純潔ブルースプリング

純潔ブルースプリング

純潔ブルースプリング

ストーリー

若者達がいた。少しばかり集団からはみ出した若者達が。
高校の中で微妙に居心地の悪い思いをしながら、馬鹿騒ぎしたり、夢を見てみたり、変な遊びに興じてみたりと「終わりの見えている」世界で今日を何気なく、和気藹々に、そして殺伐として過ごしていた。
真南了、西園寺幾美、番場公威、倉田悠作、暮林彦一郎、七瀬林檎。5人の少年と1人の少女。彼らが出会う青春の甘さと苦さ、それを明け透けに描き出した群像劇です。

心が痛いですね

読んでいて心のあちこちが軋みに似た音を立てているような気がしました。
胸くそ悪くって、そのくせ愛おしくって。読み続けることを放り出してしまいたいような気持ちになりながらも、不思議な磁力のようなもので引きつけられページを捲る・・・そんなことをただ繰り返して読了にこぎ着けました。
でも読み終えて一番最初に思った事があります。それは、作者の十文字青氏はどうしてこんな恥ずかしい物語を書けるのだろう? いや、どうしてこんな恥ずかしい物語を書いてしまったんだろう? という事です。
報われなかった青春に対する反逆なのか? 在りし日に子供心を傷つけられた復讐なのか? 弱い自分を隠すための必死のレジスタンスなのか? 高望みし続けた結果の失敗を隠してしまいたかったのか? いじめられっ子がしがみついた惨めでちっぽけなプライドの発露なのか? 正体の分からない異性の心が不安でたまらないのか? それとも敢えてさらけ出した傷口を暖めて欲しいのか・・・?
体裁を整えて格好つけていながらそれでもなお赤裸々と思える物語。それが奇妙なことに共感と反感を同時に心に生み出しました。苛めてやりたい。守ってやりたい。殴ってやりたい。癒してやりたい。そんな二律背反な感情です。
登場する少年少女たちはどいつもこいつもなっていなくて、みっともなくて、弱くって、恥ずかしくって、でもどこか格好いい。そんな連中で固められています。その彼らに対して私は等しくそんな感情を持ちました。

どこがとは言えませんが

作者が心の内を吐き出しているような物語がただただ胸に迫るのです。
みっともなくて恥ずかしくって大した事のない、登場人物の一人一人に自分の心を少しずつ仮託した人としての底の見えてしまいそうな告白録じみた物語。そんな青春に一枚皮を被せただけのような物語が、読んでいると自分の古傷も一緒に掻きむしってくるのです。
少しばかり派手に彩られたこの青春群像劇に反応してあの頃の自分が否応なく甦り、確かにそんな想いがあったのだとキリキリと胸を苛むのです。確かに自分も似たような薄闇にたたずんでいたのだと。こんなにまでもみっともなくて弱くって恥ずかしくって、でもどこか格好いいと思いたかったあの頃の事が思い返されるのです・・・。
自分の中に浮かんだ相反する想いは、過去の自分に向けられた愛情と憎悪だったのでしょう。作者に対して感じた恥ずかしさは、かつての自分に対して感じた恥ずかしさだったのでしょう、と今は思います。

総合

星5つかな・・・。
十文字青氏の作品を読んできた読者であれば読んで決して損のない物語です。ある意味では全ての物語の原型はここにあると言ってもいいかも知れません。
薔薇のマリアも、いつも心に剣をも、ぷりるんも、ANGEL+DIVEも、氏が最初に綴ったこの物語から始まったはずです。そして少しばかり作者の心の底を覗き込んで、分かったような気になってみるというのが読者として許された唯一の事かも知れません。もちろん、分かったような気がするのは幻想で、本当に覗き込んでいるのは自分の心に他ならないと思うのですが。
十文字青氏の作品に触れたことがない人も一読することをお薦めしてみます。きっと何某かの発見があるのではないでしょうか。

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