羽月莉音の帝国(2)

羽月莉音の帝国 2 (ガガガ文庫)

羽月莉音の帝国 2 (ガガガ文庫)

ストーリーは省略。めんどい。

読んでみて

真っ先に感じたことと言えば、ライトノベル読者である自分が「ライトノベルに一体何を求めているのか?」という根源的な部分に対する答えとも言えるものだったかな、と。
この話にあるのは詰まるところ「数の力」であり「金の力」であり「暴力の力」なのです。・・・そういう物を一通り取りそろえたものを何というかというと・・・一言「現実」という事になるでしょうか。理想はあっても夢はない、あるのは「綺麗な夢のように見える現実」だけ――と言えば一通り説明できるかも知れません。
そしてそれらを盛り上げるために用意されたのは傀儡のように動き回る感受性を失った魂無き人形達であり、勝てば官軍負ければ賊軍というドライな人間原理がそこにあるのです。
さて・・・ここで敢えて「私たち」と言ってしまいますが、ライトノベルに私たちが求めるものとは一体なんでしょうかね? 個人的にはこう思います。それは、「数に打ち勝つ個の意地」であり「金の力に勝つ感情の迸り」であり「暴力に打ち勝つ優しさ」であるのじゃないかと。

そう考えると

この話はある意味において「反ライトノベル」の頂点を極めている作品と言えるんじゃないかと思います。
金を集め、暴力団を抱き込み、事業展開に困れば買収を画策し・・・いや、それは確かに現実において正しい方法で「強くなる」ための道でかも知れません。でもそこに夢はあるのだろうか? と私の場合は思わずにはいられませんでした。
同じガガガ文庫の名作「AURA  〜魔竜院光牙最後の闘い〜」にこんな言葉が書かれています。

けど俺は、俺たちは、本当は。
神を、魔術を、怪物を、神秘を、奇跡を、伝承を、終末を――生きる心添えにしたい。

この作品はそれを真っ向否定する作品です。生きる心添えとも言えるものは「金と力」であり、夢ではないのです。・・・そういえば1巻で莉音はこう言っていますね「人の性は悪よ」と。なら人の中でのし上がっていく彼らこそが「悪そのもの」なのではないでしょうか。
さらに言えば莉音達はこの2巻でヤクザ達を利用して自分たちの勝利を引き寄せようとすらします。それは「悪を利用しながら善人面で見せかけの夢を語る」吐き気をもよおす邪悪である、と言えるような気がします。

はてさて・・・

実際のところ、それらは現実社会で生きていく上で非常に重要なスキルである――という事は否定しません。私もこの社会に属している以上それらの力の一部に組み込まれざるを得ないからです。でも、だからこそ私たちはライトノベルに、現実にはあり得ないような「夢」や「希望」や「幻想」や「優しさ」を求めているのじゃないかと思うのです。
金や地位や仕事で現実に厭と言うほど組み込まれているからこそそれを強く思います。学生達が読んだらどう思うか分かりませんが・・・私はこの物語をどうしても前向きに評価することが出来ません。少なくとも「ライトノベル」としては。
出来レースは嫌いじゃありませんが、都合良く動くだけのキャラクターになんて興味はありませんし、知恵と機転を利かせて危機を脱するのは楽しいですが、自らが作り出した敵を力押しで押しつぶそうとする主人公なんてまっぴら御免です。
結果として――残るのは「No」の一言です。ライトノベルが好きであればあるほどこの「ライトノベルらしきもの」に対して「Yes」と言うことは出来ません。・・・難しく考えすぎ? 確かにそれを否定できません。ですがこの話にはどこか「ライトノベル」そのものに対する嘲りの匂いを感じるのです。
――ほら、ライトノベルっぽくかみ砕いて俺が教えてやるよ。現実はこうだろ? 力こそが正義だろ? 金がなきゃ世の中少しも動かないだろ? 暴力に抗うには暴力しかないだろ? 現実と幻想の区別なんてないだろ? という作者の裏側にある微かな――嘲りを。
過酷な現実を前に暮らし、疲れ果てて寝る前のほんの一時にライトノベルを通じて「あり得ない夢」を見たい、と願っている私をまるで見下すかのようにして語りかけるそこに――少なくとも私の求める物語はかけらもありません。

総合

星1つにしなければいけないと思う。
確かにライトノベルの体裁を整えてはいますが、この本は背後に上記のような欺瞞を含んでいる作品だと私は思います。現実に少しのエッセンスをたらして幻想を語るのがライトノベルであるなら、この本は幻想に見せかけた現実です。その不愉快さはある意味で筆舌に尽くしがたいですね。この感覚って「寄生獣」を憎む人間の気持ちに似ているでしょうか。なまじ人間の姿をしていやがるから――というアレです。半端に出来が良いのも考えものという気分ですね。
一定以上の年齢に達していて社会に出ているという自覚のある人なら、こんな本を読むくらいなら普通にノンフィクション作品を読んだ方がよっぽど楽しめるんじゃないでしょうか。1巻の星4つからすると星1つというのは大暴落ですが、作品の方向性が見えた以上星の数に妥協を見せても意味はないですしね・・・。
イラストは二ノ膳氏です。仕事ぶりはなかなかですね。作品が作品だったので正当に評価できているとは言えないですけど、個人的には好きな絵師さんです。今後も頑張って欲しいですね。