ジャストボイルド・オ’クロック

ジャストボイルド・オ’クロック (電撃文庫)
ジャストボイルド・オ’クロック (電撃文庫)うえお 久光

メディアワークス 2006-09
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おすすめ平均 star
starうえお久光藤田香コンビによる新シリーズ

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楽しかった!星5つに少し届かない位の星4つ。いやあ、続編出たら買う! でも、うえお久光はこの本の続編出すなら「悪魔のミカタ―魔法カメラ (電撃文庫)」と「シフト ―世界はクリアを待っている―」の、最低どちらかを完結させてからにしれ。じゃないと不買運動起こすぞコラ。「悪魔のミカタ」のあの中途半端な止まり具合は一体なんなんだと言いたいです。
・・・うえお久光藤田香の久々の復活なので、つい過去の記憶が持ち出されてしまいましたが、まあ、恨み言はとりあえずこの辺にして、うえお久光では初のSF。

この本の世界観

ジャストボイルド・オ’クロック (電撃文庫)」の舞台となる世界では人類は一度破滅を迎える事となったのだけれど、その危機を人間は「家電」と共生するすることで乗り越えています。人間は滅びから逃れるために生まれながらにして「珪素」というブラックボックスを持つ様になっています。
珪素」は聞き慣れない単語ですが、「シリコン」と言い換えると良く耳にするのではないでしょうか。半導体チップの材料となる元素です。つまりこの時代、人間は生まれながらにして謎の半導体チップを脳内に持ったまま生まれ、それを制御するために「家電」を生み出して必ずコンビで生きているのです。
「家電」なくしては「珪素脳」の制御が行えず人間は生きる事が出来なくなってしまっており、また同時に「珪素脳」があるからこそ「家電」はただの機械の枠を超え、自意識を獲得する事になります。彼らは完全な共生関係を築いており、ともに意識と感情を持ったパートナーを持って新しい暮らしを作り出しています。
またこの時代、生活基盤としての「国」は既に崩壊し「企業」に所属する事で人々は暮らしています。「企業」は「住人」を集めるためにイメージアップに勤め、暮らしやすい「企業の個性」や、独自の警察組織/平和と強さの象徴として「ヒーロー」といったものを作り上げました(いわゆる特撮モノのような)。そういう背景が物語の裏側にあります。

この話の主人公

アルバート・アカノジュウドウ・アカノの家電/人間コンビです。
アルバート(アル)は黒猫型の家電、ジュウドウ(ジュード)は人間です。アルはあくまで家電なので家電としての能力「目覚まし時計」も持っています。これは何かを比喩ではなく、普通の目覚まし時計としての機能だったりします。もちろん他にも家電は色々な種類があり、製氷機の家電やら、バズーカ砲(家電!?)などもいたりします。
アル&ジュードは探偵事務所をやっており、どうやら金と仕事は両方あまり無いらしいです。・・・彼らについてすっごい適当な人物説明をすると、知っている人は神林長平の名作SF「敵は海賊・海賊版 (ハヤカワ文庫 JA 178)」のアプロ(猫異星人宇宙刑事:衝動のままに生きる能天気な猛獣)とラテル(人間刑事:熱血と復讐のレイガンぶっぱなし野郎)とAI搭載フリゲート艦のラジェンドラ or カーリーを想像すると、結構近いと思います(イラストは全然違うけど)。

もちろん

この二組の作品の主人公コンビの性格や境遇や二人の関係や職業やライフスタイルは全く違います。それでも引き合いに出した理由が、「作品全体ではその他にも参考にしたと思える所がある様に感じた」からです。これはうえお久光なりの「敵は海賊」に対してのオマージュと言うべきなのでしょう。
主人公二人はハードボイルド&ポジティブな生き様を目指しているのですが、彼らの過去は既に重くてハードボイルドです。
ただし、二人のもつポジティブさのためかそれをあまり感じさせない作品です。物語序盤で彼らの重い過去はある程度分かる様になっているのですが、でもシリアスにはなりきら(なりきれ)ない。それがこの物語の一つの味です。
ジャストボイルド・オ’クロック (電撃文庫)」は、主人公の二人を中心に描かれる、人間と家電のあり方と、ヒーローの価値と、正義の意味と、ちょうど良い人生の「ゆで加減」を模索する物語です。

物語内での出来事

かれらはとある理由から「ナノマシン=ウイルスの作者を捜して欲しい」という依頼を受け、各企業の持つ「ヒーロー」達が暗殺されるという事件について知る事に。そしてそこから自らの過去に関わる事件に巻き込まれて行きます。
うえお久光の物語にありがちだけど、基本的に主役のジュードはかな〜りモテます。まあハーレムルートとまでは行かないけれど。

しかしモテモテでもあまり違和感を感じないのは、それなりにジュードが魅力的に書かれているせいでしょう。たった一冊だけど登場人物(特に女性)は結構数が出ているのですが、読んでいて混乱しないようなうまいキャラ設定が出来ているのは、さすがうえお久光といったところでしょうか。ついでに言えば家電のアルは黒猫としてとても可愛い。いたらぜひ飼いたい。
世界観も独特なものが作り出されている割には理解に苦しむ様な要素も少なく、すんなり入って行けると思います。個人的に読んで損無し、の作品です。でもやっぱりその前に未完結の作品を完結させてほしいなあ・・・。うえお久光は全身を真っ赤に塗って、通常の3倍のスピードで原稿を書くのがいいと思います!