過去があることを知ることになり、どうにもやりきれない気持ちになります。一体どこに心を置いたら良いんだ・・・? とでも言うべき気持ちになりますね。
お互いがお互いを意識する関係にあるカルエルとクレアですが、読者が知っている真実は限りなく残酷です。そしてその隠された事実にクレアは薄々気がついてしまうことになります。

「わたしを嫌いにならないで」
クレアは願い事をぽつりと呟いた。
「あなたに嫌われたくない……」
そう呟いただけで、また涙が出てきた。

彼らの纏った真実は、一体いつ、どんな形で彼らの上に覆い被さるのでしょうか・・・。気になって仕方がありません。

そしてもちろん

もう一人の主役とも言えるアリエルの存在も忘れるわけにはいきませんね。
学園生活でも、シリアスパートでも八面六臂とも言える活躍をしてくれます。また、ストレートに描かれる訳ではないのですが、恐らくは彼女が持っているであろう恋心を想像する時――読者はアリエルにも味方をしたくなってしまうでしょう。
ああ、一体誰の想いを大切にしてあげたらよいのでしょう? 作者の人は書いていて辛い気持ちにならないのでしょうか? 私は読んでいて何とも言えず辛いというか・・・切ない気持ちになります。
カルエル、クレア、アリエル・・・それぞれの願いが悲しい形で終わらないことを祈らずにはいられません。

総合

盤石の星4つですね。
シリアスさは1巻の方がありますが、それを補って余りあるウキウキするような楽しさが詰まっています。しかも話のラストシーンでは非常に気になる固有名詞なども出てきてしまったりして、一読者としては早く早く一秒でも早く続きが読みたい! という気分ですね。
様々な人々の過去と現在が織り合わさって物語は予測不可能な地平へ旅立っています。空と海のロマンを抱え込み、若者のままならない想いを抱え込み、イスラは物語の大空を進みます。果たしてその行き着く先にあるのは一体何なのか――? とにかく目が離せませんね。

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