コップクラフト Dragnet Mirage Reloaded

コップクラフト (ガガガ文庫)

コップクラフト (ガガガ文庫)

ストーリー

太平洋上に突如として出現した異空間ゲートが世界を一変させたのは僅か15年前の事だ。
地上にはあり得ない奇妙な生き物。魔法。そして全く異なる価値観を持った人間にそっくりな人間たち――「レト・セマーニ」。それは「あちら側」の言葉で言うところの「人間」という意味だ。
そしてお約束のように二つの文明が衝突した。しかし時が過ぎ、幾つかの争いを経た後、二つの人類は交流を持ち始めた。異世界への扉の側に出現した島・カリアエナ島。そしてそこに根付いた都市・サンテレサ市。そこは二つの価値観の入り乱れる太平洋上の混沌の街。
そんなサンテレサ市にももちろん治安組織はある。サンテレサ市警だ。サンテレサ市は「こちら側」に存在するため、市警も「こちら側」の人間で構成されている。そこに一人の刑事がいた。名をケイ・マトバという。
彼は相棒と一緒にある密輸事件に関わっていたが、予想外の出来事が彼らを襲い、彼は長年の相棒を失う事になってしまった。犯人への復讐に燃えるケイだったが、上から一つの特殊な任務を命令される。「あちら側」にある大国・ファルバーニ王国からくる賓客を迎えに行けという物だった。
さっさと捜査に戻りたいケイはこの面倒事をさっさと終わらせるべくしぶしぶその客とやらを迎えに行ったが、「あちら側」から現れたのは一人の美貌の少女だった。名はティラナ・エクセディリカ。彼女は騎士であり、そしてケイが相棒を失う事になった事件を追ってこちらに来たのだという。
ケイとティラナは成り行きから合同捜査をすることになり、異なる価値観のために幾たびも衝突を繰り返す。しかし彼らはそれぞれに有能であり、犯人を追い詰めていく。しかし、その先に待っていたのは想像も出来ないほどの大きな陰謀だった!
・・・という感じの世界観で作られたアクションストーリーですね。ゼータ文庫で出版されていた「ドラグネット・ミラージュ」が改稿されてガガガ文庫から再登場、という訳です。

元々の

ドラグネット・ミラージュ」という作品については私は未読だったりします。
元のシリーズは、私がライトノベルから離れている最中に出版されはじめたシリーズだったのと、やっぱりまあパッとしないレーベルから出ていた関係で手を出しませんでした。が、今回大手のガガガ文庫で帰ってきたというのを切っ掛けとして読むことにしたという訳です。気にはなっていたシリーズですしね。
今回のリニューアルで作中の幾つかの部分が変えられているそうですが、その中でも気になったところがヒロインの年齢設定が変わったという部分ですかね。えー、簡単に言えば「より幼くなり」「よりマイルドになった」という事らしいですが・・・作者に言わせると「入念なリサーチの結果」らしいです。
・・・ぶっちゃけロリータな感じのヒロインになったって事ですね! ある意味で読者のみんなの願いが届いたという訳ですが、おじさんの心はフクザツです。素直に喜んでいいのか、あるいはこの国の行く末を憂うべきなのか・・・。まあ最終的には喜んでしまうので万事オーライです。

話の方ですが

実に読ませます。上手いと感じさせない上手さとでも言いましょうか。
派手に主張するわけでもないのに気がついたらしっかりとした輪郭を持っているキャラクターたちとか、不自然な舞台のはずなのに不自然さを感じる前に物語の中に引き込んでしまう語り口とかについてはもう見事と言っていいんじゃないでしょうかね。
凡作と呼ばれる作品はまずここで躓きますからね。キャラクターが浮いていて感情移入がしにくく、世界観にも不自然さを感じてしまうという感じでしょうか。どんなに設定が良く作り込んであっても、そうですね・・・大体最初の20〜30ページ位? の見せ方に失敗すればおおよそ台無しです。そしてこの作者はその部分の見せ方が抜群に上手いと思います。
この話の序盤で主人公のケイが「猫」と関わってくるシーンが入っているのですが、この一見「無駄」と思える部分を逃さず描写してくる辺りは何気に感心してしまいました。この部分の描写があるかないかで主人公のケイに対する見方がかなり変わると思います。

もう一人の

主人公であるティラナについては結構ベタな見せ方をしていますけどね。
でも最初から美少女補正がかかっていますから、ベタでも全然困らない訳です。少年向けライトノベルとしてはここまで来ればもう勝ったも同然ですね。最初こそ冷たそうで得体の知れない少女ですが、たった一言、

「うにゅっ……」

とか言わせてしまえばもうアレです。私はセーフです。全然セーフですね! ・・・まあゼータ文庫版ではティラナはたゆんたゆん美女だったらしいですが、ロリ化は痛し痒しというかなんというか・・・これから作中で急成長とかするんですかね!? その・・・乳房的なものが!
まあいずれにしてもキャラ立ちのつかみはバッチリであって、後はゆっくりと料理してやれば良いわけですからね。で、案の定ここまで読んで湧き上がった期待通りに最後まで面白く読めてしまうわけです。

それに加え

サンテレサ市に住む憎めない悪党の描写なんかも何気に光りますよね。

「……さいわい、うるわしきミランダ嬢はわれわれの提案をこころよく引き受けてくれた。そうだ。あの慎ましげな淑女は二〇%のギャランティの上乗せで、撮影に際して、さらなる過激な奉仕を披露してくれるというのだ。うむ……わかるかね? 直接的な表現は避けておくが、頭文字にAが付く部位を使う。……そう、Aだ、エイ。おお、ハレルヤ!」

この発言はオニールという僧侶の口走った言葉だったりするんですが、笑わせてくれますね。・・・実際、この「A」という部位がどこの部位を指しているのか個人的に興味津々ですが、きっと私なんかにはきっと想像も付かない部位なんでしょうね! まあミランダ嬢とやらが人間である保証はどこにもないですが。

総合

安心の星4つですね。
魅力的なキャラクターに支えられてクルクルと良く動く刑事アクションドラマです。ちょっとだけ悲しい展開もあったりはしますが、それでも後味が悪くなるほどではないですね。異文化コミュニケーションの面白さとアクションの配合加減もバランスがとても良く感じましたね。
レーベル自体がアレした関係で今まで続きが出ていませんでしたが、こうして無事復活しましたし、あとがきによると作者は続編の執筆意欲も持っているようですので、期待して待ちますかね。・・・まあ、その前に「フルメタル・パニック!」を綺麗に完結させて欲しいとか思ったりしますけどね。
イラストは豪華にも村田蓮爾氏です。絵の美麗さは改めて私が言うようなこともないですが、白黒のカラーイラストもきっちりと良い仕事をしてくれていると思います。安心して読んでいられるコンビですね。

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