薔薇のマリア(13)罪と悪よ悲しみに沈め
薔薇のマリア 13.罪と悪よ悲しみに沈め (角川スニーカー文庫)
- 作者: 十文字青,BUNBUN
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/04/01
- メディア: 文庫
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ストーリー
サンランド無統治王国の首都エルデンを再び覆う死と暴力の影。それは多くの人に消えない傷を残したあの恐るべき怪人SIXの再臨を意味していた。
再び吹き荒れるSIXの暴力と悪徳に、SIXと対立していた「秩序の番人(モラル・キーパーズ)」はSIXの横殴りの攻撃によってまた柱を失う。ヨハン・サンライズ――かつて戦いの中で非業の死を遂げた太陽鬼デニス・サンライズの義理の息子であり秩序の番人の実質的リーダーだった男が、SIXによって倒されたからである。
中心を失って迷走し弱体化する秩序の番人と、その現総長・羅叉に対し、クラン・ZOOの園長であり秩序の番人にはその結成時から関わりの深いトマトクンは冷徹に告げる――「今のお前に秩序の番人の総長を名乗る資格はない」と。
派手な方法で秩序の番人の再構成を始めるトマトクンは、反発する秩序の番人の構成員達と「ある方法」で筋を通そうとする。それはマリアローズが発案したプランであったが、ZOOメンバーとトマトクンの支持によってとんとん拍子でお膳立てが整えられていった。
秩序の番人に訪れる一つの転機――それはSIXとの最終決着の時が近づいたことを意味していた。トマトクンにとっても、マリアローズにとっても、そしてルーシーにとっても、あるいはベアトリーチェにとっても、SIXに傷つけられた全ての人間が生きるにせよ死ぬにせよ、出来事を精算する時がやってきたのだ――。
悪徳の街の全てを巻き込んで戦いの炎が再び吹き上がる! 血と憎悪、そして人間の尊厳を描き出した「薔薇のマリア」の最新刊です。
あらすじには
ルーシー編のクライマックスという風になっていますが、ぶっちゃけルーシーは空気ですね。
もちろんルーシーを切っ掛けとしてこの流れが始まっているのは確かですが、SIX絡みとなると他にも多くの人間が因縁を持っているので「薔薇のマリア」という話全体が大炎上してしまうんですよね。結果としてルーシーどころでは無くなっているという感じです。ですけど話は激しく動きますので全体として全く問題はない感じです。
というか久しぶりに大乱舞という感じですね。毎度毎度色々な出来事が起こる「薔薇のマリア」シリーズですが、今回は色々と派手です・・・というか今回も派手というか・・・色々な人間の想いが無茶苦茶な情報量で書かれるので、いったい何について書けばいいのかよく分からなくなる位です。
幾つかの重要な謎もこの最新刊で明らかになるんですが、正直それらの話の根幹に関わると思われる謎の解明が霞んで見える程に登場人物達の情念が渦巻いていますね。まあそうした世界の謎とキャラクターの魅力の双方があってこその「薔薇のマリア」シリーズな訳ですけどね。
とにかく
素晴らしいほどの書き込みですね。
他の文庫に比べてもページ当たりの文字数が多いスニーカー文庫で500ページ近いボリューム、加えて少ない改行で隅から隅まで書き込まれた内容はとにかく読む上で読者の満足感をきっちり満たしてくれる感じです。まあ正直に言えば・・・登場人物の心情描写などで「別にここまで書かなくてもいいよなぁ」と思う箇所が幾つか無くはないんですが、それも含めてこのシリーズの魅力ですしね・・・。こういう作品を前にすると、感想をどう書けばいいのか迷うことがあります。どこを取り上げても重大なネタバレに繋がるような気がして上手く書けなくなると言うか、どこを明らかにしても人の楽しみを奪うことになってしまうのではないか・・・そんな事を考えるからです。
ところで今回、登場人物の誰かに感情移入することが殆どなく最後まで読み切ってしまいました。でも不満は全くと言っていいほどありませんでしたね。それぞれがそれぞれの過去と現在を持っていて、未来に向かっていこうとしている姿がしっかりと書かれているので、感情移入出来なくても充分に楽しいのです。
「登場人物に共感できるか出来ないか」というのがライトノベルにとって最も大事なことのように感じるときがありますが、実のところそんなことは話の楽しさとなんの関係もなくて、単に自分の脳みそを彼方まで跳ばしてくれるだけの熱量が物語の中にあればいいんだ、という事を再確認させてもらった一冊でした。
一応
多少話の内容の方にも触れておきますが、今回はトマトクンが全開です。どの位全開かというと一冊丸ごとまるで主人公かという位の大活躍です。つまり
「――がああああああああああああああああああああ……!」
とか叫んで大剣を振り回しまくっているという事ですが、それ以上に今回はリーダーとしての采配の振るい方までが基本的に完璧です。ディオロット――diealot――と、あるいは”大いなる痛み”――MaxPain――と呼ばれるその本質をかなり剥き出しにしているという事ですね。
トマトクンが本気になると芋づる式にサフィニアも全開になるので、
「……おい……!」
とか言ってみたり、贄の園から蠅たかり姫とか呼び出したりすることになります。でかくてキモくて臭くて汚くてグロいですね蠅たかり姫。でもその絵面やらえげつなさが素晴らしいですねこの召喚獣。「厭亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞亞……!」とか言いながらも攻撃されたら確実に物理ダメージに加えてステータス異常が付いてきそうな感じがベリーグッドです。
とにかくZOOのこの二人が本気になってしまっているし、ルーシーが関わっているという事もあるのでマリアローズとユリカも本気になります。マリアローズが本気なのでアジアンも本気になります。カタリとピンプはいつも通りですが、結局全面戦争ですね。
総合
今回は5つ星。
「薔薇のマリア」は無駄や隙がないというような作品ではありません。ある意味で無駄だらけな文節の繋がりで出来ているという印象すら受けますが、それが逆にこの物語に他の作品には無い生々しさを与えているようです。
この話は血生臭い群像劇で、時として登場人物に対して容赦のない展開が繰り広げられますが、しかしその「容赦の無さ」が登場人物たちを確実に成長させていっているのが確かな説得力で綴られています。とくにラスト付近でのある人の行動や発言には痺れましたね。形を変えても確かに意志と想いは受け継がれて、そしてそれを強くするように時が積み重なっているのだな……という事を感じさせる出来事でしたね。
イラストはBUNBUN氏です。カラーイラスト、白黒イラスト共に安心の出来映えだと思います。この水準で挿絵を付けてくれるのであれば作者の人もきっと安心でしょうね。