ななてんさん。

ななてんさん。 (ファミ通文庫)

ななてんさん。 (ファミ通文庫)

ストーリー

私立高校天臨学園。なかなかに高い学業の水準と、僻地にあるが学費が安いことを理由に人気のある高校。そこに山吹灰史は通学していた。表向きは一般の生徒として。実際は——<A>(エー)と呼ばれる特殊な能力を持った特別な生徒として。
<A>とは極まれに現れる特殊な能力を持った人間の事であり、それぞれが全く異なる能力を持っている。灰史はまさしくその<A>の一人であり、その持っている能力は「限りなく完全な不死」というものだった・・・。
天臨学園はそんな特殊な力を持った<A>の受け皿としての顔を持っており、数名の<A>が実際に通学している裏の顔を持った学園だったが、学園の秘密はそれだけにとどまらなかった。
天臨——その名の示す通り、天臨学園は天空に浮かんだ浮遊島にある学園であり、超常的な力によって存在している人知を超えた学園でもあったのだ。<A>という謎の人類、天臨学園そのものの持つ謎、そして八尋の会という謎の組織・・・そうしたバランスの上に成り立つ物語世界は、一人の転校生を迎えることで動き始める。
蔵有珠美瑠(くらうすみる)アーデルハイト。究極のお嬢さまとも言える彼女はそれだけでも十分に特殊だったが、彼女はそれ以上に特殊極まりない能力を自覚しないままに持っていた。学園を統括する人知を超えた知性体セブンスヘブンに対して絶対的な命令権を行使することが出来るという、謎の能力を。
そして遂に物語の終わりの時がやって来る。「ある事」をきっかけにかつてない混乱を起こしたセブンスヘブンが灰史のところへと駆け込んで来たとき、最後の幕が上がる・・・という感じで3巻で完結のようです。

ん〜

基本的に好きな類の話ですし、設定が凝っているわりには読みやすくて好きなんですが、改めて物語を俯瞰して見てみると「いかにもライトノベルらしい」良くないところが沢山あったりする本ですね、このシリーズ。
例えば主人公が他の少女達に好かれる理由が弱かったり、キャラクターが台詞だけで区別されるような薄っぺらい人物像だったり、セカイ系と言われるような単純なシステムで世の中が動いていたり・・・などなどです。
まあこうしたライトノベルとしての「お約束」や「既定路線」から一歩も足を踏み出していないからこその「読みやすさ」なんじゃないかと思うんですが、う〜ん、このシリーズは確かに「ライト」で「消費される」ための小説ですね。・・・ライトノベルなんだからそれで十分だし、正しい姿じゃん! とも言えますが、それだけじゃあやっぱり寂しいというのが本音です。

つまりは

展開を急ぎすぎたんだろうな〜とか思います。
この3巻ですが、なんだか話が駆け足で進んでいくような感じがして楽しみきれませんでした。いや、普段だったら楽しめたのかも知れませんが、この作品の前に「とある飛空士への恋歌」読んでいましたんで、どうしても小説としての地力の差というか、力強さの差が目立ってですね・・・微妙に読み飛ばしそうになるのを必死に抑えながらの読了となりました。
個人的には文体と波長が合うので楽しめるんですが、じっくりと腰を据えて読みたくなる本かと言われたら違うなあ・・・と、そんな感じです。電車で移動中に読み始めても「絶対に駅を乗り過ごさない」感じ、と言えば伝わりますかね?
もっとキャラクターを掘り下げて、もうちょっと伏線をちゃんと張って、もうちょっとじっくり話を進めていってくれればもっと面白い作品になったんじゃないかという気がするんですが、作者によると「最初から全三巻」として構成されたものだったらしいので、現状はこれが限界なのかなあ・・・ちょっと残念です。

ストーリーの方は

これでラストという事もあって色々な謎が一気に明かされる事になります。
ヘブンズの存在理由、蔵有珠美瑠の力の謎、灰史の力の謎、などなどが一気に全部です。その辺りをちゃんと思い切って書ききっているところは完結編として好感が持てますね。変な色気を出して謎を謎のまま放置したりする本もあったりしますし、それ以前に人気があるのに続きを書かない阿呆がいる中で、ちゃんと作品を完結させようという姿勢は評価されるべきじゃないかと思います。
そういう意味では「全三巻」と最初から分かった状態で読み始めたらやっぱりなかなか悪くないのかも知れませんね。綺麗にまとまっているという意味では過不足無く読めますし、作者のサービス精神もそこかしこに感じます。作者にとってこのシリーズが初めて複数冊にまたがる作品らしいのですが、それを考えてみると順調に成長してきているという感じなんでしょうかね?
今後それなりに動向を注目してみる価値があるかな? なんて思いました。

総合

星3つかな。上では悪く言っていますが欠点が鼻についてイヤという程でもありませんし、こんなものでしょう。
途中で放り出すような事はありませんでしたが、やっぱり面白いと言われている作品と比較すると粗が目立ちますよね。でも、キャラクターの配置や造形、使い回しについてはそれなりに良くできている事も確かで、全員にちゃんと見せ場が用意されているところはポイント高いと思います。
なんだろうなあ・・・もう少し何かのエッセンスが入っていればずっと面白くなるような気がするんだよなあ・・・。渋みというか深みというか、なんかそんなモノが決定的に足りないと思うんですよね・・・。人間って喜怒哀楽以外の複雑な感情を沢山持っているんだよ、で、ライトノベルでもそういうのが書けてないと食い足りないんだよ、とか思ったりしました。
イラストの河原恵氏は相変わらずの可愛らしい絵ですね。カラーイラストも白黒イラストも丁寧な仕事ぶりだと思いますし、もっと活躍して欲しいものです。