僕の妹は漢字が読める

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

ストーリー

二十三世紀の日本では漢字が使われなくなって久しい。
・・・が、僕の妹は漢字が読めるのだ。妹のイチセ・クロハは二十一世紀あたりに書かれた古典作品なんかを良く読んでいるけど、良く漢字が読めるなあというのが兄である僕、イチセ・ギンの見解である。しかし、問題がないわけじゃない。妹のクロハは現代文学の良さをちっとも理解しようとしない所があるのだ。僕が現代小説を書く作家を目指しているのに、現代の文学をちっとも興味を持ってくれない。

「『いもうと すた☆あ』は今までにない趣向が凝らされていたじゃないか。例えば妹が大昔の決闘方法――野球拳を挑まれて、大ピンチのシーン。逆転の発想で先に全裸になる。意表をつかれたよ」
「なんでいきなり服を脱ぐの? そもそも、野球拳を挑まれる展開が謎だわ。道をあるいていて突然によ? 必然性がないじゃない」

・・・こんな案配で、現代の正当派文学を好きになってくれないのだ。とにかくちょっと困った妹だ。
ところで、ある時僕は色んな幸運が重なって、正当派文学のトップランナーとも言えるオオダイラ先生に会うことの出来る機会が出来た。先生の大ファンである僕はいそいそと先生の住むトウキョウに向かったのだったが、何故か妹もついて来るという・・・。
それだけで済めば良かったのだけれども、先生のところで何故か奇妙な現象が起こって、僕たちはとんでもない所に飛ばされてしまったのだった・・・!
という漢字、じゃなかった感じの話であるところの話題作です。

久しぶりに

ストーリー的に新しいとか思った作品が出てきたというか、馬鹿ここに極まるとでもいいますか?
文盲率が果てしなく低いと思われるこの日本に於いては、ある意味で前衛的とも言える「僕の妹は漢字が読める」というタイトルで発売前から話題になっていましたが、内容の方もかなり変態的に尖った作りになっているんじゃないですかね。まあその辺りの事をちまちま書いても全く伝わらないので、ちょっと一文を抜き出してみますが。

妹のクロハだ。
何を読んでいるんだろう? 本の表紙を確認する。

携帯小説全集十一 ☆→イケメン男子と恋スルアタシ←☆ 原文版』

……うわあ。
相変わらず難しそうな本を読んでるなあ。

え、そういう展開!? ・・・実は私の読む前の想像は、

  1. なんだかんだとパープリンな脳みそを持った可愛いけどダメ系妹とそれを萌え萌えしながら見守る兄の話なのかな!?
  2. それとも幼女ゾーンに分類されるような女の子が難しい文章とかを相手に奮戦するお話で、やっぱりお兄ちゃんは萌え萌えしながら見守りますか!?

くふぅっ! 私もうスタンバイOKよ!? とか思ってページをめくったんですが、蓋を開けてみたら全くの逆、漢字が読めないのは兄の方でした。
うわあ、全然萌えない。俺が漲るのに使ったカロリーを返せ! って気分です。
んで、作品舞台の未来の世界では漢字が使用される文化が消滅していて、世間一般には萌え萌えなアイテムが溢れかえり、総理大臣も二次元美少女のニャモちゃんが就任している時代という変態的な意味で挑戦的なSFだったというオチです。
・・・我々はどこに向かっているんですかね・・・。

とはいいつつも

明治とか大正時代の文豪とか、あるいはそれを遡って江戸やらもっと昔の作家に今の出版物を見せたら、恐らく「なんらかの悪夢に違いない」位は思ってもおかしくないところを考えると、漢字がなくなる未来というのもアリエナイとは言い切れないんでしょうね。かといって・・・。

どうがサイトみてたら ねぼすけ←だめっこ
いきなりちこくは やばっ
こうえんぬけたら
おなのことごっつん☆
きよし「うあっ」
おなのこ「みゃあっ」
わわわ でんぐりがえっておぱんちゅ きらり☆
きらっ きらっ
きらり☆

こういう文体の作品が権威ある文学賞を獲得するのが当たり前という未来には、えー、行きたいような、行きたくないような・・・。まあその前に俺が寿命で死ぬからいいけどさ。

ところで

上記の文章を書いたのは未来の文壇では権威的な作家であるオオダイラ・ガイ氏の新作「きらりん! おぱんちゅ おそらいろ」からの引用です。正直古い感性を持った我々現代人にどうこう言える作風ではないですが、オオダイラ氏はかなりのロリコンです。本編p33ページのイラストでも大体の事は分かりますが、本文でも大概アレです。

「さ、さあ、ミルちゃん。お兄ちゃんと読んでくれたまえ。そしてわたくしをつんつんするんだ。ツンツンした子にお兄ちゃんと呼ばれながらつんつんされる……た、たまらん」
ミルは不愉快そうな顔で先生を見上げていたが、好奇心を刺激されたのか、ボタンを押すようにぽつんと先生のお腹をつついた。
「あ、あ、あ! きた、これはきた! ……漏れちゃう、漏れちゃうおおおぉ!」

この反応、さすがは脳内に20人の義妹を住まわせているだけの事はあると思える傑物です。隔離はちゃんとした方がいいでしょうけどね! ちなみにミルちゃんというのは主人公ギンの妹でちゃんと実在する10歳の毒舌少女です。
・・・毒舌美幼女に調教されたいぃ〜ん! とか今思ったアナタ! オオダイラ先生(あと私)と仲良くなれると思うので、彼に会いに行くときは私も誘って下さい。

それから

何故か話の中盤からタイムスリップという超展開が待っていまして、主人公一行は二十一世紀に飛ばされる現象が起きてしまいます。・・・まああんまりな展開なので一種の冗談かとも思いましたが、そのまま何事もなく話が進んでいくので冗談ではなかったのだというか、ここまで来ればなんでもありなので今さらですね。
ちなみにタイムスリップ先では弥勒院柚(みろくいんゆず)という可愛らしいけども好みの方面で未来的な女の子に出会うことになります。物語はこの辺りから大きく動くことになるんですが、まあそこらへんは一応読んで確認して欲しいところです。
未来世界からやってきた主人公のギンは現代で言うところの萌えを追求する変態なので、現代でああだこうだとやらかす姿は実に痛々しいのです。が、彼は心の底から価値観が違うので恥も外聞もなく全力で変態的です。その姿は恥ずかしいとか清々しさを超えてもう怖いレベルに達していると言っていいでしょう。
まさしく未来人の正しい姿でしょうか。・・・未来って何でもアリですね。よく考えたらあの小説の某みくるちゃんも未来人でしたね。未来は萌え萌えなのかも知れません。

総合

☆よっつ だよ!
ゆで卵の頭とお尻の部分の殻を取って、水道で水洗いするとつるんっと中身が綺麗に出てくる技がありますけど、もうあんな勢いでですね、気温が一定以上になると若い娘に限ってつるんっと全裸になる現象とか起きるとか言うんだったらこの猛暑も許せる! とかここ数日思っている中での読了だったので、そう悪いことは書けないなあ! というのが私の本音ですが、まあ比較的楽しく読んじゃいましたからね。こんなもんでしょう。
作品のラストが実は2巻に続くって閉め方なんですが、まあここまで話題になったことを考えるとHJ文庫編集部のその判断は正しかったと言わざるを得ないですね。儲けが出るって意味でですけどね。まあこれでもうちょっとHJ文庫も潤って、さらに有望な新人作家を発掘しやすくなるといいんじゃないかな〜なんて思います。
イラストは皆村春樹氏です。カラーページは元々ページが少ないのでキャラクター紹介でほとんど埋まってますが、本編内の白黒イラストで背景などの手抜きが少ない印象を受けるのが好印象です。冴えない野郎であるところの主人公のギンを恐れず画面に登場させているのも悪くないですね。次も頑張って欲しいです。

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