末代まで! LAP1 うらめしやガールズ

ストーリー

彼は苦労して高校受験を終えて、現在晴れて高校生になることができた。しかし、入学した学校は中高一貫校のため、高校からの新規参入組は初日から微妙な距離感をクラスメイトに感じる事になっていた。そんな中で唯一声をかけてきた北沢秀輝というクラスメイト(こちらも高校からスタート組)に誘われて、彼は新入生勧誘会という催しに参加することにする。
この催しは部活へと新入生を勧誘するためのアピールタイムのようなものだったが、参加はしてみたものの彼には特に興味を覚える部活がなかった。そんな感じだったのだが・・・その最中に奇妙なものを発見する。
会場にある舞台の端には保健室の芦屋先生が座っていたのだが、その脇に大声をあげている二人の奇妙な格好をした少女が立っていたのだ。そしてその側にあるホワイトボードには意味不明の言葉が書いてある・・・。

新入部員募集中!
この文章が読める奴は
ただちに保健室に来い

あのけったいな二人とホワイトボードの文字は何なんだと北沢に声をかけてみるも、北沢にはそんな二人組は見えないし、ホワイトボードにも何も書かれていないという。そんな馬鹿な、と思ってさらに注目すると、彼女らはこんな事を言っていたのだった。

「みなさ〜ん! 聞こえてますか? 見えてますか〜ッ!? わたしたち心霊研は現在、わたしたちを見ることができて、わたしたちの声を聞くことができる霊能力者の方を大募集中です! わたしたちと青春しましょう! 一緒に楽しく現世をさ迷いましょう!」

・・・この話は、なんだかよく分からないうちに末代まで祟られることになった哀れな名無しの少年を主人公とした、何気に熱血で意味不明な物語です。

読む前はね

どーせまたぞろ幽霊の可愛い女の子とか出てきて、なんでか知らないけど主人公に取り憑いて、そんでもって学校生活がラブでコメディでちょっとえっちな感じに転がっていくような話に違いないとか思っていたんですが、なんか全然違うような感じです。
まあラブでコメディな感じは無くもないんですが、どちらかと言えば熱血モータースポーツに分類されるライトノベルのような気がします・・・。簡単に説明すると、

  1. 「気合い」をエネルギーにして走る「妖怪ターボババア」でレースをするのが「幽霊の皆さん」にとっての常識である。
  2. 「ターボババア」に「気合い」を提供するのは「幽霊の皆さん」であり、つまり「幽霊の皆さん」はエンジンであり燃料でもある。
  3. この二つが組み合わされて疾走するマシンと化した「ターボババア」を操縦するのは生きている「霊能力者」である。
  4. レースはとにかく速く走った方が勝ちだが、速いだけでは勝てない。何故なら「霊能力者」は霊能力を利用して敵を妨害することができるからである。
  5. これを「老婆走(ババアレース)」という。全国大会が開催されたりもするし、それどころかプロもいたりするらしい。

・・・。
・・・意味が分からん・・・。
熱血なはずだし事実読んでそう思ったんですが、あまりに珍妙な設定に脳が理解するのを拒絶しているというか、そんな感じですかね・・・。まあ単純に競馬的なものを想像してくれれば分かりやすいような気がします。多分。

面白いか?

って聞かれたら・・・うーむ、なんだか残念な事に「面白い」と答えざるを得ないというか・・・。
ノリとしてはあの「ベン・トー」に近い作品じゃないですかね。ギャグの切れ味はちょっと落ちるんですけど。「どう見ても馬鹿な事を大真面目にやる」という意味で同じ匂いがする作品です。だって高速で走る妖怪ばあちゃんに乗ってのレースですからして。なんか真剣になればなるだけ脱力するというか、意味が分からなくなるんですよね・・・。
そのわりには幽霊たち(「お岩さん」と「花子さん」)がレースに賭ける真剣な想いがシリアスに語られたり、それをサポートする人間(「芦屋先生」)も大真面目に取り組んでいたり、謎のライバル集団「ナイヨレン」とやらがいたりと、まあ普通にレース物として読めるんです。
しかもなんか霊能力による妨害とかも一種の異能バトルとして完成されているし、騎手である霊能力者がそれぞれ個性のある戦い方でやりあったりするのでまあ珍奇なんですけど読めるという、なんとも奇っ怪な物語です。

キャラクターの方も

悪くないんですよね・・・。
主人公は名無しの少年ですが、気がついたら「三号」という名前をつけられているし(「心霊研究員三号童子」という戒名で、略して「三号」だそうです)、お岩さんも花子さんも何気にキャラが立ってます。どうせそんなに目立たないだろうとか思っていたら何気に重要人物の芦屋先生もいい味を出しているし、イケメンでモテ野郎かと思ったら脳が残念だった北沢も目立ってるし、ありがちな無口系少女かよとか思ったらちょっと違ったという土門リサも悪くない・・・と、そんな塩梅です。
正直「残念系」のキャラクターが中心の作品なので、燃えはあっても萌えはねえ! とかそんな感じなんですが、読んだら読んだで損した気持ちにはなれないな・・・という本です。変な作品もあったもんだなあ・・・ってしみじみ思いましたよ。

総合

星4つだな。
微妙にノリきれないギャグのお陰で星が一つ減っていますが、こればっかりは読んだ人の感性によるところが大きいと思うので、試しに読んでみたら? って思いましたね。波長が合えばもの凄く面白い作品かも知れません。
物語の運びというか作りも高いレベルでまとめられているような気がしますし、ストレス無く読めるんじゃないでしょうか。なんか良く知りませんけど第12回学園小説大賞<大賞>受賞作らしいですし、サイフに余裕のある方は読んでみてください。
絵師は猫砂一平氏です・・・というか小説書いている人と絵師が同じ人です。こんなの聞いた事ねえ。とにかく本人が絵を描いているので間違いなくイメージ通りの絵が挿絵として入っているはずです。
・・・まあ絵の上手い下手はともかく、売れなかった場合の責任のほとんどを作者が被るって意味では分かりやすくっていいですね!

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