[映]アムリタ
- 作者: 野崎まど,森井しづき
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2009/12/16
- メディア: 文庫
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ストーリー
芸大に通う俳優志望の若者・二見遭一(ふたみあいいち)は、ある時同じ学校の生徒が作る自主制作映画への出演依頼をされた。
その映画は学内でも「天才」との呼び声の高い映画監督志望の娘・最原最早(さいはらもはや)がメガホンを取るのだという。しかも二見を使いたいというのはどうやらその監督直々の依頼らしかった。
相手の事を良く知らない二見はその才能に懐疑的だったのだが、出来上がっていた絵コンテを渡された事を切っ掛けにして、彼女の映画制作に積極的に関わることになる。なぜなら、二見は渡された絵コンテの魅力に取り憑かれ、まさに寝食を忘れて丸二日以上読み続けてしまったからだった。
そして映画の撮影が始まる。撮影は順調に進んでいき、そして無事映画は完成したのだが、二見はその映画に奇妙なものを感じることになる――。
映画を題材にしたライトノベル(?)ですね。私からすると初メディアワークス文庫という事になります。
放置プレイ
ってあるじゃないですか。いや、誤解でも錯覚でもなくSMで言うところの放置プレイです。
いきなりで訳が分からないかも知れませんが、あれって不思議ですよね。「放置」って事はつまり放っておかれるって事で、つまりは中途半端な状態で対象を放り出している状態な訳ですよね。未完成の儀式というか、不完全な様式というか、そういう側面を持っているわけですよね。
でも同時に「放置プレイ」として「完成している」という奇妙なプレイですよね。だって放置することこそが一つの完成形なんですから、「ほったらかしている」という未完成な姿こそが奇妙な事に正しく完成している姿な訳です。中途半端で放り出すことこそが唯一正しくエンドマークを打つ方法だという・・・。
いやなんでこんな話をしたかというと、この話を最後まで読み終わった瞬間に感じたのがそんなプレイを強制されているような気分だったからなんですけどね。この作品とSMには一切関係がありませんのであしからず。
上手く言えないんですが
触覚が無いはずの内臓を揉まれているような気分とでも言うか、脊椎とか骨がかゆいような感じというか、表現しがたい気分になりました。そんな所を刺激しちゃダメぇ・・・! って言いたくなるような感じです。
つまらないか面白いかと言われたら面白いです。ライトノベル的なテンポとノリを重視した展開や会話は読みやすいものでしたし、登場人物たちも適度にキャラクターを強調されていて、良くも悪くもライトノベルの特徴を持ち込んでいるような気がしました。
しかし、扱っている内容はライトノベルではあまり見かけないタイプの、一言で表現しづらい感覚で、最後まで読むと何故か登場人物たちに置いてけぼりにされたような気持ちになります。決して感情移入が出来ないという訳でも無いのに、物語から「放置」されたような気分になるんです。
でもその「放置」される状態こそが気持ちよい部分で、かつこの物語の魅力なんじゃないかとか思ったんですよね。だから上で放置プレイなんて言葉を持ち出したわけです。放置はされるけど未完成じゃないというか・・・投げっぱなしだけど中途半端で正しいというか・・・うーん、上手い表現が思いつきませんね・・・。
話の方は
実にシンプルです。
一人の神に愛された天才映画監督と、その魅力に取り憑かれた俳優による奇妙な物語です。ちょっと魔法じみた要素はありますが、それはあくまで小道具の一つであって、この物語の主題は別にあるはずです。
途中まではそれが「映画への愛」なんじゃないかと思っていたんですが、最後まで読むとやっぱり違うなとか思うようになりました。愛は愛なんでしょうが・・・一体なんなんですかねこの愛は・・・。登場人物たちに同化すれば感覚的には分からんでも無いような気がするんですが、本質的な意味では決して理解できない類の愛という感じです。
上で書いているように、まるで放置プレイのようにそっちのケが無いと決して快感に変換できない類の愛・・・なのかなあ、なんて思っていたりします。ちょっと不思議な「痛気持ちいい」快感がこの物語にはあるんです・・・。
総合
星4つかな・・・。
全くそういう要素が無いのに、読み終わった後こんなに「痛気持ちいい」というSMチックな気分になった本は初めてでした。なんなんでしょうね? 誰がこの感覚の由来を教えてくれる人はいないですかね? というか私と同じ様な気分になった人がいたら是非教えて欲しいです。
私の読んだ感想はまあこんな塩梅でしたが、多分誰が読んでも普通に面白い作品だと思うので是非読んでみてください。一般文芸作品というにはちょっとラノベっぽすぎるとは思いますけど、普段ライトノベルを読まない人にもそれなりにお薦めできる作品だと思います。読了感も決して悪い作品ではないはずだと・・・思います。
イラストは森井しづき氏ですね。絵は表紙にしかありませんが、雰囲気のある絵を描く人ですね。でもなんかある意味で表紙詐欺のような気がするというか、気がするどころじゃなくてこの表紙は詐欺だろとか思います。途中まではそうは思わなかったんですけど、最後まで読むと、やっぱりなんか詐欺かなあ、とか思いました。