変愛サイケデリック

変愛サイケデリック (電撃文庫 ま)

変愛サイケデリック (電撃文庫 ま)

ストーリー

変人として名を馳せている女生徒がいる。あだ名もそのままズバリ「ストレンジサイケデリコ」。彼女の名前は彩家亭理子(さいけていりこ)。極めつけに頭がよくて美人だが、行動がいちいち普通を逸脱しているために何時しかそう呼ばれるようになった少女である。
そんな彼女が偶然出会った少年は――何時死んでもおかしくないような振る舞いをしている、こちらもやはり変人であった。名を神宇知悠仁(かみうちゆうじん)という。人間観察と人間考察こそがライフワークである彩家亭理子は、そんな彼に一気に惹きつけられてしまうのだが、その彼女をもってしても神宇知はかなりの難物であった。
無鉄砲とも言える行動を繰り返して神宇知に近づこうとする理子をなんとか守ろうとする友人兼ボディガードの円馬佐那(えんまさな)や、神宇知のツレである江入伊庵(えいりいあん)や河合優(かわいゆい)もそれぞれの思惑をもって理子を牽制するという状況の中、それでもやはり彼女はなんとかして彼の「死にたがり」の秘密を解き明かそうとする。
――別に彼を助けたいとか思っている訳ではない。自分の知的好奇心を満たそうとするどこまでも利己的な動機から、理子はどこまでも突っ走るのだが……その結末は――?
という感じの青春ストーリーです。”恋”は無くても”変”と”愛”はあるんじゃないですかねー? という一風変わったラブストーリー。ここでの”ラブ”は”Dr.ストレンジラブ”のラブであると同時に人間愛みたいなものですけどね。一定以上年齢が行った読者なら奇面組を思い出さずにはいられない名前の持ち主達が織りなす群像劇です。

変な話なんですけど

読み終わった後にモワモワと脳裏にわき起こった感情は「羨ましい」だったりします。
まあそれ以前の問題として……「死にたがりの少年が主要登場人物に出てくる」というと、このブログのひじょ〜にコアな読者なら「またあんな感じに爆発するんかいな?」とか思うかも知れませんが、際どいところでセーフでした。
まあ少年の設定自体はありがちではありましたが、彼のそうなったその「こころの動き」と「世の中との向き合い方」はライトノベルとして加工はされているもののリアルな根源が存在していて、そう想うに至る(つまり「死にたがり」になる)のに違和感を感じなかったから、というのが大きいような気がしてます。以下に私の思った事をつらつらと書いたりしますが、もう単に脳内アウトプットとして書いておくので、特に読まなくてもいいです。

真摯に「死を見据える」という作業は、実はひるがえって「生を噛み締める」という作業と等しい訳です。人間が生きているという事実を最も強く感じるときは死に直面したその時ですから。そのために彼は「死を求め」ながらも「生き残る事ができた」のであろう、とか思ったのです(本文中にはそこまで書いてはいないので、勝手な想像ではありますが)。
つまり、激しく傷ついた彼が生き残るためには、常に死を含んだ逆境という刃の下に身を置いて、自分の命(&周囲の自分に対する愛情)を確認しながらでなければならなかったのではないか……なんて感じたのでした。普通は延命したければ死から遠ざかるのが当たり前なんですけどね。
しかし、死を望む思いを内に抱えた彼にとっては「死にたがる」事こそが、逆説的ではありますが彼にとっての最高の「死」に対するレジスタンスだったのかも知れません。彼にはその自覚が無かったとしても、彼を生かしていた生命の歯車が本能的にそれを選ばせたような気がするのです。
まあ周囲は大いに迷惑したであろうので、神宇知悠仁がはた迷惑な野郎であることは間違いないのですが、まあなんとか同情の余地があったという事でしょうか。本当なら一人で確実に死ねる高さから飛んで死ねで終了なんですけど、それを言ったら話が始まらないのでまあ致し方あるまい……とまあそんな感じです。

まあとにかくこの作品では「この野郎は適当ばっかぬかしやがってムカつくんじゃー!」ってならなかったというのだけご理解いただければいいんじゃないかと思います。はい。

ところで

なんで「羨ましい」って思ったの? という所について言及しておきたいと思います。
いや主人公の彼ですが、症状(?)の出方としては過激ですけど、問題の根は決して深くないんですよね。病巣になっている部分が非常にはっきりしているので、

「ちょっと過激な外科手術を施して、まあ殺しちゃうかも知れないけど、ほっといたら死ぬだけだし手術しましょう。私が責任取るし」

という覚悟を持った人間であれば救済が可能だという点においてです。そういう「執刀医」という存在として彩家亭理子が出現したというのもまた大変なラッキーであります。大変な手術になるかも知れませんが、成功さえすれば術後の経過は良好だろうと予想できる感じがなんともハッピーなのです。
現実では大抵の場合「病巣が複数に転移していて手術不可」だったり「原因そのものの特定が非常に困難」だったり「原因ははっきりしているけど取り除けない」だったり「そもそも助けてくれる人がいない」だったりすることが殆どなので、今年は三万人ペースで自殺者が出ているわけです。とんでもない国ですね日本。

まあ

ライトノベルですしね……救いが無いと困っちゃいますが、その辺りの展開がなんとも痛痒い感じで実に青春なんですよね。
主要登場人物の誰も彼もが多かれ少なかれエキセントリックなんですが、それがまたほどよくシリアスの度合いを弱める方向に作用していて、緊張感が不快感に変わる寸前のギリギリのところで寸止めすることに成功しているように思えました。前作の「月光」もそうでしたけど、この作者の人はそういうさじ加減が絶妙ですね。
あとなんか分かりませんけど、美しくて非常に優れた女性に支配されたい欲求というか精神的にマゾっぽいところが作品全体からムンムンと臭ってくる所とかは読んでいてなんか微妙な心境にさせてくれますが、その辺りも含めてオタク的性質を持った読者である私にはまあなんか、

「チクチク痛痒くてなんかキモチイイかも……ああ、もっとダメな私の本当の姿を思い出させて欲しいの……それで最後には、全部さらけ出さされた私を容赦なく支配して欲しいの」

なんて脳内変換出来るぐらいなのでまあ大丈夫です。多分……この程度の展開ならですけどね。

キャラクターは

魅力的というか、うーん、こういう話にするために必要な人物をあとから当てはめたって感じでしょうか。
はっきりいってあくまでライトノベルらしく良く書けているけど取り立てて素敵な印象を受けたりするキャラクターがいる訳じゃないんですが、この物語ではそれがちょうど良い感じらしく、全く過不足なく物語の中で機能しているので十分です。
というかキャラクターをうまく描写することに成功しているライトノベル自体が何気に希有だったりする……ゲフンゲフン、なので、普通に楽しく読めると思いますよ。主人公のアクが強いので気に入ることが出来れば、という前提付きですけどね。
まあキャラクターにまつわる秘密や謎なんかも隠されていたりして、しかも腹に一物もったキャラクターばかりなので、それが物語が進むにつれて徐々に明かされていったりする部分も楽しめます。
そうした謎解きの楽しみも用意されていたりする親切設計なところも何気にポイント高いですね。面白くするための努力を怠っていないとでも言いましょうか。色々な複線がラストに向かって収束していく感じが気持ちいいです。
そして不思議なことに……謎が解け終わる頃にはキャラクターをすっかり好きになっているというのも面白いです。個人的に読了後の一番のお気に入りキャラは江入伊庵です。自分でも意外ですけどね〜。

総合

うううん? 星は4つは確実かなあ。
久しぶりに感想を書かなければー! って気持ちにさせてくれる作品に出会いましたしね、この程度の星は固いでしょう。なんかああっちこっちのレビューとか見ても好評みたいです。まあ他人様の評価なんてどうでもいいんですけども(暴言的な意味ではなくて)。
前作に続いて美味しく頂かせてもらいました。いい感じです。次の作品も期待して待ちたいところですね。ひょっとしたらこの作品の続編とかもあるのかも知れませんが、それはそれで興味深いような気がします。
この話は他者の想い――まあおおむね愛ですが――を再発見していく物語です。その愛は必ずしも全て報われる訳ではありませんが、塞がっている目を開けばあちこちに自分を支えようとする力が働いているのだという事を見つけることが出来る、とまあそんな所でしょうか。
……現実もこのお話くらい優しければよかったのに……なんて思います。少なくとも彼(あるいは彼ら)は孤独では無かったのですからね。
しかし残念なのは白味噌氏のイラストです。表紙はいいと思いますが、口絵のキャラ紹介の裏の一枚、なんでそんな絵描いてんねんとか思いましたもん。そういう感じのシーンが無いわけでもないけど、作品のイメージを決めるのに結構影響ありそうな折角のカラーイラストにそんな感じの一枚を持ってくるかー? とか思いました。
それに加えて本文内の白黒イラストもなんだか白いところが多くて非常に残念な出来です。下手というより……時間が無かったのかなあ? とか思いたくなるような白さでした。まあライトノベルのイラストの単価なんて冗談みたいに安いんでしょうけど、もうちょっとなんとかならなかったんかなあ。絵師によってのクオリティが違いすぎてなんと言ったらいいやら……。

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