ほうかごのロケッティア

ほうかごのロケッティア (ガガガ文庫)

ほうかごのロケッティア (ガガガ文庫)

ストーリー

イトカ島という辺鄙な孤島に二つの高校があった。そこに集まる生徒たちはみな多かれ少なかれ”訳あり”の過去を背負ってこの島に流れてきた生徒ばかり。そして、褐葉貴人もそんな生徒の一人だった。
僻地の高校の虐げられた生徒たちの寄せ集めでも、数が集まればまたそこには生徒によるヒエラルキーが形成される。貴人はそのコントロールを学園の理事長の娘からの指示で陰から行う毎日を過ごしていた。ただひたすら駒となって振る舞う何事も無い日々の繰り返しがこれからも続いていくはずだった。久遠かぐやという一人の少女がイトカ島にやってくるまでは。
彼女は貴人に置いてきたはずの過去を突きつける。そしてその弱みを利用して奇妙な要求を貴人に突きつけたのだった。それは「自分の携帯電話を宇宙に返して」というもの。かぐやに言わせると、自分の携帯には宇宙から来た友達が宿っているのだという・・・。
もちろんそんなバカらしい話はあるはずがない。しかし弱みを握られた貴人にその要求を拒否する事は出来なかった。しかたなく彼は他校の生徒たちを巻き込んでロケットを打ち上げる計画に足を突っ込んで行くことになるのだが、次第にそのプロジェクトにのめり込んでいくことになり・・・。
奇妙な動機と奇妙な結束で宇宙を目指すことになった少年少女たちの、不器用な青春の一幕を描いた作品です。

なんとも

形容しがたい雰囲気を持った作品だなあ・・・というのが読み始めの感想ですかね。
何しろ生徒がみな”訳あり”な集団で作られた学校と、そこで暗躍する主人公という奇妙に痛々しい状況から話が始まるからですが。とにかく生々しくて痛々しい部分が最初は目に付きますね。主人公の妙に渇いた感覚を経由して物語を見ることになるので、本当ならそれ程読むのに苦痛を感じないフィルターがかかっているはずなんですが、それでも読むのがちょっと辛いというか・・・。
少なくとも表紙絵から受ける印象で読み始めると結構辛い思いをするかも知れません。表紙だけ見ると一見爽やか青春群像って感じですもんね。実際にはかなり違うんですが・・・かといってこの話が青春の暗部だけで出来ているかというとそういう訳でもなくて、若者らしい愚直さみたいなものも沢山散りばめられていて・・・いや、確かに若さってこういう分類不能な心の動きの集大成の事だよなあとか思ったりもしましたね。

話の展開は

基本的にシンプルで「かぐやの携帯を大気圏外までロケットで飛ばすために奮戦する生徒たち」という事になるんですが、それだけだったらここまで盛り上がる話には出来なかったような気がします。
「ロケットを飛ばす」という目的を達成するために、傷を舐めるように、傷を癒すように、傷をつけあうように貴人たちは日々を過ごして行くことになります。その一筋縄ではいかない感じが丁度いいスパイスになっている事は間違いないですね。もちろんロケットを飛ばすということ自体が非常に難しい挑戦だという事もありますが、それに加えて「傷ついた少年少女の心の動き」という複雑で難解なプラスアルファがあるという事ですね。
とにかく、貴人にとってロケットを飛ばすことは最初こそ脅されて始めたことでしたが、いつのまにか貴人は手段と目的が入れ替わり、電波な発言をするかぐやの動機は自然な肉付けがされていき、ぎくしゃくしていた彼らの関係は熟成されて、気がつけば彼らの青春を応援しているという奇妙な本になっていきます。

「Give me a Go, no Go for Launch!」

・・・ある意味なんて事はない台詞なんですけどね・・・気がついたらメッチャ燃えるキーワードになってしまっているところがこの本のマジックでしょうか。いや「ロケットを打ち上げる」という挑戦そのものが孕んでいるロマンが吹き出しているだけなのかも知れませんが。

キャラクターは

非常に上手く作られているという印象ですね。主人公の貴人のシンプルなようで複雑怪奇な性格はもちろん、彼を脅して焚きつけるかぐやのこんがらがった心の動きも良く書けていますし、貴人を操ろうとする理事長の娘の那須霞翠に、ロケット製造の重要なところを担うことになる郡涼、五反田八郎、千住高介の面々。それぞれ個性的で魅力的・・・というかリアルな感じが良く出ていますね。まるで実在の人物をそのまま物語の中に連れ込んだような生々しさがあります。
まあ登場人物たちは一応ライトノベルらしく性格が派手目に強調されてはいますが、決して子供だましになるような安っぽさがないですね。派手さはないけれどもきっちりと自己主張をする登場人物たちの姿を追いかけているだけでも楽しんで読めるんじゃないかと思います。
彼らの生々しい青春は決して陽気で楽しくて痛快と言った陽性のものだけで彩られている訳では無いのだけれども、それでも匂い立つような鮮やかさを持っているように思いました。

総合

星4つで確定ですね。
爽快さとかが欠ける感じがちょっとありましたので星5つまではいきませんでしたが、安心して人におすすめできる良作品なんじゃないかと思います。ロケットが好きでもそうでなくても、宇宙開発とかに全く興味が無くても、この本を読み終えたらきっとロケットが好きになっているんじゃないかと思います。
不器用で格好悪い青春ですが、段々と一心不乱になっていく若者の姿はいつ見ても良いものです。全然関係がないのになんか高校野球とかがテーマのラノベを読んだような気持ちになりました。何気に爽やかなエンドマークが付く感じも良いですね。読了感が良いというのもポイントが高いですね。やっぱりライトノベルはかくあるべしだなとか思いました。
イラストはしずまよしのり氏です。表紙を見れば分かるかと思いますがカラーイラストの出来は見事ですし、本文内の白黒イラストも丁寧で良いですね。それにちゃんと野郎だけのイラストとかも付けているところに好感を持ちました。この話にジャストフィットな絵師さんだったんじゃないかなと思います。

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