輪環の魔導師 闇語りのアルカイン

輪環の魔導師―闇語りのアルカイン (電撃文庫 わ 4-25)
輪環の魔導師―闇語りのアルカイン (電撃文庫 わ 4-25)碧 風羽

アスキー・メディアワークス 2007-11
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ストーリー

辺境にあるミストハウンドという村にセロ、という名前の少年がいた。14歳で、薬師の見習いである。
彼はそれなりに優秀な魔道具職人の祖父の血筋なのに、自分は一切魔道具を「作る」才能に恵まれず、また魔道具を「使う」才能にも恵まれなかった。しかし祖父が地方の地方貴族のオルドバの保護下で職人を行っていたので、その祖父が亡くなった後も貴族の温情から薬師としての修行に励む毎日だった。
薬草を摘んだり、栽培して売り払ったり、日常的に役に立つ薬を作ったりして日々を穏やかに過ごしていた。だたし、妙にセロに対して距離感の近い(近くなろうとしている?)オルドバの娘・フィノの親愛の表現には、ちょっと困ったり、嬉しかったりしたのだが・・・。
そんな彼らの田舎暮らしに騎士団の一行が訪れた所から物語が動き始める。伝説の魔道具・環流の輪環と世界の謎を巡る異世界ファンタジーの1巻? かな?

うんうん

王道的なファンタジー作品ながら、読み応えのある作品に仕上がってます、という印象でしょうか。
食材はライトノベルでは珍しくないと言えそうな「剣と魔法」なのだけど、丁寧に仕上げられたという感じがして・・・作品全体から誠実さを感じる、と言えるのではないでしょうか。
ストーリー、世界設定、キャラクター描写のどれかが特に優れているという印象は個人的には受けなかったのだけど、オードブルから始まってメインディッシュ、そしてデザートまで安心して楽しめるコース料理、ですかね。庶民派フレンチ? うんうんそんな感じ。

キャラクター

主人公のセロは気弱でもなければ積極的とも言えない、一言で言えば職人気質というか・・・いや薬師なんだから当たり前なのかもしれませんけど、それが天職と言えそうな誠実さを発揮する少年ですね。至って「現実的」な性格をしています。

「フィノ、そろそろ屋敷に戻ろうよ。午後からお客さんが来るんだろ?」

貴族と一介の職人の「身分の違い」をちゃんと認識していて、そしてそれを自分から崩そうとはしない・・・そんな「固さ」を持った少年です。いかにも「一般人」という感じですかね。でもどうみても善人、という少年です。

で?

物語をかき回してくれるのは突然出現してくる悪人・・・魔族なのですが、それ以上に前述の貴族の娘のフィノと、「長靴をはいた猫」アルカインの存在が大きいですね。

フィノ

フィノはセロより年上の16歳なのですが・・・。

「ねえ、やっぱりセロもおいでってば。のんびりできて気持ちいいよ!」

泉での水浴び中の発言なのですが・・・それがいかに「危険な誘惑」に満ちているか、口絵のイラストを見ていただければよ〜く分かると思います。これが誘惑じゃなかったら何が誘惑というものなのか、さっぱり分からないという状況です。水に濡れて体に張りついた薄衣って・・・じゅるり。
さらに加えて、

「いいじゃない。このベッド、セロの匂いがして気持ちがいいんだもん。私の部屋のと交換して欲しいぐらい」

・・・もう好意がだだ漏れの挙げ句、時々「私のセロ」と所有格でセロを語っちゃったりします。困った16歳。いやー、まいったねこれ。

アルカイン

外見はもう本当に「長靴をはいた猫」という感じで、小さな剣を下げて、マントを羽織り、さらにすかした帽子を被った伊達男ならぬ伊達猫です。チャームポイントは肉球と会話にしばしば出てくる「三択」です。

「おや、知らないのかい? 都会の猫は喋るんだよ。田舎の猫は、訛りが酷くて喋れないんだ」

彼、というか彼の猫がこの物語の案内役ですね。生意気というか優秀な魔道具使いで、さらには有名な師匠を持つ実力派黒猫です。猫マニアには堪らないキャラクターかも知れません。

まあ

そんな周りのキャラクターに彩られつつ、セロは否応無しに祖父の残した魔道具絡みのトラブルに巻き込まれていき、そして人生でもきっと大きな決断となるような行動をすることになります。

総合

星4つ。
なんつうんですかね、優しいんですよ。キャラクターもストーリーも。
安心して読んでいられるという、良くも悪くもライトノベル的な所が魅力的ですね。安心して読み始めて、安心したまま読了出来るという作品に作者の良心みたいな物を感じます。後味の悪さがないのに、ちゃんと一定以上楽しませてくれるという感じがいいですね。
イラストは翠羽風氏ですね。カラーイラストの美麗さは特筆物です。とても色鮮やかでかつ幻想的。本編内の白黒イラストもなかなか構図や切り取るシーンが良いと思いましたね。うんうん、好感触です。

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