レンタル・フルムーン <第三訓>星に願ってはいけません

ストーリー

自分にとっての大事な事を「人生教訓メモ」というもので残しているちょっと変な少年・桐島新太。彼が偶然街で見つけた貸本屋「満月堂」に入り浸るようになり、そこの主・満月ツクモの秘密の仕事を手伝うようになってからしばらくの時間が経っていた。
満月ツクモの秘密の仕事。それは世界のほころびである「パンドラ」と呼ばれる存在を観測して本の形で記録し、この世界を治める神さまに提出する「観測者」という役割のことだった。・・・限りなく怪しげなのだが、ツクモのこの仕事が滞ると世界が滅んだりするらしい。ツクモに緊張感はゼロだったが。
そして健気なアシスタントであるオコジョ少女のクルンを含めた三人でいつも通りにパンドラの記録をしていたのだったが、どうもクルンの様子がおかしい。いつにも増して自分が役に立っているかどうかを気にしている風なのだ。新太が聞いてみたところ、最近ツクモがクルンに身の回りの世話を含めた色々な仕事をやらせてくれないのだという。
ツクモはと言えば特に変わったところもなく、町内で行われる七夕イベントの事などを気にしたりしていたのだが、そこに突然変な外見の二人組が現れる。なにやらその二人はクルンのアシスタントとしての仕事ぶりを審査しに、クルンの故郷である聖獣ランドからやってきたそうなのだ。審査に合格しないとクルンは聖獣ランドに帰らされてしまうというのだが・・・?
という感じの3巻ですが。今回は健気すぎるサブキャラのクルンが話の中心になっています。

まー

ストレートに読者の弱いところを狙ってきたな〜というのが第一印象ですかね。
この話のヒロインは満月ツクモで、主人公は新太な訳ですが、話の方向性とか印象を決めるという意味で絶対に欠かせないキャラクターなのがクルンです。一癖も二癖もある登場人物が多い本作ですが、健気とかいじらしいという概念を実体化させたらクルンになったと表現しても過言では無いという感じのキャラクターなので、どうしたって読者受けはいいはずです。
大体オコジョの聖獣(?)という時点で愛らしさ爆発ですから、ある意味普通に可愛いというのがミソですね。そのキャラクターを話の中心に据えれば既存の大抵の読者は引っかかるに違いありません。私も普通に引っかかりましたが、そのやり口に何故かあざとさを感じないのが不思議です。・・・まあクルンが普通に可愛いからでしょうが。

今まで

ツクモと新太とのディスコミュニケーションをちょこちょこと取り上げてきたこのシリーズですが、今回はツクモとクルンの関係が焦点になっています。
・・・いや、コミュニケーション失敗の相手が両方ともツクモだと言うところから、どう考えても問題の根源はヒロインであるツクモにある訳ですが、色々とどうしようもないヒロインなので仕方がないか・・・と周囲の人間が妥協して合わせるしかないという所が辛いですね。新太に言わせれば「第二百十五訓 満月ツクモと関わるなら、覚悟しろ」という事になる訳ですが、今回はその覚悟がクルンに求められる訳です。
まあ実際、こういうツクモみたいなタイプの人間って種類は違えど現実にもいますよね・・・致命的にまで周囲の状況が読めないけれども、基本的に悪気はないどころか下手すると裏がない分だけ他の人間より善良だったりするので、まあこっちが合わせるしかないよな・・・と周囲の人間が気を使うしかないというタイプです。困ったタイプですが憎めない分たちが悪いというかね・・・。
まあ今回の件を通じてツクモも成長しているみたいなので、まだまだ見込みはありそうですが、今後こういうキャラクターがどんな風に変わっていくのか興味深いですね。

そして

相変わらず周囲を固めるのは個性的なキャラクターたちです。1巻から連続で出てきている白鳥好きの彼とかあるいは彼女とか、いつも飢えている適当な神さまとかアブナイ天使代行とか、そんな人たちです。
今回はこの人たちに加えて聖獣ランドから聖獣の王様とその護衛がやってきたりするんですが、そろいもそろって台無しな感じです。緊張感もゼロなら責任感もゼロだし、ついでに危険度もゼロというどうしようもないキャラクターばかりです。さらにはクルンの過去を良く知っている謎の美青年なんかも現れたりして、物語をかき回してくれます。
気がついたら何故か七夕レースなどというものに参加することになってしまったりして、どういう方向に話が流れていくのか予測がつかないですね。でもこの話の内容が内容なので、読んでいても誰もハラハラドキドキはしないだろう・・・というところがまたいい気の抜け加減ですね。
結局どんな出来事が待っていようと、最終的には主人公たちの関係性に話が集約するので、そこだけちゃんと見てあげればいい話だって事ですね。あ、巻を追うごとに明らかになるキャラクターたちの別の顔も、ちょっとひねった味付けで楽しませてくれます。

総合

んー星4つ・・・かな?
はっきり言って派手さが無く盛り上がりに欠ける作品なんですけど、読むと変に満足できるというか、それなりにおさまりが良いというか、不思議な話ですね。強力な見所は無いんですけど、一冊通して読むと表現や物語が伝えてくるテーマなどにブレがなくて落ち着く感じが好印象です。星3つでも不思議はないんですけど、なんだかよく分からない満足感があるので星が一つ増えてます。
大筋として主人公たちの成長物語のように思えるんですが、堅苦しくないし構えて読むような作品でもないです。真面目なようでガス抜きがきっちりとされているとでも言うか。半分くらい気の抜けてしまったコーラみたいな本ですが、微炭酸な感じも私好きですよ? という所ですね。
絵師はすまき俊悟氏です。他の絵師さんと比べて優れていると思える所がパッと思いつかないんですが、その印象がこのシリーズにピッタリ合っている気がするのが不思議ですね。仕事は丁寧な感じがしますし、うーん、嫌いじゃないです。

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