円環少女(7)夢のように、夜明けのように
円環少女(サークリットガール)〈7〉夢のように、夜明けのように (角川スニーカー文庫)
- 作者: 長谷敏司,深遊
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2008/03/01
- メディア: 文庫
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ス、ストーリー?
本書裏のあらすじには決まり文句の一文がある。
灼熱のウィザーズバトル第7弾!!
今まではこれで良かった。今までは。
この「円環少女」は、こねにこねまくってへ理屈なのか合理的な思考の結果なのか分からない設定で魔法を使う魔法使い共が跳梁跋扈し、彼らに<悪鬼><地獄>と蔑まれる人間とこの世界の軋轢を描いた、まさに「血で血を洗う闘争の物語」だった訳です・・・が!!!
何があった長谷敏司先生!!! 今作は「痴で痴を洗う馬鹿の物語」です!!
「円環少女」の世界観って、一歩間違うとこんなにまでコメディと相性がいいのね・・・と恐ろしく感じた7巻。どうやら「ザ・スニーカー」に掲載された短編を一冊にまとめなおしたもののようです。
元が短編集ですので
作品内の時間軸は2、3巻辺りから最新巻のあとを行ったり来たりします。
構成としては6巻の激闘を乗り切った仁の姿がプロローグという感じで描かれたあと、雑誌掲載分が(多分内容を改めた上で)載せられて、そしてまた現在の話が描かれて、また短編が・・・というサンドイッチ形式になっています。
これはとっても嬉しい心配りでしたね。私は雑誌の方を一切読まないので短編が存在している事すら知らなかった訳ですが、結果としてこの7巻を「6巻の後に続くメインストーリー」だと期待して買った訳です。でも読み進めてみるとどうやらそうでも無く「過去編」らしいという事に気がついて、実は結構残念に思ったんです。
が、途中で現在の重要なシーンがちゃんと挟まれるのと、過去を現在に繋げる描写があるおかげで、この7巻はただの短編集ではなくて次の8巻へと繋がる重要なプロローグとして機能していますね。
重要な部分のネタバレにならない程度に適当にかいつまんで紹介してみます。
Intro
現在(6巻以降)の仁の暮らしの一コマを描いた問題作。
色々あって完全な一人暮らしに戻った仁の元に意外な人物が現れる所から物語はスタートする。
「きずなちゃん。神和のところで、何があった? 何を見た?」
「神和さんが……花嫁修業をしてるんです」
皆様は覚えておいでだろうか。
かつて一度倉元きずなが神和家を訪れた際に神和瑞希がとっさに(?)ついた嘘を。倉元きずなは「倉元きずお」であって、瑞希ときずお(きずな)が付き合っているという話を。
・・・どう考えてもその場限りの嘘で、それにしても一瞬でも信じる人間が存在する事すら不思議な嘘ではあったが・・・。しかし・・・事態は予想を遥かに超えていた。その謎人物「倉元きずお」は神和家では・・・未だに実在の存在らしい!
どうやったらきずなが男に見えるのかサッパリ分からないが、とにかくそういう事になっているらしい! きずなはムコ殿扱いで何やら冷たい視線を浴びまくったらしい! 神和の連中は優秀なのに馬鹿なのか!? いや根本的に馬鹿なんだな神和の連中は!
そして、きずなを取り戻すべく現れる問題児。
「き————ず————なぁ————」
「き————ず————ばぁ————」
「き————ず————なぁ————。……家から……、婿は……自分で…つれもどせ……言われた」
実在しない人間・倉元きずおを取り戻すべく現れる瑞希。だらしなく語尾が伸びまくってます。なんなんだ。本当になんなんだ。
・・・まあ最終的にはインドとかで決着が付きそうですので、瑞希がまただらだらと涙を流す展開になったりするんでしょう。きっと。これだけだと意味がさっぱり分からないと思いますが、読めば分かります。つまり大事なのはインドですよ。ガンジス川で沐浴ですよ。
しあわせの刻印
1巻後の話で、あのグレン・アザレイが登場するより前の話ですね。
他の話と比べると血なまぐさい話ではありますが、それでもいつもより遥かにハートフルな感じでお送りする短編です。地獄に落とされた一人の魔法使いが、普通に家庭を持って暮らしていたところに振って湧いたトラブル・・・という感じでしょうか。基本的には家族愛のお話ですね。
あとは強いて言えば・・・いくらアレが隣の部屋から聞こえてくるからって、4時間に渡って聞き耳を立てているのもどうかと思う訳です。とにかくきずなはエッチな女の子という事が私の中で確定しました。ええもうエッチな女の子ですとも。というか思春期まっただ中だったら興味津々でも仕方がないか〜?
・・・ところで、きずなはつい一人遊びとかはしなかったんでしょうか!?
つながれる愛のしるし
・・・もうなんと言ったら良いやら。
名言、妄言、珍言の数々に一体どうしたら良いのかサッパリ分かりません。と言う訳で箇条書きテイストでお送りします。
- 武原仁
「いるな。今月のびっくりドッキリ魔法人間が」
・・・どうやらそういう話だったようです。
- 鴉木メイゼル
「メイゼル、あのな、ヒトをけなすのは、断じて正常な人付き合いじゃないぞ」
「……だいじなことよ?」
仁のすぐそばまで寄っていたメイゼルが、抱きしめるようにひらべったい胸へ手を当てる。
「体の痛さだけでこころを折られたら、人って卑屈になるもの。蜜でとろかすみたいに、ことばで、痛いのか気持ちいいのかわからなくしたげないと」
そっかー、人をけなすのにそんな意味があったとはなー。そっかー。・・・そっかー?
- 倉元きずな
「えっと……あの……『武原さんを殺して私も死ぬ』とか、……そんな感じかな?」
時々マジで怖いですよね、きずな。
- 某初登場の人物
「ダメです! ちょっ、初対面なのに警察は、警察だけはっ!」
警察に怯える魔法使い。ダメだ・・・。ダメ魔法使い過ぎる。っつーか、コイツ本当にダメ人間なんだわ。
「大神官さまは、棒読み気味におっしゃったのです! 『おまえの、人間の理解を超えたお花畑なこころなら、まことの愛にたどりつけるかもね』と! 『もういっそ、『愛』の奇跡を得るには、おまえくらいアレなほうがよいのかもしれん』と!」
・・・私が読了したのは、本当に「円環少女」シリーズの最新刊なのでしょうか!?
薔薇はうつくしく散る
メイゼル、生徒会長に立候補する・・・だけでもとんでもない話なのに、それに加えて
「待て! ワタシは変態ではない! ただの犬だ! さあ、犬とご主人様の、楽しい話をしようじゃないか」
ガスマスクをはめたおとなが、扉を開けてメイゼルのワンピースにすがりついてきた。
表紙を見る・・・確かに「円環少女」と書いてある・・・本文に目を落とす。この変態は賢猟大系の魔法使いだった。味と匂いを元にして、魔法を発動するという恐るべき魔術大系の、多分人間です。
「我々の世界における大魔導師とは、精神力が強い者でなければならない——。そう、強力な魔法につながる”味”を犬のウ○コがもっていたら、それを迷わず口の中に入れるのが大魔導師であり強者だ」
仁も、この世のあらゆるものをぱくぱくと口に入れる大魔導師を想像してしまった。
「…………犬のウ○コって、うまいのか?」
だが仁の質問は、ニガッタの深いところの傷を刺激したようだった。
「魔法使いがみんなラクに魔法使ってると思うな!」
ニガッタは涙目だった。
再び表紙を見る・・・間違いなく「円環少女」と書いてある。自分で引用した文章と本文に違いがないかを比べてみる・・・間違いなく原文のまま引用している・・・。
ハダカのこころで
二十代前半の美女が、彼女のすぐそばに座ってどら焼きを食べていた。白金色の髪をした透けるような肌の女性が、紀子の部屋でくつろいでいたのだ。
——————全裸で。
ハダカと聞いて、誰かを思い出した人〜(はーい、ワタシでーす)。そうです、あの人です。ちなみに全裸の不審人物のメインの被害者になるのは我らが眼鏡委員長・寒川紀子さんです。ハダカの人・・・こんなところで何やってんだ・・・。
彼女達の出会いはしばらく前に遡ります。
「あの、どうして裸なんですか?」
ぬれた髪を肌に貼りつけ、血の気の引いた唇がきっぱりとこたえた。
「戦士だからだ——」
犬をひろって飼う夢はこっぱみじんだった。紀子の中の、最近きたえられてきた変態センサーが、これはダメ人間だと告げていた。
理由になってねえ。
実は優秀な戦士なんですけどねえ・・・全裸だからなあ・・・。
「おろかな。人は全裸で生まれるというのに、服など着るから邪念をいだく。そんなものは気の迷いだッ」
ああっ、全裸を変態な人の趣味だと思って馬鹿にしてスンマセンしたッ!
とにかく寒川紀子さんはご苦労様でした。結果的にちょっと強くなったみたいですね。いいんだか悪いんだか。
あとこの事件のとばっちりを喰って仁はメイゼルによる「リアルSM」の被害に合いそうになりますが、まあそんなことは最早些細な事に感じたので良しとします・・・。
とにかく総合
満天星のような星5つ〜。
こんな話も書けたのか〜と感動するやら呆れるやらで大変な7巻でした。作者の人はコメディでも十分に飯が喰えると思います。というか何か悪いものでも食べたんでしょうか? 大丈夫でしょうか? 大丈夫なんでしょうね、多分・・・。
ちなみに短編の間には現在の仁をとりまくシリアスな状況がちゃんと描かれますし、ラストシーンではこの後に始まるであろう戦争が恐るべきものになるであろうという前兆がちゃんと描かれます。
全体で見たらコメディーシリアスーコメディーシリアスという感じで、読者は笑ったり真面目な顔になったりで実に忙しい本ですね。ああああああ〜、面白かった!
ところでどっかの会社がメイゼルとかのフィギュア作らないかなあ・・・あったら買うのに・・・。