ピクシー・ワークス

ピクシー・ワークス (電撃文庫)
ピクシー・ワークス (電撃文庫)
アスキーメディアワークス 2009-09-10
売り上げランキング : 3201

おすすめ平均 star
star新人作としては面白い
star技術的興味だけで暴走する女子高生
star電撃の賞ってホントに面白さで選んでんの?

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ストーリー

笹島明桜高校・天文部。そこは天文部とは名ばかり活動を行う部であり、同時に超が付くほど優秀な才媛(かつ問題児)達が集まる笹島明桜高校の台風の中心地だった。
ボーイッシュで根性のすわった肉体派少女・神楽木芹香。手段のために目的を選ばない冷徹な知識欲の権化・片桐千鶴。穏やかでお嬢さま然とした外見ながら天才メカニックでもある葛城奈緒。いずれも優れた頭脳を持ち、同時にその優れた頭脳を危険な方向に使うことを躊躇わない爆発物のような3人だった。
そんな天文部にある一つの依頼が舞いこむ。それは環太平洋戦争という出来事で実際に使用された戦闘機の修理というものだった。ある大金持ちの老人の酔狂とも言える願いを聞いた3人は、それぞれがあくまで自分の知的好奇心を満たすがためにその依頼を引き受けることになる。お目付役として生徒会の一員でもある少女の遠藤由衣を加えた都合4人でこの一大事業に邁進することになる。
だが、最新鋭ではないにしても戦闘機、それを修理するとなれば並大抵の事ではすまない。しかも修理をしていく過程で想定外の事態、予想外の発見があり、戦闘機の修理は加速度的にさらに過激な方向へと進んでいくことになる・・・。
という感じで進められる近未来SF作品が本編です。

いやあ

もっと早くに読んでおけば良かったですねえ・・・。
表紙に戦闘機が描かれている時点で一度は手を伸ばしたのですが、手持ちが少なかったので購入を先送りにした結果がコレですよ。実に勿体ないことをしてしまった! 主人公たちが天才美少女であるという事を覗けば実にハードな仕上がりになっている作品ですよ。描写にも容赦が無く、かなりハードな技術用語が乱舞することになります。

「この合理的な機能美。芸術だわ。うーん……ビューティフルっ!!」
奈緒子の感嘆に由衣が呆れた目を向ける。まるで白馬の王子様に出会ったお姫様のような目をした奈緒子の脇で、千鶴が顕微鏡を覗くような鋭い目で『精密機械』を観察する。
「日の丸か。航空自衛軍無人機だな。三菱の奴とは違うようだが……芹香、わかるか?」
「ステルス性より機動性を重視した形状のブレンデッドウイング・ボディに垂直尾翼無しの三翼面構造。鋸歯状の全方位推力偏向ノズル。可変型エアインテーク。メインセンサーはアイボールタイプ。ウェポンベイは無し。無人機だけどデザインは有人機に近い。たぶん……」

なんて感じの会話が当たり前のように作中で交わされることになります。こういうのが苦手な人には辛いだけの文章かも知れませんが、私はこの時点でかなり物語に引き込まれてしまいましたね。別に航空機マニアという訳でも無い私ですが、なんというかやっぱり戦闘機にはロマンがあります。

しかも

この作品はそれだけでは止まりません。

神林長平の小説じゃあるまいし……まさかね」

こんな台詞が出てきたりします。ここで引き合いに出されているのはSFの名作である「戦闘妖精・雪風」だと思われますが、あの作品を楽しめた人なら同じように楽しめる可能性があります。逆にこの本が楽しめた場合、未読であるなら躊躇わず「戦闘妖精・雪風」を読んでみてください。同じ種類のときめきに出会うことが出来るのではないでしょうか。
また、正直言ってこの本には最近のライトノベルには必須とも言える女の子の「萌え要素」が欠片もありません。が、それを補って余りある「燃え要素」があります。ですから主人公たちも甘ったるい果実のような少女ではありません。
彼女たちは知識と技能と実行力を兼ね備えた逞しいエンジニアたちとして表現されて、時に衝突し、時にいがみ合いながら一つの目的に邁進していく姿が描かれることになります。正直ついていけない技術用語なども沢山出てきましたが、それでも楽しんで読んでしまいました。

そして

物語的にはこの戦闘機は本当に空を飛ぶことが出来るのか? という事になっていくのですが、無許可で戦闘機を飛ばそうという事になればそう単純には話が進みません。政治的な背景をうかがい、軍事的な状況を計算し、その上で彼女たちは無謀な挑戦を行うことになります。結果として蜂の巣を突いたような事態になっていくわけですが・・・その展開もスリリングで実に読ませます。
ラスト近くではまさに手に汗握る展開が用意されていて、ただでさえシリアスな展開がコントロール不能な領域にまで足を踏み入れていくことになります。そこで発生する展開は最早学生の少女たちが主役を張っていいものではないような気がしますが、それでも彼女たちは自らその現場に足を踏み入れたわけですから、最後の最後まで彼女たちは状況終了に到るまで逃げることなく向き合うことになります。その辺りは実に潔さと硬さがあっていいですね。

総合

今さら遅いでしょうが星5つ。
もともとこういった展開の作品が好きなこともありますが(「戦闘妖精・雪風」も好きな作品ですし)、ここまで濃い印象の作品が電撃文庫から出版された事実も嬉しいですね。それに色気は欠けていますが固くてしっかりとした印象を受ける文章にも好感を持ちました。
正直なところを言えばキャラクター描写がいま一つ・・・と思わなくも無いのですが、やっぱり好きな作風というのはありますからね、オマケも込みでこの星になっています。
続編を作れるような作りにはなっていますが、取りあえずこの1冊で一応ちゃんとまとまっていますので、その辺りも安心です。個人的には続編を書いて欲しい気もしますが、何かと不人気な気配のあるSF的な作品ですからね・・・期待しないで続きを待ちたいところですね。
ちなみにイラストを担当しているバーニア600氏も良い仕事をしています。ですが、少女たちの水着シーンが口絵カラーとして選ばれたあたりには、なんというか”ライトノベルらしさ”を感じましたね。いや、そういうの好きですけど。

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