人類は衰退しました(5)

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

ストーリー:4巻からちょっとだけ変更。

とにかく人類が衰退した未来。
人口も減り、技術も失われた未来世界。人類は緩やかに滅びの時を迎えつつありました。いまや地球は人間の物ではなく、妖精さんたちの住む世界で、元の人類は「旧人類」とでもいう位置となっていました。
主人公はそんな世界で最後の学校教育を収めた「かなり対人関係能力に問題のある」少女。その少女が故郷に「調停官」となって帰ってきたところから始まりました。
「調停官」のお仕事は、妖精さん(身長約10センチ、三角帽子、ちっこい手足)と人間の間を取り持つ仕事なのですが、はて、帰ってきた故郷では「調停官」の仕事などただの閑職に成り下がってしまっていたのです。
閑職といいつつも妖精さんがらみの事になるとどうしてもひっぱりだされる調停官。何かと巻き起こる変なトラブルに人間達は右往左往。今日も平和にトラブってますね辺鄙な村社会。
ところでなんということでしょう! こんな変な話なのにもう5巻ですってよ? という最新刊です。

5ページ毎に死の恐怖

とか過激な見出しを付けておけばひょっとしたら売り上げに貢献できるかも知れないなどと小癪な事を考えてみたんですけど、どっちかと言うとマイナスな作用の方が大きいですかそうですか。まあ人死には間違っても出ないような作風なので安心して下さいというか皆さん安心しきってますかそうですか。
で、今回は中編2つが載っていますね。一つは思い出話でもう一つはトンデモ話です。どちらも非凡極まりない出来になっていて、普通ならもうちょっと膨らませてそれぞれ別のシリーズとして展開したくなるようなアイデアが詰まっています。そういうのを惜しみなく放出してしまう辺りに田中ロミオ氏がマジカルベンツにまだ乗れない理由が隠されているような気がしますが、読者としてはネタはどんどん放出して欲しいので今のままでいいです。
ファンなのに作者の不幸を願ってしまうこの心理。ああなんと罪深い。贖罪のためにあと5冊くらいこの本を買おうと思います。嘘です。

で、一つ目の話ですが

主人公が学校に行っていた時の想い出話なのですが、出来の良さがハンパではありません。
少女がどうして学校に入り、どうやってそこで適応し、いかにして妖精に興味を持ち、そして友人達を獲得するに到ったのかが精緻な筆で書かれます。それは冗談抜きで繊細かつ大胆としか言いようがない物語作りで、物語に否応なく引き込まれてしまいます。
本当に凄いと思うのですが、描かれる沢山のエピソードに「無駄」と思える部分がないのです。しかし「遊び」はふんだんに盛り込まれています。この相反するような二つの要素を同居させるというのは誰にでもできる事ではないと思います。本当に限られた希有な才能の持ち主だけに可能な技ではないでしょうか。
私は田中ロミオライトノベルを書いてくれている事をとても嬉しく思います。

次、二つめの話ですが

もの凄くおっさんホイホイです。なんというか私なんて世代的に直撃コースで艦は大破、轟沈といった感じですね。何がどう直撃かというと・・・。

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・・・とまあこんな感じです。一体こんなもんどうやって話に絡めてくるんだというアレな代物ですが、がっちりと話に組み込まれています。もうネタの宝庫で分かる人はどこまでもニヤニヤしっぱなしという感じでしょうか。8ビットでピコピコからフルポリゴンでゴリゴリまで何でも来いです。
もう完全に発想の勝利ですねぇ・・・というか田中ロミオ以外の誰がこんな話を思い浮かぶって言うんだ・・・。

総合

★★★★★
この作者の脳みそのネジは数本外れており、歯車は錆びてギクシャクし、動力源は多分ゴム動力です。ねじった回数に応じてペンが奔る! とかそんな状態でしょう。でなければ説明の付かない事が多すぎます。一刻も早く田中ロミオ氏をUMA認定し、捕獲して繁殖するなり解剖するなり邪神に捧げるなりした方が良いのではないかと思われます。
気がついたら田中ロミオ氏の作品では「AURA」に続いての2回目の5つ星ですね。こういう言い方は余り好きではないんですが、才能ってあるところにはやっぱりあるんですねえ・・・。
それと絵師さんの山崎透氏との二人三脚は今回も絶好調ですね。今回はいつもほど派手なイラストによる遊びはありませんが、堅実かつ確実に仕事をしています。この絵師さんで本当に良かったって感じですね。

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