カンピオーネ!(6)神山飛鳳

カンピオーネ! 6 神山飛鳳 (カンピオーネ! シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

カンピオーネ! 6 神山飛鳳 (カンピオーネ! シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

ストーリー

神を殺めた者は、その神の持つ権能を奪い取る簒奪者となるという――。
そして極東に一人の「神殺し」が存在した。名を草薙護堂といい、超越者である「カンピオーネ」となるまでは比較的普通の高校生男子の一人だったが、闘神ウルスラグナを結果的に殺した彼は今や世界に7名しかいないというカンピオーネの一人であり「王」と呼ばれる存在になっていた。本人は迷惑そうであったが。
護堂が「王」と呼ばれるのは名称だけの事ではない。世界中の魔術結社から「王」としての歓待を受けるし、彼を助け彼の力になろうとする者が自然に護堂の傍に集まってくる「力」を自然に有していた。結果として護堂の周りは忠信と呼べるような存在が常日頃から取り囲んでいる。みな美少女ばかりであったが、ハレムの一つや二つなど「王」が持っているのは当たり前――というのが世の中のカンピオーネに対する認識だったのだ。やはり本人は困惑していたが。
いずれにせよ、護堂の周りは美少女で固められている。自ら「愛人」と言って憚らないエリカ・ブランデッリ、「正妻」と人に呼ばれる万里谷祐理、自覚的に護堂の「騎士」を任じているリリアナ・クラニチャール、などなどである。
そしてその中の一人の万里谷の妹が今回の事件を連れてくる。万里谷ひかりはまだ小さな少女だったが、既に姫巫女見習いとしての修行を積んできており、その事である「お役目」を引き受けるように要請されていたのだった。しかもその「お役目」は「まつろわぬ神」に関するものだという・・・。
内容が内容のため見過ごせないものを感じた護堂は、ひかりの相談に答えて一肌脱ぐことに決めたのだが、その小さなはずの相談事は芋づる式にもの凄い大物を引っかけることになってしまうのだった! それは大陸に住まう伝説的なカンピオーネの羅濠教主――羅翠蓮その人である。
今回はそんな感じの6巻です。

面白い

ですよ?
いかにもライトノベルでしかあり得ないような設定やら世界観が充ち満ちているのに、浮ついた中二病的妄想のようなものを全く感じずに読めるという希有な本ではないでしょうか。聞いたことのある神々の名前が序盤から頻出する作品――レヴィアタン、テスカポリトカなどですが――なんですが、地の文章が硬く重厚なお陰でその程度の名前では作品のイメージが揺るがない、とでも言いましょうか。

少女が脱ぎ捨てたトーガの紅色には、彼女の血も混じっているにちがいない。
「我を庇護せし神々よ、我が身中より魔性の呪詛を駆逐し給え! ルガル・エディンナよ、ラタラクよ、御身らは我が胸と膝! ムーラよ、我が壮健なる両足となり給え!」

聞いたことがあるような言葉や一般的な言葉の連なりでありながら、しっかりとした土台と知識を感じさせる言葉がまさしく「呪詛」や「祝福」といったイメージを読者に送ってきてくれます。これは作中のどこかだけという訳ではなく、全編続きます。和風、洋風、中華風、中東風など様々なイメージでそれを楽しむことが出来るのはとても嬉しいですね。

また

こうしたシリーズは話が進むにつれて「今までに登場させたキャラクター」や「既に造り上げられた設定」を流用してセルフパロディみたいな作品作りに劣化するものが多いように思うんですが、このシリーズはそれを全くと言っていいほど感じさせません。
もちろん今までに登場してきた要素は使いますが、それに安住せずに新しい展開や新しい要素を出し惜しみしないでどんどんとつぎ込んでいるという印象を受けますし、なんというか作者の人が一体どこまで神話や魔術や儀式と言った方面に引き出しを持っているのか興味が湧いてくるような作りと言っていいんじゃないでしょうかね。
それに、毎度のように歴史的な史跡や大都市を粉砕しながら行われる神々の大乱闘には往年の特撮映画に見られるような痛快さがなんとなくあります。別に壊されるから嬉しい楽しいとかではありませんが、やっぱり派手な話作りというのはライトノベルの醍醐味でもありますしね。という訳で今回も有名な観光地が派手にぶっ飛びます。

ところで

今回はいきがかり上とんでもない相手と大バトルを繰り広げるはめになる護堂ですが、やっぱり彼はなかなかに魅力的な少年ですね。
もちろん百花繚乱と言っていい少女達の煌びやかで艶やかな姿が本作の見所の一つであるのは間違いないところですが、それ以上に「締めるところはきっちり締める」「やると言ったらとことんやる」「なあなあのままでは済まさない」というまさに「闘神」じみた性格を持つ草薙護堂が物語の中心にいて、作品をきっちりと引き締めているからなんだなあ、なんて思ったりします。

「勝てるかどうかが問題じゃない。やるかやらないかが問題なんだ。そして俺は今、大いにやる気だ! ここまで頭に来たのはひさしぶりだぞ!」

敵がいかなる魔神・妖怪・悪鬼の類であろうと、戦うべき時には決して下がらず戦う事が出来る主人公と言う訳です。まあ「王」と呼ばれるカンピオーネになるだけの事はあるという所ですね。数多の美姫・麗人が彼に惹きつけられるのは、神の力を簒奪した超越者だからという単純な理由だけではないという事ですね。

総合

なんか星5つにしちゃおうかな?
積み重ねが徐々に花開いてきた感じでどんどんと面白くなっているように感じます。超越的な力が乱舞して破壊が積み重なる割りには単純な「悪」という存在が登場しない(多神教的な作品作りの真骨頂という感じでしょうか)というのも読んでいてポイントが高いです。善悪二元論は分かりやすいですが、その分だけ奥行きに欠けるのも事実ですからね。
キャラクターも魅力的、物語も外連味の無い作り、そして派手なアクションとくれば面白くない訳がないです。とにかくライトノベルらしいライトノベルでオススメは? と聞かれたらこの「カンピオーネ!」がその作品の中に入ってくることは個人的に間違いないところです。
ところで、作中で護堂とリリアナが賭をしていますが・・・結果はどうなるんでしょうね? なんか護堂が負けそうな匂いがプンプンしているんですが、まさかリリアナがこういう方向に伸びてくるとはなあ・・・という気分です。実際その立場に就いたら、もの凄くきっちり仕事をしそうでなんかちょっと手強そうです〜。
イラストはシコルスキー氏です。アクションシーンとか書かせるとダメダメなような気がするんですが(例えば295ページの一枚)、なんだかんだ言ってこの作品には合っている絵師さんなのかも知れません。本文が比較的濃い方ですから、イラストまで濃いとなんか疲れる本になりそうだからですけどね。