僕は友達が少ない
- 作者: 平坂読,ブリキ
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2009/08/21
- メディア: 文庫
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ストーリー
くすんだ金髪に睨むような鋭い目つき。転校初日から遅刻をかました挙げ句、自己紹介で(威嚇力のある)低い声と笑顔を繰り出してしまったイギリス系ハーフの羽瀬川小鷹(はせがわこだか)は、穏やかな校風の聖クロニカ学園でものの見事に浮いていた。完全にヤンキーと勘違いされているらしい。別にそんなことは一切無いのだが・・・。
友達が欲しい。親の都合で転校を繰り返してきた関係で親友と呼べるような友人が一人もいない小鷹は、真面目にそう考えていた。しかし、切っ掛けがないまま今日も「適当にペアを作れ」という先生の指示に傷ついていたりした。
そんなある日の事、教室に忘れ物をした小鷹は、部屋の前で中から響いてくる楽しげな声に気がつく。様子をうかがってみるとその声の主はクラスメイトの三日月夜空(みかづきよぞら)という美少女だった。人影が彼女一人の所を見ると、恐らく携帯で話をしているのだろう・・・と小鷹は思ったのだが、よく見れば彼女は手に何も持たずに虚空と歓談していた・・・。
「私は友達と話していただけだ。エア友達と!」
・・・超がつくほど気まずい沈黙ののち、彼女はこうのたまった。エア友達・・・のトモちゃんと仲良くしている最中だったと。しかもトモちゃんは裏切ったりしないし可愛くて頭も良いとのことだった。
この女・・・色々と終わっている・・・という率直な感想の元「リアルに友達作れよ」という至極もっともな発言をした小鷹に対して、夜空は「それができたら苦労はしない」というやはりもっともな返事をしてきた。そして沈黙が場を支配する・・・。
しかし案を出し合った結果、なんらかの部活をやるのが良いのではないか? という結論に達し、活動内容のよく分からないまま「隣人部」という怪しげな部が作られることとなった。
この話は友達を求めて現代をさ迷う子羊たちによる、メタクソな日常系物語です。
なんだか
個人的には平坂読という作家に対して良い印象を持っていなかった(読んではみたけどつまらなかった)ので、よほどの事がない限り新たに手を出すつもりは無かったのですが、各所で評判が良いらしいので手に取ってみたんです。ラノサイ杯でもなかなかの好位置につけていたように記憶しています。
で、読んだ感想ですが・・・面白いですね・・・。
少なくとも今まで読んだ同氏の作品の中では一番楽しく読めたんじゃないでしょうかね。序盤の展開は最近流行の「派手目のやり過ぎ学園ライトノベル」にありがちな感じがしたのですが、その序盤でヒロインたちに思いっきりゲロを吐かせるという大技を繰り出してきたので、ひょっとしたら見所があるかも知れないと思いその後も読み続けたわけです。
「ヒロインがゲロ=見所があるかも知れない」という風に判断した自分の脳がなんとなく心配ではありますが、そう思っちゃったんだから仕方がないですね。私の脳は残念ながらノンフィクションなのが困りものです。この話のようにフィクションだったら良かったんですが・・・まあ自分の脳みそを肉眼で確認したことがあるわけでもないので、ひょっとしたらびっしりとムシとかつまっている可能性も無くはないわけです。
・・・まあ私の脳についてはこの話とは関係ないので割愛しますが。
キーワードは
ずばり、
「リア充は死ね!」
だったりします。強調部は原文のママです。
・・・正確にはヒロインの夜空の口走る台詞だったりする訳ですが、何故か校内で有名な美少女である柏崎星奈(かしわざきせな)という理事長の娘までもが「隣人部」に来ることになり、二人の目と目があった瞬間にこのザマです。
星奈は普段から周囲に取り巻きがいて、女王様のように振る舞っているという端から見たら友達百人いそうなキャラクターという設定なのですが、実際の所同性の友達は全くと言っていいほどいないらしく、性格にも問題がありすぎるというアレな子だったりします。でも一見「リア充」っぽいので上記の台詞が夜空の口から飛び出るわけです。もちろんお分かりいただけていると思いますが、いきなりこんな事を口走る夜空も相当にマズイ子です。
友達いない同士、仲良くやればいいじゃない・・・とか思うのが当たり前の感覚のような気がしますが、同じ友達がいないでも水と油の如く相容れない性格の二人は正面衝突・・・なんですが、なんとなく夜空の方が優勢な感じではあります。主に罵倒芸という方面でですが・・・。
そういうところで優勢に立っても友達はできないんじゃないかなあ・・・という感じがひしひしとすると思いますが、基本的に似たもの同士なのでどうでもよさげです。モンハンをやればクエストそっちのけで殺し合い、ときメモをやれば感情移入しすぎでバッドエンド直行というダメ二人組です。
「……つまりあたしが有希子に嫌われたのは、藤林があたしの悪口を学校中に触れ回ってるからなのね……あの腐れビッチ……!」
憎々しげに星奈が呻く。
「………藤林あかり……ブチ殺す……」
夜空がドス黒いオーラを纏って立ち上がり、ゆらゆらした足取りで部室を出て行く。どこへ行く気だ。
とまあこんな塩梅です。ちなみに有希子と藤林あかりというのはゲームキャラ名です。念のため。
夜空と星奈は同じような精神構造をしているので本来なら相性は悪くないと思うのですが、双方共に致命的なまでに「人と仲良くする方法」を知らないので事態は悪化する一方です。というか友達作りをするはずの部活で、女の子がそろってギャルゲーをプレイしているという構図に大量のクエスチョンマークが付くわけですが、まあそういう話です。
ちなみに
登場人物は他にも多数いまして、登場するキャラクターが増えるたび、新しい展開があるたびに主人公に悪い噂がたつというのがこの話の基本的な芸風となっています。結構登場するキャラクターの数は多いんですが、ページ配分が上手いのかそれぞれキャラ立ちは悪くありません。
最近流行の男の娘(世も末だ・・・)や、邪気眼美少女妹なども標準装備しており、キャラクター萌え方面での隙は今のところ見あたりません。なんとなく癪ですが、主人公の妹である羽瀬川小鳩には登場シーンも少ないのにかなり萌えてしまいました。全裸イラスト付きな挙げ句に甘えんぼな妹・・・俺を殺す気か。
もちろんメインヒロインである夜空と星奈にもラブコメ方面のフラグがビンビンに立つので読者としては安心してラブコメ分を摂取することが出来ます。でもちょっと待てよ? それってつまりリア充じゃね? とか思われるかも知れません。いやそれ以前に美少女二人に囲まれて部活動・・・それってつまりリア充じゃね? と思う方もいらっしゃるかも知れません。もっと溯ると「僕には友達がいない」じゃなくて「友達が少ない」の段階でリア充じゃね? とかまで思い詰めている読者の方もこの過酷な現実には存在するかも知れませんね。
ええ、そうですね・・・まさしくその通りです。この物語はリア充が主人公の物語です。ですので、現実世界で友達がいない方が読まれた場合、その臓腑を鋭く抉る可能性があります。服用には用法用量を守って正しくお使いください。
総合
星・・・うーん、4つかな・・・でももう少しで星5つにするところだな。
ラブコメディとして安心して読める作品ですので、なんか暇だなあと思う人は取りあえず読んでみると良いんじゃないかなとか思います。骨太の物語を読みたいー! というような気分の場合にはオススメしません。が、最近地雷率が高い(ような気がする)MF文庫から久しぶりに両手放しで楽しめる作品が出たな、という感じですね。
そういえば主人公がとらドラ!の竜児型キャラクターですね・・・やっぱり内面と外見のギャップって大事なんだよな・・・とか思ったりしましたが、小鷹の場合は読み進めていくと(というかハーフって時点で)間違いなく非モテではなくモテ野郎なのでなんか死ねばいいとか思いました。友達が少ない? ふざけるな俺のケツを舐めろ!
イラストはブリキ氏です。口絵カラーから本文内の白黒イラストまで、上手く強弱をつけた絵柄で楽しませてくれます。間違いなくこの作品の陰の功労者ですね。絵柄が気になる人は取りあえず口絵を見た後、61ページを開いてみるといいと思う。10年位前のワープロで打ち出したかのようなフォント使いが泣かせる一枚があります。必見。