ぷりるん。〜特殊相対性幸福論序説〜

ぷりるん。—特殊相対性幸福論序説 (一迅社文庫)
ぷりるん。—特殊相対性幸福論序説 (一迅社文庫)
一迅社 2009-07-18
売り上げランキング : 5039

おすすめ平均 star
starおもしろかった!
star予想外…
starある意味すごい

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

ユラキは高校二年生になる少年。彼の日常はなんということもなく過ぎていくものだった。
お兄ちゃん大好きな妹・うずみ。自由奔放な姉・綾。クラスメイトで気になる存在の少女・桃川みう。部活動の先輩で足の綺麗な小野塚那智。——そして「『ぷりるん』しか言わない少女」。そんな面々に囲まれて。
何事も無かった彼の日常はしかし、桃川みうに好意を持っていると告げた辺りから変化し始める・・・。知らなかった友達の素顔、知らなかった家族の素顔、知らなかった彼女の素顔、そしてなにもかもが分からない「ぷりるん」。現実は奇怪な方向へとねじ曲がり始め、ユラキの毎日は全く別の表情を見せ始めるのだった・・・。
薔薇のマリア」シリーズの十文字青の新作です。

騙されてはいけない

表紙絵とか口絵カラーイラストとか、あるいは裏のあらすじっぽいものに。
この作品はズバリ言うとトラウマ的青春の暗部を描いたサイコホラー寄りの作品ですよどう考えても。
いや、私は「十文字青が遂にノーマルな学園ラブコメでも書いたか!?」とか思って衝動買いしたわけですが、その期待は見事に打ち砕かれて相変わらずのちょっとノイローゼ入ってるんじゃないかという展開でした。
じゃあつまらないか? と言われると「そんなことはない」と答える感じですけど。

なんて言うのかなあ・・・

十文字青氏は、私にはなんとも理解しがたい形で青春時代を過ごしたんじゃないかな〜なんて想いをこの本を読んで強くしましたね。
薔薇のマリア」の場合には語り部がくるくる変わったりしたり、あるいは中心的な語り手のマリアの性別が不明瞭な事で違和感を感じないで来れましたが、この本のように一冊丸ごと少年であるユラキの語りで話が進む事によって、私は自分と十文字青氏との違いを強く感じましたね。
なんというか・・・性的に未分化な部分を残しているというか、ユニセックス的というか、最近で言えば草食系男子とかもそうかも知れませんが、「潜在的に性的な分野に何らかの不安を抱えている」感じですね。

とにかく

そういうトラウマを刺激するような作品に仕上がっています。か弱い男性から見た時の、女性という未知の性に対する不信感・不安感・不透明感、そして受け身気味の興味が吹き出している作品です。
これはネタバレになっちゃいますけど、表紙を飾っている女性達の一人としてまともな成熟を遂げている存在がいません。それは欠落だったり、過剰だったり、依存だったり、無関心だったりと色々あるんですが・・・とにかく理解しがたい存在として描かれます。その代表格が「『ぷりるん』しか言わない少女」であろう事は想像に難くない訳ですが。
まあ作中でその理解不能さは最終的に救済されることになるのですが・・・正直とってつけたような印象が読了後つきまといましたね。
一般的にはただ単に「不気味なもの」=「ぷりるん」ではないでしょうか。「ぷりるん」はストーカー的な存在が持っている気味の悪さをどうしようもなく持ちすぎています。私はあれで全てを許せてしまう——あるいはそれまで許していた——ユラキの事が本質的に理解できませんでした。

総合

いやこれはこれで興味深いですよ? という星4つ。
なんというかこの本を使って作者の精神鑑定とか分析とかしたくなるような本です。この本の中で描かれるユラキの青春は私にとっては理解しがたい世界ですが、そのために惹きつけられる部分があるのもまた確かだからです。ただ、根っこに性の問題を抱えた世界というのは色々と根深いので、興味本位で覗き込もうとは思いませんけどね。
でもこの本を一冊読んで、十文字青氏が他の物語で何故ああした——時として女性に対して酷く残酷な——展開を作り出せるのか分かったような気がします。もちろん「気がするだけ」ですが、それでも何となく収穫のあった一冊でした。ファンの人なら是非読んでおきたい一冊だと思います。

感想リンク