円環少女(12)真なる悪鬼

円環少女  (12)真なる悪鬼 (角川スニーカー文庫)

円環少女 (12)真なる悪鬼 (角川スニーカー文庫)

ストーリー

神がいない。だからこの世界は《地獄》と呼ばれた。ここはあらゆる魔法が炎となって砕け散る地。
その地獄に神が降臨した。その神の名は再演大系の神。そして神の降臨劇の裏側には、未来から現在の魔導士を操って求める現実を手に入れようとする未来の再演大系の魔導士たちの影と、もう一人の再演大系の魔導士となった武原舞花の姿があった・・・。
完全な世界の索引を得るためにきずなを殺し、最後の再演大系の魔導士となろうとした舞花の手によって倉本きずなは凄惨な姿を晒していた。未来の再演魔導士たちの代理戦争を引き受けて血まみれになるきずな・・・。また《沈黙》武原仁も、めまぐるしく変わっていく状況の中で鴉木メイゼルときずなを守るべく、必死の抵抗を続けている。
しかし、神が降臨したことによってこの世の物理法則はねじ曲がり始めると、《地獄》世界のパワーバランスは一気に傾き始めたのだった。魔法を消去する力を持つことで魔法使いたちに《悪鬼》と罵られた人間たちが、その魔法消去の力を急速に失いつつあったのだ。
かくして、《地獄》世界の裏で動き続けてきた魔導士たちの多くが注意深く表舞台に現れ始めたのだった。現実はあらゆる場所で綻び初め、本来あり得ない出来事が世界を覆い始める・・・。それは、《九位》による《地獄》の全面核戦争計画を阻止した後の世界が、今まで体験したことのない緊張を孕んでいることを意味していた。
ここは地獄にあらず――そう唱え続けた仁の前に《神》が現れた時、この世界は彼らに何をもたらそうとするのか? 緊張が連続する魔導バトルの12巻です。

全体的に

今回はあっちこっちで笑いたくなるようなシーンが多く、何気にはっちゃけているんですが、他の部分が容赦なくシリアスなので読者としてはもの凄く複雑な気分になります。本書の冒頭近く、きずなに起こった出来事を考えると、その余りの残酷さに背筋が凍るようです。
きずなが操る再演大系は他の魔導士たちに忌避される存在でしたが、それが再演大系を操る魔導士自身にここまでの影響を及ぼすとは・・・いや、今までの描写からすれば想像できて当然なんですが、私の脳みそが追い付きませんでした。操り、操られる彼ら再演魔導士たちは、一体誰のマリオネットなのでしょうか? 再演魔導士の一人一人は一体なんなんでしょうか? 余りにも業の深い魔法大系であることは確かですね・・・。メイゼルが過去円環世界で行った事や、《螺旋の化身》の存在も並大抵ではありませんが、きずなの場合も現在進行形で銃火のど真ん中に突き落とされる他に取る選択肢が無いというのも相当酷いです。
こうしてまんまとヒロイン二人が爆心地の中心に存在することになってしまいました。もちろんそういうストーリー展開にするのは決まっていたんでしょうが、1巻から話を追いかけてくるとなにやら感慨深い気がします。

ところで

はっちゃけている部分についてですが、もうなんというか、全開です。
メイゼルは嗜虐的嗜好むき出しになって仁をビンタしたりしていますし、もう罵倒なんだか親愛表現なんだかよく分からない地平に到達した感じがあります。

「せんせは、ダメ人間なのよ」
「俺は――」
今度は目と目を見合った状態で、思い切り平手打ちされた。
「せんせは今、ダメ人間って言われてくやしいの? それとも、子どもにひっぱたかれてシャクにさわるの?」
「そんなこと――」
三度、仁の頬に痺れるような衝撃が走った。
「それともせんせは、罰がほしいの?」
仁をやわらかな手でひっぱたくたび、少女は慈愛に目元をやさしくしてゆくのだ。
容赦なくたたかれているのに、洗われたように、胸の奥が軽かった。右の頬をたたかれたら左の頬を差し出す気持ちがわかった気がした。

女性にビンタされた事ってあります? 私はありますが、仁の境地に至るには人生経験が足りなかったようです・・・。
ともかく、この辺りの本編の描写って特になんて事無いはずなのに、妙に淫靡なんですよね・・・。長谷敏司氏のもの凄くマニアックな嗜好がこう、行間からだだ漏れているというか・・・えー、こう言っちゃ何ですが、すっごく、少女が好きなんじゃないかって気がするというか・・・上手く説明できない・・・。
ちなみにメイゼルの同級生の寒川さんもアレですし、《茨姫》オルガ・ゼーマンに至ってはもう「ドM過ぎだろ……」と言いたくなる様相を呈しています。《茨姫》の台詞と行動について具体的にここに書きたい気持ちはあるんですが、もうステキ過ぎるので割愛します。ネタバレもったいない。ま、どちらのキャラクターも好きなので、読んでいて幸せでしたが。

そんな感じで

油断していると、ラストの展開でもう一発ガツンとやられます。なにしろ本巻のサブタイトルが《真なる悪鬼》ですからね。
この辺りの展開ですが、一歩間違うと

「幼女性愛嗜好をシンプルかつ複雑な方向にこじらせた青年が、愛する幼女の危機に瀕して精神的に大爆発を起こして吹っ切れた挙げ句、格好いいけどどことなく背徳的な生命体へと進化した」

とか読めるような気がするのが不思議です。
えー、変な話ですが《真なる悪鬼》に「トゥルーデーモン」ならぬ「トゥルーロリコン」とかルビが振りたくなると言うか・・・いや、仁がここまでストレートに分かりやすく格好いいシーンってこのシリーズで初めてなんだと思うんですけどね? それでもこういう扱いをしたくなるのは一体何故なんだろう・・・。
それに、最後には頼もしい味方も現れたりして、物語が最後の展開へと怒濤の勢いで流れていくのが分かります。この辺りの展開では「ようやくか・・・」という気もしましたが、とても「らしく」、同時に「健やか」な変化だったと思います。仁もメイゼルも欠点だらけですが、だからこそ人間らしくって愛おしいというか・・・とにかく胸のつかえが下りた気がしました。

総合

星は5で固定です。だってダイスキなんだもん。しょうがないよね〜。
あとがきによると、次の13巻で完結するとの事なんですが、もの凄く残念に感じてしまいました・・・。いつまでもだらだらと続いて欲しい訳ではないですが、この話が終わるというのも素直に受け入れがたいというか・・・。出来れば本編終了後に短編やら外伝やらスピンオフやらを書いて欲しい気持ちでいっぱいです。サブキャラクターに魅力的な人物が多すぎですからして・・・。
個人的にはケイツとベルニッチの萌え萌え黙示録とか、茨姫と溝呂木の変態研究日誌とか、きずなチーム(きずな、コロッケ、全裸、馬鹿)のぐだぐだ絵日記とか、メイゼルと寒川さんの最終調教記録とかが読んでみたいです。そしてこれら全部を仁の視点で見ていく話にしてもらえると自動的に仁が視姦もしてくれるので、読者である私としては色々と万全の体制で臨めるというのが素敵です。という訳ですので、どうか作者様、担当編集者様、ならびに角川スニーカー文庫編集部様、ご一考を・・・。
絵師は深遊氏です。もし私がライトノベルを書いたとして(書けませんが)、もしこの人に絵を描いてもらえる可能性があるなら、いつでも土下座してお願いする準備があると思える絵師さんの一人ですね。可愛かったり怖かったり格好良かったりするキャラクターが魅力的ですし、カラーイラストも素敵ですし、衣装デザインや緩急取り混ぜた表現の幅や、細かく書き込まれた背景の丁寧な仕事ぶりなど・・・素晴らしいの一言です。個人的に最高の絵師さんの一人だと思っていますね。

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