フルメタル・パニック!(11)(12)ずっと、スタンド・バイ・ミー(上)(下)

ストーリー

決戦の地は定まった。それはミスリルがかつて拠点としていた孤島・メリダ島。
アマルガム、いや”ささやき”に魅入られた者達はそこを拠点として世界改変の一歩を踏み出そうとしていた。そしてそれに反抗するために残り少ない戦力を集結させるミスリル。しかしアマルガムの戦い方は狡猾だった。世界で軍事的な緊張感の高まる中、致命的な一撃をもたらそうとしたアマルガムは、核施設の乗っ取りを実行する――それはメリダ島から遠く離れた中東の地での出来事だった。
今の世界を救うためには核を発射させるわけにはいかない。しかし世界の改変を止めるためにはメリダ島で動かされるはずのTAROSの作動を止めなければならない。二者択一を迫られる状況の中で、テッサは苦渋の決断をすることになる。希望、戸惑い、疑念、後悔、焦り――幾つもの想いを抱えたままミスリルは最後の闘いに臨むことになる。そしてそこにはもちろん愛機・レーバテインを駆る相良宗介の姿もあった・・・。
12年の時を経て遂に完結! これぞライトノベル! という王道を突っ切ったシリーズとなりました。

感無量

ですね。単なる一読者の私でさえそうなんですから、きっと作者の賀東招二氏の内面はもっと凄いことになっているに違いありません。
思い起こせば12年前(あとがきに書いてありました)、「フルメタル・パニック!」のタイトルを初めて見たのはドラゴンマガジンの誌上での事でした。最初見た時はそのバッタもん臭いタイトルに口を歪めた記憶があります。こんなにストレートに某映画からタイトルをちょっぱって来たライトノベルなんてろくなもんじゃねえに違いない、という位には思っていたと思います。
・・・が、いつのまにやらシリーズを追いかけるようになり、長編を読み、短編を読み、2巻の「疾るワン・ナイト・スタンド」に至っては本のページを捲る部分が手垢で茶色く汚れる位になるまで読み返していたりしました。続刊が出るのを一日千秋の思いで待っていたわけではありませんけれども、新刊が出た時にはいつも必ず発売日に買っていたような気がします。まあそれだけ毎日本屋に通っていたという事なんでしょうが、12年経っても同じように行動しているところを見ると、きっとこれはもう一生直らないような気がしますね。

前巻の

「せまるニック・オブ・タイム」の感想ではかなり厳しめの事を書いたんですが、個人的にはその(一方的な)期待に完璧に応えてくれたと思っています。宗介もかなめも作中で色々と失ってきたものがありましたが、最終的に無くしたもの以上のものを取り返して、見事に黒字でやり遂げたという感じでしょうか。
もちろん登場した全ての人物が上手く収まるべき所に収まったという訳ではありません。この話は人が死ぬ話であり、人を殺す話であり、そこには善人も悪人も戦闘員も非戦闘員も無かったからです。理不尽な死や無駄と思えるような死もありました。後味が悪い部分も無かったわけではありません。
しかし、それでも宗介とかなめの物語としては見事にやり遂げてくれました。それ以上は望むべきでは無いのだろうと思っています。思わせぶりに書かれた伏線などが回収されていないと思える部分が無くもないのですが、別にそれでも一向に構わないのかなという印象すらあります。そんなものは”今”の宗介とかなめにとって些細な事だと思えたからです。

ああ、それから

作品と全然関係ない私事でなんですが、上巻を発売日に買ってはいたものの、読んだあとで一ヶ月後の下巻の発売を心穏やかに待つ自信が欠片も無かったので、下巻を手に入れるまで読むのを封印していました。こうして下巻も無事発売されてようやっと読むことが出来て幸せです。この一ヶ月自分でも良く耐えたと思いますねぇ・・・。
目次を見た瞬間は「メカ設定」の文字が二つも見えたので、これはもしや某紅的な分冊割り増し商法の再来か!? とかドキッとしましたが、実際にはただの杞憂だったのでホッとしました。・・・ここまできてそんなことやられたらどうしたらいいか分からなくなっちゃいますもんね・・・。
まあそんなつまらない心配をよそに今回もきっちりとやってくれました。下巻の宗介の台詞、

「これから台無しにしてやるぞ」

から始まる一連の部分は痛快以外の何物でもありませんでしたね。最近はゾンビを殺したりしている某漫画家による某漫画の某少佐を彷彿とさせるような台詞を宗介が口走っていましたが、この場面、この瞬間にはこれ以上相応しい言葉なんて無いんじゃないかと思えるほどでしたね。

総合

言うまでもなく5つ星ですね。
ライトノベルに最近興味が出てきているけど何を読んだらいいか分からない、という人に真っ先におすすめしたいシリーズが出来ました。一時は完結しないんじゃないかとも思った作品でしたが、よくぞ最後まで書き上げてくれたという感謝の念でいっぱいです。ちゃんとエンドマークのついた作品なら安心して勧められますからね。
今後の予定として短編集やら、もしかしたら後日談みたいなものも書くかも知れないという事でしたが、それはそれとして楽しみに待つとして、とにかく最後まで走り抜けてくれたキャラクターたちにありがとう、お疲れ様と言いたい気持ちです。最後の最後まで泥臭いヒーローとヒロインでしたが、それがとても心地よかったです。
イラストは今更言うまでもない四季童子氏ですが今回は絵が多めですね。よくよく見てみるとこの人の絵、今やなんとなく古くささを感じなくもないのですが、やっぱりこの作品にはこの人の絵しかありませんね。