ココロコネクト ヒトランダム

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

ストーリー

どこの学校であっても集団からはみ出す連中というのはいるもので、彼らはまさしくそのはみ出し者と言えた。
別に彼らはアウトローを気取っているわけではないのだが、気がついたら周囲から浮いている感じ。かと言って無視されたり迫害されたりというようなマイナスの扱いを受けているわけでもないという、そんな生徒たちが集まる部活があった。名前を文化研究部、通称文研部という。
ただし部活の名前や活動は殆ど名ばかりの部活動で、その実体は仲良しクラブとでも言うべきものだった。そもそも文研部自体が彼らによって作られた新規の部活だったのである。この学校は部活に対する認可基準が非常に甘く、はみ出した彼らが適当にでっち上げた部活だったのだ。
現在文研部の部員は総勢5名。八重樫太一、永瀬伊織、稲葉姫子、桐山唯、青木義文である。彼らは今日もいつも通りに青春を退屈していたのだが、そこで一つの事件が起きる。桐山と青木の魂・・・というか人格がなんの前触れもなく突然に入れ替わったというのだ。
事態に遭遇していない他の3名はその出来事があったと主張する2人の話を半信半疑で聞いて居たのだが、次第にその現象は拡大していき、最終的には文研部の全員が無秩序かつ無作為に人格の入れ替わりを経験することになるのだった。
普通にはありえない出来事に戸惑う彼らだったが、連絡を密に取り合いルールを決めることでその異常事態を乗りきろうとしていたのだが、入れ替わりが本来なら表に出るはずのなかった彼らの内面を明らかにしていって・・・。
という感じのちょっと異能系学園ライトノベルです。えんため大賞特別賞受賞作らしいですな。

ん〜

つまらなくはない、と言う感じですかね?
いや、シンプルな仕掛けで上手いこと話を作っていると思いますよ。基本的に「人格が入れ替わる」という事以外には何か理解不能な事が起こるわけでもない話なのですが、それでもちゃんと一つの物語として魅せる作品として仕上げてきているという印象を受けましたね。
話を盛り上げるために派手な仕掛けを取り込みがちなライトノベルにしては、この地味とも言える作風はある意味で異色作と言えるかも知れません。が、それでいて読んでいて飽きさせないというのはそれなりの実力を感じさせるものでした。
描写の方も落ち着いた印象で安心ですし、心理描写なども巧に思います。また、一歩間違えばベタなコメディか救いのなさげなシリアスに傾きそうな所を上手くコントロールして全体として穏和とも言えるムードで統一しているのは個人的にポイントが高いです。

んが

じゃあ面白いのかと言われるとそれはまた別の話でして・・・。
なんというか・・・妙に説教臭いんですよね。地の文が特にそうなんですが、登場人物の心境を語っていると言うより作者の主張をそのまま生で取り込んで書き上げてしまっているという印象があるんですよね。それが鼻につくという感じです。
まあ作家だって言いたいことの一つや二つはあって当たり前ですし、ある意味小説なんて言いたいことのカタマリみたいな物だとは思うんですが、本来物語の中に上手く隠して仕込むそれを、そのまま言葉に載せて見せつけてしまっているという印象です。そうなると・・・なんというかちょっと「クドイ」ですね。素材より調味料の味が前面に出てきてしまっている時がしばしばあるとでも言いましょうか。
でもまあカレーみたいに香辛料の固まりで出来ている料理があるように、そういうライトノベルがあってもおかしい訳じゃあありません。でも味付けが勝負の料理の場合、そのスパイスの配合具合が気に入らなければ即その料理そのものがあわないという結果に繋がるわけです。私の場合はそれが「クドイ」という印象に繋がった訳ですが。

話の方は

基本的にはシンプルですね。
それぞれが心の中にちょっとした秘密や問題を抱えていて(厳密には3人の女生徒)、それが「人格の入れ替わり」を切っ掛けにして表面化していく・・・という展開です。そしてそれに正面切って向かうの主人公の八重樫太一という構図になっています。
うーん、悪くないんですけどね・・・でもこの主人公の太一くんに微妙にアリエナイ感が漂っているというか・・・微妙に説得力の欠けるキャラクターのような気がしますね。良くできすぎているというか、上手い方向に壊れすぎているというか・・・なんていうのかな、ギャルゲーの主人公みたいに都合が良くできていると言えばなんとなく伝わりますかね? あっちもこっちも上手くやれる、気がついたら支えになっている、上手く相手の心の大事な所に入り込める・・・と、そんな塩梅です。
知っている人にしか分からない例えで言いますと、Fate/stay nightの主人公の衛宮士郎を彷彿とさせる性格ですね。アレに比べれば人間的ではありますが、同じ欠落を持っている匂いがプンプンします。まあ話の中心に据えるには丁度良いキャラクターのような気はしますが、それにしては主人公の心の裏側というか、暗部? が語られる部分が少なすぎたかな・・・という気がします。
まあ感情移入がしにくいというわけでもないんですが、そんな訳でどうしても少しばかり超越しちゃっているような感触がしましたね。変に悟っているというか。高校生らしくないというか・・・まあそんな主人公+上で書いた説教臭さが加わって、総合的な印象が「なんかクドイ」と、そういう訳です。

総合

うーん、星3つかなあ?
雰囲気は悪くないし、心理描写は特に巧みな感じですし、最終的な読了感も良く、比較的楽しい作品だとも思うんですが、手放しで面白いと言えるような作品でもないのかな・・・という訳でこの星の数になっています。もう一つカタルシスを感じるような展開があればな〜と思った作品でした。「特別賞」という微妙な賞の受賞もなんとなく頷けるかなと。
そういえば、作中で出てきた色々な謎が放り出されたまま終わっているのも気がかりと言えば気がかりです。まあ解決されなくても本筋には関係の無い謎だったりはしますが、気になる物は気になりますよね。
イラストは白身魚氏です。カラーイラストの色づかいが印象的な絵師さんですね。白黒の方もなかなかに良い仕事をしていると思います。でもこの絵、というかキャラクター? がどっかで見たことのある顔なんだよな・・・ライトノベル以外のどこかで・・・なんだったかなあ・・・?

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