レンタル・フルムーン <第一訓>恋愛は読みものです

ストーリー

自分にとっての大事な事を「人生教訓メモ」というもので残しているちょっと変な少年・桐島新太。とにかく毎日を平穏無事に暮らしていければ良いと思っている彼は、善良で平凡な吉良吉影とでも言うべき少年だった。趣味と言えば読書で、「月光文庫」を毎月読めればとりあえず十分と思っているのだが、実は幼い時の出来事がきっかけで「普通の人には見えないモノ」が見えてしまう体質だった。
それでも毎日をつつがなく過ごしたい彼は、その「何か怪しげな白い霧のようなモノ」を極力無視して暮らしていたのだが、いつもそう上手くいくわけではなかった。なんといってもその「普通の人には見えないモノ」をきっかけとしてバイトをクビになってしまったからだ。そのせいで失意のなかにいた新太少年だったが、偶然街で「満月堂」なる貸本屋を見つけたことで彼の穏やかなはずの日常は面倒な方向へと傾いていく・・・。
新太は、「満月堂」の店番をやっている少女・満月ツクモや、あやしげで全く口を開かないが真面目な良い子・クルンと知り合って、この世は観測者がいることで秩序が保たれているなんていう荒唐無稽な話に巻き込まれていくのだが・・・?
という感じで始まる「under」の作者による新シリーズですね。今月2巻がでましたよ。

異界モノ

と言えば異界モノ、と言えるのかな? 「under」シリーズもそういう傾向があったけれども、この作者は「人の死角」をモチーフとして物語を作るのが好きみたいですね。
人によって全く観測されていない場所は量子論的にその存在そのものが曖昧な状態になって、「パンドラ」という霧のような状態になってしまう・・・。誰にもずっと観測されていない学校の下駄箱の中とか、人に完全に忘れ去られたタイムカプセルの中身とか、そんなのが「パンドラ」化するわけですね。それを再び観測することで元の状態に戻し、世界の設計図ともいえるものを補修する役目を負っていたのが満月ツクモだった、という訳です。
・・・なんとなく分かりますかね? なんとなく分かれば十分にこの本が読めるので大丈夫です。

ですが

そうした設定的な部分というのは実はこの物語ではあんまり重要じゃないんですよね。いや確かにそういう世界観がなければ物語が立ちいかないのは事実ですが、それよりもやっぱり登場人物達の個性の方がこの物語の魅力じゃないかと思います。
主人公の桐島新太、ヒロインの満月ツクモという中心にいるこの二人が実に残念な感じなのが魅力なのです。何が残念なのかというと、新太の方は「恋愛は読むものだ。するものじゃない」などという教訓を守っていて、ライトノベルの色気部分とでも言うべきものを真っ向否定している主人公ですし、満月ツクモの方も喜怒哀楽がはっきりしなくてゴーイングマイウェイかつやっぱり色気成分が不足しているという問題児だからです。
そんな二人がメインな訳ですから、何か、どこか、こう気が抜けたコーラのような味わいになっています。世界観の方もそれを助長するようにやっぱり気が抜けた感じで作られています。適当な神さまが出てきたり、自己啓発本ばっかり読んでいて極度に無能な美少女が出てきたりと、明らかにわざと気の抜けた作品作りをしているという事ですね。それが実に残念なのです。

ただし

ここでいう「残念」は「つまらない」とイコールではありません。
期待通りに話が進まないという意味だったり、想像と違う行動をする登場人物だったり、役に立ちそうで役に立たない能力だったり、色恋沙汰に発展しそうだと思ったら違ったり・・・といった「ライトノベルの王道を真逆に走る感じ」を「残念」と表現している訳です。大体この本のあらすじ部分にすら「残念」という言葉が使われているくらいですからして。
そうですねえ・・・昨日感想を書いていた「カンピオーネ!」シリーズがライトノベルのある種の王道だとしたら、その真逆をやっているのがこの話、という感じでしょうか。でもまあ・・・実際は物語が進むに従って主人公の心境の変化なんかもあったりして、少年の成長物語という意味では正しくライトノベルしてはいるんですけどね。

総合

うーん、もう少しで4つ星だけどとりあえず3つ星。でももう2巻は買った。
「under」シリーズもそうでしたが、私はこの作者の視点が結構好きですね。日常のなんでもないところからネタを拾ってくる感じが気に入っています。全体として刺激には欠ける作りの作品ではありますが、描写は安定していて読みやすく仕上がっているという印象です。
後はこういう作風(残念感)を楽しめるかどうか、という所でしょうかね。こればっかりは読み手によって違うでしょうから「とりあえず手にとって読んでみて〜」としか言えないところがなんとも残念です。いや本当に残念な作品ですねえ。
まあ先行きが心配なシリーズ&作者ですが、あとがきによると「under」シリーズもできればまた書きたいと思っているようで、創作意欲だけは無くさないでいてくれているようです。なのでちょっとばかし応援している一読者としては頑張って欲しいと思うわけです。はい。
・・・何気にamazonのレビューでは高評価なようですね。そうすると少しは安心して続きを期待してもいいのかな? とにかく楽しく続いてくれるといいですね。
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