ディバイデッド・フロント(2)僕らが戦う、その理由
ディバイデッド・フロント〈2〉僕らが戦う、その理由 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 高瀬彼方,山田秀樹
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/04/28
- メディア: 文庫
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積み本消化中なんですけどね。
ストーリー
「憑魔(ひょうま)」と呼ばれる正体不明の生物に侵攻された世界。彼らは突如として現れ、人間達を蹂躙し、そして世界各地に破滅をまき散らしていた。
しかし、多大な犠牲を出しながらも人類は彼らの行動にある法則性を見出し、それを実現する事で憑魔の侵攻を「消極的に」食い止める事に成功していた。それは「隔離戦区」を作り出すという事。
憑魔の出現地帯にはばらつきがあり、同時に狩り尽くすとより爆発的に増殖する性質があった。そのため人類は地上の一部を隔離し、そこを戦場として「一定数の憑魔を殺し続ける」という戦闘をひたすらに続けていた。それは——終りのない戦争を意味していた。
未来の消えうせた戦場に否応無しに送り込まれる事になってしまった若者達の生き様を描いたシリーズ第二弾。
間違いなく
作品の魅力として挙げられそうだなあ・・・と思ったのは、
- 多くの価値観や感じ方が出てくるけれども、そのどれ一つとして作者は正解として扱わないし、また正しいとも思っていないのではないか。
というところですかね。
この物語は中心となる少年少女二人を語り手として紡がれる物語なのですが、この二人以外の人物が語り手になって話を作る場面もあります。そうした時、登場人物一人一人の生き方の違い、感じ方の違いが浮き彫りにされ、それをさらに第三者が見る事によってさらに「正しさ」という安易な正解に辿り着く事を読者に許してくれません。
一つだけ間違いないのは・・・兵士の損耗率が異常なまでに高い激戦区においても人は喜怒哀楽に浸り、恋をし、そして生きて死んでいくという・・・残酷なまでの「時」が支配しているということ。
分かりやすく、白黒の付けやすい、怒りも、罪も、許しも隔離戦区にはありません。人が人として当たり前のように無惨に死に、あるいは死より過酷な環境の中で生きているという事だけがあります
でもですね
そんな風に思えるのは各キャラクターの書き分けが非常に秀逸だからですね。
この本の主役はイコマ小隊という小さな小隊を中心に語られる話なのですが、この6名がそれぞれ実に良い味というか・・・個性を発揮していまして、彼らが重なり、時には離れて紡ぎ出す物語は群像劇として非常に読み応えがあります。
特に今回は外から「隔離戦区の真実を掴みたい」という意思をもった一人の女性士官・進藤未来という女性がやってくる事で、隔離戦区の中と外の違いと真実の持つ悲劇性を描き出しています。
物語ラスト付近の進藤未来とイコマ正体のスナイパー・筒井彩の人生の衝突はこの2巻の最高の見所の一つですね。
まあ
そうしたシリアスなシーン以外にも、いわゆる恋の話なんかもありまして・・・。
今回は上に出て来ている筒井彩が「恋」について熱く語ったりしてまして、笑いを誘います。いやー、恋に生きる女性っていいなあ。
「どうせ叶わないとか、どうせ届かないとか、どうせ自分なんかとか、いつか離ればなれだとか、歳の差だとか、妻子がいるとか……全部まとめて『それがどうした』ってのよ。本気の恋になっちゃったらね、そんなもんはどれもこれも、何の障害にもならないものなの! ていうか私だったらむしろ燃えるわね! 逆境が愛を育て、育てた愛で逆境を越えるのっ! だからどんと来い逆境! そんなもんに負けてたまるか、望むところよ——!」
「どう思う!? 乙女の真剣な恋心を受け止めない男とか、そういうのをはぐらかして楽しむ気持ちとか、そういうのって絶対許せないと思わない!?」
はっはっは——! 凄いねこりゃ!
でもごめん、その全部投げ出すのに躊躇いの無い貴女が俺なら怖い。
あるいはヒロインの宮沢香奈の相変わらずなモジモジウブウブ恋愛模様も素晴らしいものがあります。生き残ることには積極的になったみたいですが、恋はまだまだ消極的。
弱気な自分を改革するのです。私、宮沢香奈二等陸士は、いまが改革の時なのです……!
そしていつか、いまよりもっと、強く逞しい私になれたその時には。
改めて、土岐くんに、お礼を言おうと思うのです。
お礼かよ! せめて愛の告白じゃねえのかよ・・・! まさに恋愛消極王。
でもそんな宮沢香奈にも、作者は大事なことを作中で語らせます。
私の気持ちは複雑でした。うまく言えないですけど、強さって、他人に厳しい覚悟を迫るためのものじゃないと思うんです。そして弱さは、他人に甘えを認めてもらうための手段ではないはずで……。
強さって、弱い人に優しく出来るためのものじゃないんでしょうか。弱い人だって、優しさを通じてなら強さに触れられるんじゃないでしょうか。
・・・改めて繰り返しますが、この作品の中で、作者はどの価値観においても「正解」と呼べるようなすっきりした回答を用意していません。それは読者が自ら選んで、決めるものでしょう。
総合
星4つ。間違いなく面白い。
作者のいっそ清々しいとも言えそうなキャラクターに対しての突き放し方は悪くないですね。しかも今作ではイコマ小隊に重大な転換点もやって来ます。1巻を少しでも面白いと思ったなら、間違いなくこの2巻は買いですね。安定して楽しませてくれます。キャラクターが実に良い。
しかし・・・個人的にはもう少し「戦場の狂気」みたいなものを取り扱ってくれても良かったかな〜なんて思いますね。なんだかみんな格好良過ぎて私は読んでいてい微妙に凹みました。あ〜、自分がこんな状況に放り込まれたなら映画のフルメタル・ジャケットの某デブ一直線だろうな〜とか思ったんで。
イラストは山田秀樹氏です。やっぱりカラーより白黒イラストの方が個人的に好きですね。切り取るシーンも良い。特にある人の疾走する後ろ姿がとてもいいなあ・・・。