オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ

オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ (電撃文庫)

オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ (電撃文庫)

ストーリー(もはや変えても仕方がない)

この話の舞台は学園都市・御伽花市の御伽学園。生徒3000人を抱えるマンモス校。制服も複数種類が用意されており、どれを選ぼうと自由な挙げ句、ある程度(かなりの程度)の範囲で改造が許される自由な校風として知られる。

主人公は御伽学園学生相互扶助協会(通称「御伽銀行」)に所属するすらっとしたスタイルとツルペタを誇る直接攻撃による破壊活動を得意とする大神涼子(おおかみさん)。彼女はその姉御とも言えそうな行動から学園内で一目置かれる存在なのですが、そこに対人・対視線恐怖症の第二の主人公・森野亮士(もりのりょうし)が電撃的な愛の告白をするのだった!
森野亮士は結局その特殊な才能を買われて御伽銀行に所属。生徒達からの依頼を受けては解決し・・・というなんだか童話をモチーフにしつつ変な感じで進む安心のラブコメもの。
今回も短編は4つ。手を変え品を変えてのラブコメ全開です。気がついたらアニメ化とかもしてるらしいですね? きっとめでたいことなんでしょうな〜。

えーっと

今回は一冊通してのメインキャラとか、文化祭みたいなイベントはありません。そういう意味ではオオカミさんシリーズ通常運転という感じですが、それでも立派に面白い所がなんだか凄いです。変態は多かったりしますが、それでも昨今のライトノベル界を見渡した場合はそれ程派手なキャラクターてんこ盛りという感じでもありません。
それでも面白いのは軽妙でユーモアに溢れた作者の語り口と、破綻の無いように積み重ねられた細かいキャラクター描写の勝利という感じですかね。ヒロインのオオカミさんの萌えキャラっぷりは、一度や二度の大イベントとかではなくて、小さいけど職人仕事のような丁寧な表現の積み重ねの結果で作り上げられてますからね・・・。
いやはや、沖田雅氏はラブコメ書かせたら間違いなく現代の最強作家の一人じゃないかと思っております。はい。

話ですが

紳士が沢山出てくる変態性表題作に、宇佐見さんを主人公にした問題作に、御伽銀行らしい問題解決はなしに、オオカミさん萌え萌え話しという安定したラインナップになっています。最初の一話を読めれば最後まで楽しんで読めることを約束しますね。

「しかし、改めて考えてみれば、夏服と比べるに、そういう視覚的なものは減るな」
「だからこそ、我々の紳士力がものを言うのだろう。肌が出てないことで、そこに集中せずに、全体を見て動作に萌えられるのが冬服のよさだ」
「なるほど、薄着になるとどうしても、見える部分に意識が集中してしまうからな」
「寒い冬の朝に、手のひらに息を吐いて暖めている姿とかいいな」
「俺は学校に着いてコートを脱ぐときの動作が好きだな」
「暖房でちょっとほてった顔とか」
「暖かい缶コーヒーを買って暖をとっている姿とか」
「俺は、俺のコートに手を突っ込んで欲しい」
「いいな、それ。もてない男には縁がないことを除けば」
「いうな……俺は冷えきった手でほっぺたを触られたい。そしてひゃっとか声を上げて、してやったりという顔をした悪戯娘を追いかけたい」

以上表題作から、名も無きキャラクターたちの発言をピックアップしてみました。ちなみに「紳士力」は「しんしりょく」とルビが振られているのですが、個人的には「しんしちから」の方がイデとかオーラバトラーとか想像できるので素敵なんじゃないかと思います。・・・どちらも基本全滅エンドな所がまた色々と暗示していていい感じですよね?
・・・遠くから女子中高生とかをじーーーーっっと見てきた過去の積み重ねとかが無いとここまで書けませんね絶対。だいたい「セーターは巨乳だな」とかって台詞を作中の人間に言わせている段階で色々と読者に優しいのは間違いありません。
上の引用部分を読んで「他人って気がしない」とか思った貴方、オオカミさんシリーズを全巻大人買いして損はありませんぞ?

とにかく

どの話も読ませます。個人的に一番気に入ったのは二話目の宇佐見さんと田貫さんが中心になっている話ですね。
えー、こう言ってはなんですが、少年向けライトノベルはあんまり見ないな〜? という展開です。起こった出来事を具体的に描写するのを作者が避けている程です。まっ、まあ、多かれ少なかれ青春にはこういうマチガイというかイキオイというかアヤマチという感じのイベントが起きたりして、腹が決まるまでは変な冷や汗かいたりするものなので覚えておいて損はないんじゃないかな・・・?
とにかくこの話はふざけっぷりも良かったし、オチの付け方も良かったし、言うことなしです。主人公達が出てないのにこんなに読ませるのって考えてみりゃ凄いと思うんですが、まあこの作者の作っている話だし、なんでもアリ、なのか? それとも読者である私が鍛えられすぎてしまったのか? とか一抹の不安を感じてしまったりして。
・・・よく考えたらこの話、アッチ方面の漫画とかで映像化したらそれなりに人気が出たりするんじゃなかろうか・・・? えーっと、誰がこういう逆転系の話得意だったっけなあ?

総合

盤石の星4つですね。
少しずつですけど進んでいるオオカミさんと亮士くんの関係もニヤニヤものですし、サブキャラクターたちの誰も彼もが魅力的でとにかく読んでいて幸せになれる話というのがいいです。
・・・ただ、こう、話の方向性的に彼女とかいないロンリーな青少年が読むと身悶えしたくなるかも知れませんが、そこらへんは若さで乗り切ってください。私くらいの歳になると色々と言い訳できなくなってくるので、こういうの読むのは若いうちがいいです。「まだまだチャンスは沢山あるさ!」って思えるときに読めばダメージが小さいです。
ただ、もし、これからこのシリーズを読もうとしているのが「そういうの無し」で「そういうイベントを期待できる時期」を乗り切ってしまった大きなお友達の場合は、今までの風雪の年月で鍛えられてぶ厚くなった魂の殻とかでいつも通り自分の柔らかいところを防御してくださいね? どうせもう攻性防壁くらいは持ってるでしょ?
イラストは相変わらずうなじ氏です。安心のクオリティというか、柔らかいタッチのカラー・白黒イラスト共に魅力的です。まあほとんど人物画しかないので、本の挿絵としてはどうなの? という意見もあっておかしくないですが、なんか許す。だって女の子が可愛いんだもん!

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