ハロー、ジーニアス(2)

ハロー、ジーニアス〈2〉 (電撃文庫)

ハロー、ジーニアス〈2〉 (電撃文庫)

ストーリー

子供の出生率が著しく落ちた近未来。政府は子供を一カ所に集中させて教育するという方針をとっていた。それと時を同じくして世界中にごく少数ながら出現しだしたジーニアス”と呼ばれる超越的な天才達。そんなどこかおかしくなった世界が舞台の物語。
主人公の竹原高行(たけはらたかゆき)は走り高跳びの選手として陸上部のエースとして活躍してきたが、怪我を理由に二度と飛べない烙印を押されてしまったが、紆余曲折の果てに現在は第二科学部という部活動に在籍している。
彼の現在の部に誘ったのは学園に在学中だった”ジーニアス”である竜王寺八葉(かいりゅうおうじやつは)だった。第二科学部に本格的に所属するようになってからも、高行としては何が出来るのか分からないことだらけだったが、第二科学部に対する奇妙な思い入れから、八葉と行動を共にし続けていた。
そこに水泳部と掛け持ちだったが有屋美月という新しいメンバーが加わり、さて第二科学部として新しい活動に踏み出そうとした矢先、彼らと彼らの周囲を巻き込む大きなトラブルが襲いかかってくることになる。そのトラブルを運んできたのは学園の警察権力とも言える「課外活動統括委員会」であった。
果たして彼らはこの出来事を通じてどんな成長を見せてくれるのだろうか? という近未来世界の青春物語の2巻です。

全体的に

ちょっと大人しいまとまりになっちゃったかな、というのが印象ですね。
1巻ではプライド高く孤高で在ろうとし続けた、主人公であるところの竹原高行の存在がピリッと粒胡椒のようなアクセントになっていましたが、本作では随分と丸くなって良くも悪くも読者である私たちに近い存在になっています。物語の語り部が大きく方向転換したことが結果として本作の刺激が少なくなっている原因だと感じました。
まあその代わりと言っては何ですが、本書ではジーニアスである海竜王寺八葉と、1巻のラストの方で第二科学部に飛び込んできた有屋美月との確執が描かれることになります。ただし1巻の少年同士の決着にあったような正面衝突ではなく、ハリネズミがお互いを傷つけない距離を探り合うための突っつき合いというか、相手の針で突っつかれる程度だったら気にならないという位にお互いがタフになるための位置取りの物語というか、そんな仕上がりになっています。
まあ簡単に言えば詰まるところ1巻と同じく友情物語なんですが、まあ女の子同士の話なために少年同士の話よりも展開がちょっと搦め手なったという所じゃないかと思います。

物語としては

10年前に交わされた契約によって、第二科学部が部室を持っている「部室長屋」からの強制退去を命じられてしまった所から大きく展開することになります。もちろんそこに至るまでに色々と新しい人間関係が描写されたりはします。その辺りについては・・・うーん、なんでしょうかね、1巻で一度綺麗に閉じた物語を再開するために必要な手続きの描写とでも言えばいいんじゃないかと思います。
まあいずれにしてもそうしたトラブルに見舞われたことで、第二科学部の三人は「部室長屋」に根城を持っている他の部活動の連中――混沌としていて弱小だけれどもしつこいアングラな部活に入れ込む学生たち――と協力体制をとって体制側(統括委員会)と戦いを始めることになります。
八葉はジーニアスとして抜きんでた能力の持ち主ですのでそれなりに頼りになるわけですが、他の連中も層かと言えば決してそんなことはなく・・・エクストリーム・トイレ掃除をやる部活だとか、SF喫茶だとか、菓子愛好会などという感じで、情熱はあっても実務能力的に今ひとつパッとしないというのが本当の所です。
そこで八葉は個人レベルでやれる王道的な活動を提案し、現場レベルで集団の維持と統率力を発揮したのが美月という対照的な展開をしていくことになります。知恵と理性の八葉と行動と人望の美月という所でしょうか。

まあ

そうした二人による立ち位置の違い、ジーニアスと普通人の差、コミュニケーション不全などが合わさってまあ色々と起こる訳です。
そこに裏の方からは謎の思惑なんかも見え隠れしてきていよいよきな臭いとなって、じゃあ我らが主人公の高行くんはどうしているかというと、どうも女性二人の橋渡し役に徹することにしたという意外な展開をします。
・・・うーん、そういうキャラクターが嫌いという訳ではないんですが、止めようとしていた学園に残ってまでやろうとしたことがそれなの? と拍子抜けする感じは否めませんね。本編の後半では、

「俺の人生、予定のコースからだいぶ外れちまってるんだぞ。急カーブを切りすぎて、もうどこへ行き着くのか見当もつかない。全部おまえのせいだ。なのに、こんなところで放り出されて堪るかよ。おまえがどこへ行こうと、俺は地の果てまでだってついて行くからな」

・・・弱った八葉を奮い立たせるために言った言葉ですし、八葉にとっては大事な言葉となったんでしょうが、なんか舵取りを任せきって主体性が感じにくくなっている辺りがちょっと、ヤダなあ・・・なんて思ったりしました。
「無駄なプライド」というのは確かに無駄だから「無駄」という言葉が頭についているわけですが、その「無駄なプライド」が捨てられない事をみんな知っているからこそそれを振りかざしているみっともないキャラクターを見ると胸が締め付けられるんじゃないかと思うんですよ。みっともないのにね。とすると、そういう意味では「無駄なプライド」は決して「無駄」ではないわけで、じゃあ無駄なプライドなんて無いんじゃないかという話になって・・・。
何が言いたいんだか分からなくなりましたけど、つまりは1巻の高行の方が好きだったという事ですかね。

総合

まあ楽しんで読めるし、描写も何気に繊細で丁寧です。良くまとまっているんですけど・・・星4つ、いや3つ・・・ですね。
小さくまとまっていくような物語なんてライトノベルでは読みたくないなあというのが正直な気持ちでしょうか。心が折れて丸くなるような体験はみんながしていることですから、それを裏切る太陽のようなキャラクターたちが少年漫画やライトノベルでは愛されたりするわけですよね。
もちろんそういう意味では1巻でも主人公の高行が傷ついていたので「太陽のよう」とは決していかなかった訳です。しかし、その代わりとして新しい夢や希望を全力で提示することに成功したからあの気持ちの良い読了感があったんだと思うんですよ。でも本作ではそれが足りないのではっきりとパッとしませんでしたね。次に期待するしかなさそうですが、なんか高行くんが青春の出がらしみたいに感じるからなあ・・・期待していいのか不安です。
イラストはナイロン氏です。なんでしょう、結構奥行きがあるような絵が多くて好きな感じなんですが、なんかキャラクターが全部同じ表情に見えてしまって・・・すっきりしませんでしたね。次に期待したいところです。あとイラストと全然関係ないけど作者によるあとがきが妙に痛い文章になっちゃってるような気がするのは気のせいでしょうか? 多分気のせいじゃないと思うんだよね・・・。もしこの2巻を手に取ったらちょっと読んでみて欲しい、とか思ったりして。