幻想譚グリモアリス6 かくてアダムに祝福を

幻想譚グリモアリスVI  かくてアダムに祝福を (富士見ファンタジア文庫)

幻想譚グリモアリスVI かくてアダムに祝福を (富士見ファンタジア文庫)

ストーリー

冥府は平穏だった。アコニットは無事アネモネ玉座につくことになり、必要な人間が必要な場所に無事収まった現在、桃原誓護と妹の祈祝が危険にさらされることは無くなったはずだった。しかし、運命は彼を休ませてはおかない。彼はここに来て重大な選択を迫られつつあった。
冥府の謎を知ること。そして世界を正しい姿へと戻すこと。魔導書アイギスを持つ彼にしか出来ない仕事があり、それらを行うことは彼が閾界の人間となることを示しており、それは祈祝との別れを指すものだった。
グリモアリス――茨の園の園丁と呼ばれる彼らが管理している”茨の園”とは、まさに<地獄>そのものに他ならなかった。そして、地獄に落とされた罪人たちが今このタイミングで反逆を企てているという・・・。そして、その戦いまでにはたった七日間の猶予しかないという。
まさに総力戦となって<地獄>を迎え撃つことになる<冥界>の住人たち。そして策を巡らせながらも戦いに備えてアイギスをさらに深く理解しようとする誓護・・・しかし、地獄の侵攻は彼を待つことはなかった。
現世、冥界、地獄の三つの世界を巻き込んで展開する最終巻です。グリモアリスシリーズもこれで完結という事ですね・・・。

うーん

限られたページ数で上手くやっているんじゃないかとは思うんですが、如何せん足りなかったというのが正直なところです。
事の起こりが唐突だし、出てくる敵も味方も結構適当に消費されてしまったという感触は否めないですね。構想レベルであればこの<地獄>編でも数冊書けるようにしていたのではないかと思うのですが、実際はこの最終刊に無理矢理(?)詰め込まれる事になってしまったんじゃないでしょうか・・・。もしそうだとしたら、なんとも寂しいことです。
一冊の話として、ここまでストーリーを追いかけてきた身として、こうまで心の躍らないシリーズ最終刊は無かったですね・・・。話の背景は魅力的なのに、キャラクターの掘り下げや活躍するシーン他、あるいは設定そのものをいかした展開が明らかに足りない、という場面が多すぎました。恐らく作者も無念に思ったのではないでしょうか・・・。

という訳で

どう贔屓目に見ても良い印象は持ちきれませんでした。
幾つかの展開はご都合主義が珍しくないライトノベルにおいてもちょっとご都合主義が多すぎるな・・・と思えるような展開でしたし。中盤以降の戦いで数名が命を落とすことになるのですが、この辺りの展開などはもう後半へのつなぎのためだけに殺されたようにしか思えませんでした。物語を終盤に導くための犠牲にされたというか、そんな所ですね。
幾つかの伏線も決着が付くことになるんですが、それら全てが展開を急ぎすぎている印象ですね。まとまっていない訳ではないですけど、これまでの展開を考えればその駆け足っぷりは明白じゃないかと思います。主人公もヒロインもキャラクターが立っていてなかなか魅力的だっただけに終盤に来てからのこの展開は残念でした。

総合

特に多くを書くこともない星3つですね。シリーズ最終刊という事で星プラス1しても、これ以上の星はあげられません。
ラストシーンはいかにもこのシリーズらしい感じで決着がついたので読了感は悪くないですが、それを除けばあまり評価できるところが無かったというのが本音です。まあちょっとキツめな感想を書いているという自覚はあるんですが、多分それは期待していた分の裏返しなんだろうとは思っています。この作者であればもっと話が面白くなるやりようがあったんじゃないか・・・そう思えてなりません。
特にキャラクターの浪費にについては上でも書いていますが、もう少し主要な登場人物を絞って(半分くらいでもいいかもしれません)、一人一人の役割と描写を掘り下げた方が良かったように思います。ほとんど活躍する場を与えられないまま味付けだけされて通り過ぎてしまったキャラクターが多すぎですね。うーん、今は無き富士見ミステリー文庫時代が一番面白かったかもなあ・・・なんて思ってしまうのはシリーズの終わりを迎えて、ちょっとセンチになっているからですかね?
イラストは松竜氏です。今回は絵が少なかったような気がしたんですが、気のせいですかね? 登場キャラクターの数の割には絵になっている人物が少なすぎ、かつ紹介が下手なのでイラストの持ち味を発揮しきれていないな・・・という印象は結局最後まで消えませんでした。白黒イラスト一枚分しか絵が用意されなかったラスボスって・・・。なんか間違ってるとか思います。

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