とある飛空士への恋歌(3)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

ストーリー

海と空の最果てを目指して——海の吹き上がる場所「聖泉」を目指して旅立った空飛ぶ島イスラ。そしてそこに集った若者達。彼らは若き飛空士の卵として、イスラ上に設立されたカドケス高等学校に通学を開始した。
そして、その新生活を始める若者達の中には、あのカルエル・アルバスの姿があった。堕ちた皇太子——元バレステロス皇国の皇子カール・ラ・イールである。そして彼の義理の妹であるアリエル・アルバスもそこにいた。そしてもう一人、運命に弄ばれてイスラへと乗り込んだ少女クレア・クルス。数奇な運命によって彼らは近づき、皮肉な運命によって彼らは惹かれつつあった。
飛空士になるための厳しい訓練が続くものの、決して苦しいだけの日々ではないイスラでの毎日は、訓練生達に連帯感と充実感を生み出していた。放逐されたという事を忘れてしまいそうな程に・・・。
しかし、現実は突然襲いかかる。ついに「聖泉」に到達したイスラに対して加えられる、謎の戦力による武力攻撃。それは容赦なく全てを巻き込んでいく・・・という、激動の3巻です。

予想通り

とまでは行かないまでも、恐れていた通りの展開と言える3巻じゃないでしょうか。
このまま丸く収まるような展開をするにはあまりにも火種の数が多すぎましたし、未知の脅威も無くなった訳でもありませんでしたし。しかし、正直言って2巻のラストに示唆された情報がこういった形で本編に絡んでくるとは思ってもみませんでした。てっきり・・・と、これ以上書くと完全にネタバレになってしまうので書きませんが、これは予想外でした。
しかし相変わらず上手いなあと思ったのがキャラクターの作り方と表現のしかたですね。登場する回数は少なかったりするのに何故か印象深いサブキャラクターの面々。多くのライトノベル作家がつまづいていると感じる部分を軽々と乗り越えていく感じは、流石と言ってしまいたいと思います。
見せ方が上手いというか・・・「何かというと劇的」と言えばいいんでしょうかね。キャラクターが物語上で映えるための舞台作りが非常に上手いと感じます。ある特定の瞬間にだけ輝くキャラクターがいたとして、その特定の瞬間を作り上げて、そして切り取って描写するのが上手いんですよね。
時には悲劇的だったりもするその瞬間ですが、それを容赦なく描ききる事で作品に華を生み出していると思います。

しかし

心配もあります。
前作の「追憶」では余計なものを一切そぎ落とした故にあの完成度を誇った、私はと思っているのですが、この「恋歌」はシリーズ化する事を前提として書かれているためか、やはり余分とも言える部分が多く視点も一カ所に定まりません。
結果として、どうしてもストーリーが「線」ではなく「面」での展開となり、散漫な印象になっています。これが今後拡大して「群像劇」になってしまうのではないかという不安を持ちました。・・・これは必ずしも忌避すべき変化という訳では無いのですが、前作とは話の基本の部分が違うというのは、読者としては不安要素ですよね。
加えて2巻でも明らかになったように「『追憶』の遺産」とも言えるものをこの物語では流用しているので、間接的に「知りたくなかった/知らなくてもよかった」情報を知る事になってしまうのではないか、という不安です。つまり「余分をそぎ落とした結果として達成した前作の完成度が、この続編が存在するによって失われてしまうのではないか」という危惧です。
・・・現時点ではこれらは物語全体を決定的に低俗なものにしてしまうようなマイナスの影響を与えてはいないと思いますが(これは読み手によって結構変わるでしょうね。何気に今回も「遊び」の要素が結構ありますし・・・)、今後の舵取りの仕方によっては、私はこの「続編」を「無かった事」にするかも知れません。

総合

鉄板の星4つですね。
上ではちょっと色々と不安に感じた部分も書いてみましたが、面白い事は間違いないのです。
緩いとも言える前半部分から、うってかわっての容赦のない後半。とはいってもギリギリ後味が悪くならない程度に抑えられた物語の急激な展開はメリハリが効いていてページを捲る手を止めさせません。
ラスト近くでは2巻に引き続いて懐かしい響きを持った要素が出てきたりして、上記のような危惧はあるもののどうしても気持ちは昂ぶります。どんな物語を用意しているのか気になって仕方がありません。とにかく続きを期待したいです。
絵師の森沢晴行氏は・・・ん〜上手いんだか微妙なんだか分からない絵師さんですね。カラーはパッとしませんが、白黒イラストは全体的に悪くありません。これでもうちょっと全部の絵に奥行きを感じられればかなり良い感じなんですが、うーん、絵を描く時間が無かったのかな? なんて思ったりしました。

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