ゴールデンタイム(4)裏腹なるdon't look back

ストーリー

前巻のあらすじ部分でも使ったような気がするけども、春真っ盛りのはずである。
「はずである」という言葉が使われる場合、現実は大抵録でもないというのはご存じの通りで、「苦しまなかったはずである」と書いてあれば多分苦しんだに違いないとか思うのが人情である。だからこの言葉が使われた場合は大抵の場合要注意である。
何が「はずである」のかというと、当然多田万里加賀香子の順風満帆ワッショイキャンパスライフの事であって、つまり「はずである」という事は「そうなってはいない」という事でもある。そこに暗雲を立ちこめさせているのはもちろん主人公たる万里に隠された「もう一人の万里」。
彼が消える時に抱え持った想いは実際の所、まだ消え去ることなく万里に張り付いているのであって、その亡霊をどうにかしないことには今の万里に悩みのない生活はやってこない。しかしここで最大の問題になるのは「一体どっちの万里の想いこそが万里にとって優先すべき、あるいは大事な想いであるのか」が誰にも分からないところ。
万里の前に否応なく過去を連れてくるのは、不幸によって精算し損なった過去そのものであり、今を楽しく過ごしていくための重要な関係の一つでもあるリンダその人である。誰かが悪いと言えればナンボか楽だろうが、強いて挙げれば悪いのは万里その人であって、強いて挙げなければ誰も悪くないという見事な泥沼を構成していた。
そうこうしつつも時は流れる。そしてまた誰も彼もがゆるゆるな大学生をやっているように見えて、それなりに必死であるという事でもある。過去に襲いかかられる万里に、何かに感づく香子、そして知らん顔が仕切れないリンダという面子に、一体どんなラストシーンが用意されているのか、まだ誰も知らない……。
という4巻です。

そうですねー

そろそろ万里と香子は一発ヤっといた方がいいんじゃないすかね?
いきなしぶっちゃけましたけどね。個人的な本音です。が……どうやらそうなってないところを見るとそういう準備が出来てないというのが正しいんでしょうなあ。香子がというよりヘタレ万里がですけど。好きだ好きだと思っているのに彼特有の後ろめたさがもう一歩を踏み出すことを躊躇させている訳ですよ。香子的にはひょっとしたらもうかなりウェルカム状態のような気がするんですけどね。
大体ですねえ、万里はヘタレの最上級系ですよ、本編中で、

そんなの香子に大して冒涜的だ。

とか寝ぼけまくった事を抜かしてやがりますからね。この野郎は香子を何だと思ってるんですかねー? 現人神かなんかなんでしょうかねー? というか自分の後ろめたい部分のある本音と向き合いたくないからそういった「穢してはいけないもの」とかって位置に押し上げてるんでしょうけどね。正直そういう勝手な思い込みとかって童貞っぽくて無様ですよねー。香子だってうんこするんですよ。ねえ?
・・・まあこんな風に万里の事を悪し様に書きまくってるのも、えー、つまるところ自分の身に覚えがあるからなんですけどね!

話の方は

進んでいるようで進んでいないという感じの一進一退って所じゃないですかね。
じわじわとリンダと万里の過去を本編に混ぜ込んで来ているので読者の不安感は徐々にMAX目指している感じで落ち着きません。万里は主人公だからとにかく七転八倒してもらうしかないにしても、香子には万里と上手く行って欲しいという気がするし(痛くて面倒くさいけど良い娘でもあるんだわ)、リンダはリンダで万里との事を上手く出来たらいいねと言う気がします(お調子者でついつい本音と逆を喋るのが混乱に拍車をかけます)。
結局のところ万里次第なんですが、彼は彼でぶっちゃけどん詰まり状態なので、もういっぺん頭をハンマーでぶん殴ってもらう位しか抜本的な解決策が見あたらないところが痛いです。自分に正直に! とかって次元じゃないんですもん。半ば二重人格になっちゃってますからね。もう真ん中で二つに割って、片一方を香子に、片一方をリンダにとかした方が良いかもしれないレベルです。
この4巻の中では誰が良かったとか言い辛い展開だったんじゃないでしょうか。自分が分からない万里はともかく、とにかくストーカー気質全開で痛い怖い所を沢山見せまくった香子に、踏ん切りをしっかりと付けられないためにあっちこっちに地雷散布中のリンダという案配です。うわあ、肩入れしにくいなー。いやみんな好きですけどね。
暗黒青春ラブストーリーとかそんな感じじゃないッスか! どこらへんがゴールデンタイムなんですか!? ・・・いやまあ、恋愛ごとに集中してられるってのは十分人生のゴールデンタイムですよね。・・・でも中に踏み込んでみると、相当ドロドロしているんですよねこのゴールデンタイムは・・・。

そういえば

ちょっと気になったのが本の薄さですかね。
今までよりページ数が少ないのでちょっと残念無念という感じでした。唐揚げを食べる量を減らしたりしてガス欠になっちゃったりしてませんか? などと考えたりする訳ですが、あとがきによるとまだ34歳らしいですねゆゆぽりん。ウホッ! 俺的には余裕でイケる年齢じゃねえすか! 全然関係ないですけどね!
年齢のことはともかく、本が薄いと悲しいです。料金的な意味ではなくて、話に没入していられる時間が必然的に短くなってしまうので、本大好き人間からすると「文字が大きくて薄い本」=「人の夢と書いて儚い……何かもの悲しいわね……」というアグリアスおねえさんが登場してしまう事態になるのです。まあ分厚いけど中身がない本は最悪ですが、たけゆゆに限ってそれは無いので贅沢な要求ではありますけど。
それ以外には特に文句はないんですけど、なんですかねこの「一言もの申したい」感。普通ここまでそんな気持ちにならないんですけど、やっぱあれですか、全力失踪中のゆゆぽが「もっと出来る子」とか思っちゃってるのがいけないんでしょうね。まあ先日も三冠馬オルフェーヴルが無茶なレースとかして話題になってましたけど、あんな気分ですかね。女性を競馬馬と比較して良いモンかどうかは別として。

総合

うーん、なんだかんだ言って文句言ってたりするしな・・・星4つ位ではあるまいか。
話はつなぎっぽいはずじゃないのにつなぎっぽい印象を受けるという不思議な出来です。面白いッスよ。面白いけどもう一波乱とかありそうと思ってたのに最終ページになっちゃった! って感じなのでこの星の数になってます。読者ってのはつくづく贅沢に出来てますね。でもまあ彼らのゴールデンタイムがどんな結果を出すのか、それをきっちり見届けたいという気持ちには寸毫のブレもありませんけどね。
少しだけ気になるのは、こういうゴールデンタイムって、後々「ああ、あの頃のぼくらは確かに光の中にいたんだなあ……」なんて事を「今のどこか不幸せな現実」から振り返った時に始めて分かる類のもののような気がするんですよね・・・それって、彼らの行く末が決して幸せにならないことを暗示しているようで、ちょっとドキドキです。せめて物語の中で位は、誰もが笑っている未来図を見せて欲しいなあなんて思ってしまうんですよセンセー。
イラストは”この人がなんで評価されているのか本当に俺には分からない”駒都えーじ氏です。意味不明一歩手前なファッション用語で描写される香子の姿は果たしてイラストでは正しいのか!? などと検証したくなりますが、そんな重箱の隅をつつくような事は正直どうでもよくて、とにかく奥行きが無くて動きが無くてついでに個性も無いようなこの絵柄が俺は大嫌いです。